毎日
『今日もあちーな。こんな暑いのにお前、ちゃんと自分の任務を全うして偉いな』
満員電車の中私の彼設定の紅蘭はスマホの画面から私に向かって話し掛けてる。
自分に向けられているこんなにも優しい笑顔を見ると今日も1日頑張れるようになっていた。
相変わらず、言葉が届き会話としては成り立つ事は無いがこの生活を続けていくうちに当初感じていた違和感を感じなくなり、彼に癒されるようになっていた。
私は俗に言うヲタクではない。
「私も早く紅蘭攻略したーい」
電車の中吊り広告には、紅蘭が大きく映ったポスターが揺れている。
それを見た女子高校生達がスマホを開いて、キャキャっ声を上げている。
私は……ヲタクでは無いと思っていた。
アニメは昔から好きなので、毎クール新しいアニメは必ず見るようにしている。だが、アニメはアニメとして見ているため、アニメのキャラが初恋だとかアニメキャラにガチ恋をすると言う意味が分からなかった。
意味が分からないが、そんな風に次元の違う人を同じ世界に存在している人と変わらない想いで見ている人達の事を引いたりはしない。
むしろ逆にすごいと尊敬さえ覚える。
次元が違うと言う事は絶対に出会う事は叶わない。
同じ空気を吸う事さえ叶わない。
自分の存在に気付いて貰うことが叶わない。
次元が同じなら想いは叶うのか?
例えばアイドルの事を好きだとしよう。
そのアイドルは自分の事を好きになってくれるのか?
ライブ会場で目が合ったと錯覚するかもしないがそれは自分の存在を認識してくれたとは違う。
それでも、一瞬でもその人の意識の中に自分を残す事ができた。
だけど、次元が違うと言う事は天地がひっくり返っても相手が自分に気付いてくれると言う事は無い。
それで幸せなのか?
何かの番組でヲタクの討論会のようなモノがやってて、二次元を好きな理由の一つに、
『二次元は裏切らない』
それを聞いた時、なるほどと思った。
相手と同じ場所に立つ事ができない変わりに自分の思うようにキャラの心を動かす事ができるのだと。
私は次元がどうのと言うより他の誰かの事を好きになった事が無いから、好きと言う気持ちが分からないのだけど。
「お前とこんな風に同じ時間を過ごせるだけで俺は幸せだ、ありがとな」
一定の割合で彼はその言葉を繰り返す。
その言葉の意味は分からないけど、何でだろう。
そう言われる度に心がくすぐったくなる。




