千代子のソシャゲ
「で、そのままアンインストールしないで生活してる訳?」
学校の帰り道、スクバを肩に掛け片手でシェイクを飲んでいた千代子が小首を傾けて聞いてきた。
「うん…」
「だから、私のラインの返事も既読にならないのね、おかしいと思ったー。てか、1日中ホーム画面乗っ取られて成り立たない会話されて、それ最早ソシャゲじゃないやん、おまけにスマホの機能もなしてないし、だいぶ不便やん」
最後の一口を飲もうと頬が窪むほど吸い上げる千代子を見て、お顔のいい子は何をしても事故になる事が無くていいなと思ってしまう。
隠し撮りでさえ可愛く映る千代子にずっと憧れを抱いてる。
「確かに」
「確かにじゃなくてさ、絶対そのソシャゲ可笑しいって!ちょっと私もインストールしてみようかな」
言うが早いか首から下げているスマホのロック画面を解除して、サササとインストールしてしまった。
「ふむふむ、はれ?インカメで自分の顔を撮る?そんなシステムあるんだー、ふぅーん、チュートリアルとかも普通のソシャゲと同じ…」
インカメで写真を撮ることに抵抗はあったみたいだけど慣れた様子でパッパと登録を済ませ、チュートリアルに突入…。
さすが千代子。めちゃめちゃ可愛いアバターになって画面に現れていた。
はれ?ここでおかしな事に気がついた。
千代子のローディングが非常に短い…。
一秒も無いほどのローディングで、ゲームは進んでいく。
私の時は事あるごとにローディングを挟んでいたのに。
あれ?何だろう?私と全然違う。
「どうしよっかな?誰を選ぼうかな?あ、このコめちゃ可愛い…。こう言う仔犬系男子大好き」
そこでまた私と違う事に気が付いた。
このゲームにはシークレットキャラがいると言うこと。
シークレットキャラは文字通りシルエットしか映っていないけど、間違いなくこのシルエットは紅蘭だ。
「ちょっと見せて」
千代子のスマホを借りて操作してみても、やはり紅
結局、千代子は私が予想した通りのキャラを選んでいた。
『僕を選んでくれてありがとう!』
宣材ボイスと共に彼、千吉良彗くんが画面から満面の笑みを見せてくれている。
ふつーーうのソシャゲ画面。
紅蘭が現れた時とは違う。
画面の向こう側の紅蘭は一瞬次元を超えたのかと思うほどはっきりと私を見てくれた。
手を伸ばせば触れられる、呼吸さえ伝わるのでは無いかと思うほど彼の存在を感じる事ができた。
このまま画面の中に引き込まれてしまう、もしくは画面の中から彼が出てくるんじゃないかとそんな想いの狭間に経たされていた。
「ふんふん、普通のゲームだね。なかなか面白いかも?」
私の想いとは別にサクサクとゲームを進めていく千代子。
「ねー、ねー、このコめちゃめちゃ私に懐いてくるんだけどー、こんな最初から好感度マックスのゲームってあるー?」
元から乙女ゲームが好きな千代子の好感度もグングン上がっていくっぽい。
おかしいな?私のゲームは一向に進んでない。
そもそも、このホーム画面から他にアクセスできないからゲームも進められないんだけど。
スマホを取り出すと、目を閉じている紅蘭がいた。
眠ってるのかな?
端正の取れたお顔は目を閉じているだけで美しい置物のように見える。
かわいい…。
「リカのその紅蘭ってキャラ、シークレットキャラではあるけれど、大人気みたいね」
千代子がネット検索を掛けて見てみると、確かにこのゲームの中で一番の人気キャラみたい。
全てのキャラを攻略すると現れるキャラらしいが、みんな紅蘭を目当てにゲームをしているらしい。
私はスマホ画面の中で眠っている紅蘭を見て。
触れてみたいと言う欲望にかられるが。
うーん、このまま寝かせといてあげよう、と優しい気持ちが勝ちスマホを鞄に戻した。




