想い
「明日からテストがあるから、あまりスマホに触れないので、今日は紅蘭とずっと一緒にいたい」
なんて思い切り甘えた言葉を言ったところで画面の向こう側の彼には全く伝わらないのだが。
どうしてなのだろう?私は自分の前世らしき記憶を思い出した。
にも関わらず次元の違う彼には言葉が伝わらない。
まぁ、記憶が戻れば言葉を交わせるなんてチートのようなマニュアルどこにも無いのだが。
そもそも、何故このような事になったのか?改めて考えても結論は出てこない。
前世で私は君主であるランドールさまを ずっとお慕いしていた。
叶わぬ恋だと何度も何度も言い聞かせた。
きっと言葉を交わす事も叶わない、むしろ私の事を認識してもらう事すら夢の夢だった。
そんな中で深夜の厨房に突然現れたランドールさまとの出来事。
初めてランドールさまが私の名を呼んでくれた、私の事を見てくれた。
それだけで良かったのに。
それなのに、どうしてあの日想いを打ち明けてしまったのだろう?
想いを打ち明けるってある意味自己満足よね。
相手の気持ちなんてお構い無しじゃない。
「お前はいつも言ってたな。俺の目に自分は映っていないと。そんな事ない。お前がいつも螺旋階段の手すりを磨いていた事もちゃんと見てた」
あ!
そんなところを…。ランドールさまがお立ちになる螺旋階段の手すりの場所。
ランドールさまが螺旋階段で唯一お手を触れる場所。私はいつも念入りに磨いていた。
そんなところまで、ランドールさまが見ていたなんて。
恥ずかしくて顔が赤くなる。
「俺が厨房に行ったのは偶然だと思っているだろう?」
「え!」
「あの場にお前がいる事知ってた」
「え!」
くすっと形のいい口角を上げたランドールさま。
「もう一度お前に逢いたくてお前にこの想いを打ち明けたくて、お前と同じ身分でいたくて。常にお前の側にいたくて。お前と当たり前の日常を送りたくて俺は今ここにいる」
「……」
「まさか、それがこんな事になるとはな、次元違い……」
幸せ過ぎて涙が出てきた。
まさか、ランドールさまがそこまで想ってくれていたなんて。
それなのに私はランドールさまの事全く覚えていなかった。
「泣いてるのか?俺、何かおかしな事を言ったか?この窓ガラス何とかならねーか?」
ディスプレイからランドールさまの頬に触れると、私が触れた場所をランドールさまが訝しげに触れた。
「今何かしたか?」
まさか。
もう一度同じ場所に触れると彼は同じようにそこに触れた。
「今触れたのか?」
「はい!」
「そうか。お前からは触れられるんだな」
長い指で自分の頬を掻いて嬉しそうに微笑ってくれた。




