モーニングコール
「おい、いつまで寝てんだ?おーい、朝だぞ!」
ふぇ?
いつも設定している目覚まし音とは違う音声が私の目を覚まさせた。
え?私こんな音声設定してたっけ?
低くぶっきらぼうだけど深みのある声。
え?
スマホの画面を見て驚いた。
「え?何で?何であなたが写ってるの?」
スマホの画面いっぱいに昨日インストールしたばかりのソシャゲのキャラが写っていたのだ。
腕組みしたままの不機嫌そうなシルバーグレイの目。
「えっと、これって?このゲームってこんな目覚まし機能もついてるんだっけ?」
「いいから早く起きて支度しろ」
「えっと…」
まぁ、いいか、今はそんな事考えてる暇ない。
クローゼットから制服を取り出し、着替え始め、何となくベッドに置いたままのスマホの画面を伏せた。
そう言えば…、今朝の夢はよく覚えてる。
まさかの新キャラ登場だったな。
主によく似た…主の弟。
私によく懐いてたな。
私?私と言っていいの?
まぁ、私の夢なんだからいいんだよね。
今回ははっきりくっきり覚えてる。
私、主の弟にコクられてた…。
思い出すとむず痒くなりブルブルと頭を振った。
着替えて、ご飯食べて、支度して、電車に乗り込む。
全く変わらない日常。
ただいつもと違うのは…。
「おい無視すんなよ?聞こえてんだろう?」
スマホから延々に聞こえるソシャゲボイス。
あまりにもうるさいからミュートにしたはずなのにそれでも声が聞こえてくる。
周りの視線が気になるものの意外にも満員電車の中でそんな事気にする人はいなかった。
「おい?聞こえてんだろう?」
どうしよう、これ?これ普通に返事していいものなのだろうか?
渋々スマホを手に取りロック画面を解除する。
寝起きで見たまま不機嫌そうな顔の紅蘭がそこに写っていた。
かと言ってスマホに直接話すのは勇気がいる。
だってこれはただのソシャゲでしょ?
スマホに向かって話し掛けてもいいものなのだろうか?
話し掛けて普通に無視されたらそれはそれでめちゃめちゃ恥ずかしくない、私?
そもそも電車の中だし…。
迷いながら、画面に触れると。
「くすぐってぇ」
紅蘭がくしゃっと顔をほころばせた。
もう一度タッチすると。
「今日も1日頑張れよ」
うん、ソシャゲっぽい。
ソシャゲって画面にタッチする度こんな風に言葉を変えるものね。
いやいや、でも、ログインしていないのにこれはやはりおかしいんではないか?
そもそも、私のホーム画面はどこにいった?
何でこやつが当然のようにホーム画面にいるんだ?




