アップデート
「だけど、何でお前だけ触れる事ができるんだ?」
ディスプレイの向こう側で手を顎に触れ小首を傾けながら視線をあちらこちらへ動かしていたランドールさまがある一点の方向で視線を止めた。
「あれは何だ?」
右上斜め方向にこちらからは見えない何かがあるようで。
じっと見ていたランドールさまは、ぴょんとジャンプしたかと思ったら。
え?画面に横1本の太い黒い線が入ったと思ったらお真っ暗になったんだけど。
え?え?え?何かのバグ?
スマホ壊れた?確かに古かったけどそれは最悪な事態!
もし新しいスマホにした場合、今のこの関係はどうなるの?
インストール?そんなソシャゲみたいな事したくない!
やっと、やっと思い出したのに!
そんな中静かに画面の中央に白の横線が入り、ランドールさまが映った。
そのランドールさまに一瞬違和感。
ああ。さっきと違う衣装になってたからか…。
さっきまでは白のワイシャツにグレーのジャケットを羽織っていたのだが、今は黒とボルドーカラーをあしらった中世英国風宮廷服をお召しになっていた。
「か…、か…」
言いたい事はたくさんあるけど、それよりも何よりも何この眼福感!
「かっこいい!!」
かっこよすぎる!
「何だかよく分かんねーけど、オレの右上に赤く点滅してるボタンがあって、押してみたらこうなった、今はそこになにもねぇ。今までもあんなとこ何もなかったのにな」
「ん?」
何だそれは?
千代子は課金してキャラの服を代えたりしていた。
私はもちろん無課金ユーザー。
赤いボタンとは一体なんなのだろう?
「何か特徴みたいのなかった?」
「うーん。あ、そう言えば何か文字が書いてあったな。確か…アッ、プ、デート?みたいな文字が書いてあった」
「アップデート?」
ほえ?意味が分からない。
アップデートってこっちがするもんなのに、向こう側のキャラがアプデなんて。
うーん、まぁ今更そんな小さな事考えていても仕方がない。
そもそも。前世に想いを慕ってた相手がソシャゲの中にいるだけで説明不可能なのだから。
「何だか嬉しそうだなお前…」
画面越しにまで伝わる歓喜の顔ってやばい、やばいよね。
でも、隠しきれる訳ないよ。端正のとれた顔立ち威厳ある彼にこれ程似合う人他にいないよ、こんなにかっこいいんだもん!
「でも、オレはこの格好あまり好きじゃないんだが…」
「え?どうして?」
こんなに似合うのに…と言うかこれでこそランドールさまなのに!
「…、オレはお前と同じような服を着てみたかった。こんなんじゃあの時と同じだろう?お前と同じ立場でいたかった」
ああ…。
ランドールさまからそのような事を言われるなんて思いもしなかった。
私が感じていた想いをランドールさまも想っていらしたなんて。
そんな夢みたいな事…。
実際のそれは夢よりも儚く感じてしまい、怖くなった。
ランドールさまのお側に行きたい。
ランドールさまと同じ景色を一緒に見たい。




