記憶
取り合えず、これから学校に行くのにスマホからこのまま訳の分からない音声が聞こえ続けるのはさすがにまずいのでミュートにしてみた。
それなのに…。
「おい、いい加減無視すんなよ。オレが呼んでるんだぞ」
音声は消える事は無かった。
ダメじゃん、どう言うこと?
もういいや、私は電源をオフにしてスマホを鞄に閉まい様子を伺った。
…、…、良かった、大丈夫そう。
電車の中でスマホがいじれなくなり、手持無沙汰を感じ、流れる景色を見ながら今朝の夢を思い出していた。
いつから私はあんな夢を見るようになったんだろう?
いくら洋画が好きだからってこうも頻繁にあんな夢を見るもの?
間違いなく日本と違う国、明らかに人種の違う人達。
何か今まではぼんやりとしか覚えていなかったのに今朝の夢はハッキリと覚えてる。
何か1本の映画を見ているようで楽しいな。
「おはよー、リカ!」
改札口を抜けると人混みの中千代子と純がいた。
「あれ?待っててくれたの?」
「何かぁ、今日朝練無くて特にやる事無かったから待ってるって、ラインしたけど既読つかないしぃ」
純はこんな調子でも男子バスケ部のエースらしい、いつものマイペースで何考えてるか分からないこの人からはまるで想像できない。
「別にあんたはどうでもいいけど、千代子は逆方向じゃない?」
「うん、学校近くまで歩いてたら駅に戻る純が見えたから追い掛けてきた」
「あ、なるほどね」
そう言う事ね。こんな見え見えに好きアピール出してるのにチョウがつく程鈍感な長身男は全く気が付かない。
今だって千代子の顔少し赤くなってるのに。
身長が高過ぎて人の事見えてないんじゃないのかしら?
「おい、勝手に電源切るなよ」
……ん?
鞄の中から騒音の中でもはっきりと低音ボイスが聞こえてきた。
まさか!
「え?今の何?」
千代子と純がじっと私の鞄に目をやった。
「えっとー…」
スマホを取り出すと、相変わらず不機嫌そうな紅蘭が写っていた。
「何これ?」
「実はね…」
私はソシャゲをインストールしてから、さっきまでの話をした。
「え?何それ?何かのバグ?てか、やばいじゃん、それ!」
「うん、私もそう思う」
「でも、面白そう、あなた紅蘭って言うの?」
好奇心でキラキラの目をした千代子がスマホの画面に向かって話し掛けた。
だが、しかし…。
無反応の紅蘭。
「えー、何これ?ちょっとリカ何か話してみてよ!」
「え…」
恐る恐る紅蘭に声を掛けてみた。
「えっと、あなたは一体何なの?」
…束の間の静寂。
結果は同じだった。
私の声は届いていないようで、ふわぁーと生欠伸をした紅蘭は眠そうに目を擦っていた。
「やっぱりただのソシャゲじゃん、つまんないのー」
「でも…勝手に目覚まし機能ついてたり電源入ったり…」
「そんなに嫌ならアンインストールすればいいだけじゃん」
あれ?また純がいつもと違ってハキハキと言ってきたので驚いて見上げると。
あっかんべーと言うようにベロを出された。
もう訳分からない、本当にアンインストールしようかな?
と、スマホの画面に触れると、紅蘭の口が開いた。
「本当に何も思い出さないのか?まぁ、思い出さない方がいい記憶もあるが…」




