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思い出したか?

ただ、彼の事を思うだけで幸せを感じた。姿なんて見えた日に急速に動く鼓動と共に心が踊り出す。

想いが届かない事なんて初めから分かっていた。

多くは望まない、ただ、ただ、私の存在

に気付いてさえすればそれだけで私は幸せだった。



「まだ何も思い出さないの?」


昼休み、純に言われた一言が引っ掛かっている。

何も思い出さないって何?

いつもの覇気の無いぼーっとした純からは想像できないほど、真っ直ぐ強い眼だった。

放課後純に続きを聞こうとしたのに純の姿は無かった。


『おい!危ねーぞ!』


紅蘭の声ではっと我に返り立ち止まった。

やば、もう一歩前に出てたら駅の柱に激突してた…。


「ありがとう…」


千代子の真似をして首にぶら下げるようになったスマホから仏頂面の紅蘭が見えた。


『考え事か?』


「うん…。ちょっとね…」


『よく分かんねーけど気を付けろよ』


前にも言ったが私の言葉は彼に届いている訳ではない。

なので、これは決して会話ではない。

それでもやっぱり不思議だ。

紅蘭が次に言う言葉を予測できるようになっていた。

もしかしたら紅蘭もそんな風に私と会話しているのかもしれない。

…ん?ん?紅蘭はただのゲームキャラクター。

心を持たないただの無機質な存在。


『どうした?』


「……ねぇ、紅蘭、紅蘭って一体何なの?」


私のスマホを乗っ取ってる時点で普通のソシャゲじゃない事は確かなのだが。


『なぁ、お前自分の名前入力する時、何でリリアにしたんだ?』


「え?」


インストールしたばかりのゲームにログインして自分の名前の入力画面、あの時の私…一切の迷いが無かった。

頭の中にその名前しか思い浮かばなかった。


『リリア…、ずっとお前に会いたかった。ずっとお前を探してた』


これもゲーム進行の中でプログラミングされている言葉なのだろうか。

でも…。

何か引っ掛かる。

私は何でこのゲームをインストールして、どうして紅蘭を選んだ?


『まっ、そんな事言ってもお前の記憶が戻らなければ意味がないんだけどな』


記憶…?

純の言葉とリンクする。

記憶…。

私の記憶…。

心が痛い…。

私、大事な事を忘れてる…?

紅蘭のシルバーグレイの瞳がじっと私を見つめている。

私、この瞳に見つめられた事ある!

あ…最初からそれは分かっていた事じゃん。

私の夢に出てくるあの人…。

銀色の髪をした銀色の瞳…透けるような白い肌をした…あの人に似てるって。

でも、それは夢の中の事で。

夢は自分の潜在意識の世界で。

そんなのずるくない?

存在しない世界での存在しない人。


『少しは思い出したか?』


それでも…。

何かに捕まれたみたいに胸が痛くて、呼吸が苦しくなる。

私、以前こんな気持ちになった事ある!

ドキドキして相手の事見えなくて、見えないくせに見たくて、少しでも長く彼の事を見ていたくて、目なんて合うはずないのに、ずっと見てた。

私、彼に恋してた…。





























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