水に浸けると増えるシンデレラ
──ゴーン……ゴーン……
日付が変わる事を告げる鐘の音が鳴り、シンデレラは頬張っていたエビフライを慌ててバリバリと尻尾ごと咀嚼した。
「大変! もうこんな時間……!!」
シンデレラは唐揚げ、クラッカー、ピザを手当たり次第タッパーに詰め込み、冷やしてあったワインを小脇に抱え階段を颯爽と駆け降りる。
「あの美しい娘は……!?」
王子は口をリスのようにパンパンに膨らませたシンデレラが走り去る姿を見て慌てて後を追い掛けた。酒と競馬以外に喜びを見いだせない王子が女性にときめく姿を見て、傍に居た大臣はそっと涙を拭った。
──ガッ
「!!」
慌てて駆け降りたシンデレラはガラスの靴が脱げてしまい、そのまま庭園の泉へと…………
──ボチャーン!!
落ちた。
頭から落ちたシンデレラ。足だけが泉から出てピクピクと動いている。王子は慌てて泉へと入りシンデレラを助けようとしたが、泉が強く光り輝き王子は思わず目を覆った。
「貴方が落としたのは、この【シンデレラ】ですか? それともこの【ヤンデレラ】ですか? それともこの【ツンデレラ】ですかぁ?」
片言なアジアンテイストの女神が泉からザブンと顔を出し、三人のシンデレラをペイッと放り投げた。
「王子様と結ばれないなら私……ガラスの靴で喉を斬るわ……」
目の下にクマがあり髪はボサボサのヤンデレラ。ドレスは破れリストカットの血の跡が点々と模様のように付いている。
「べ、別にアンタなんか何とも思ってないわよ……!?」
ツンツンと棘のある言葉で周囲から距離を置こうとするツンデレラ。しかし実は彼女、人一倍寂しがり屋で素直になれないだけなのである。
「えっ!? ……わ、私が三人!?」
シンデレラは無事だったタッパーから唐揚げをひょいっと摘まみ、モグモグと食べながら驚いてる。どんな時でも食い気丸出しなのが彼女の可愛らしい所である。
「う、美しい娘が増えた……だと!?」
王子は驚き戸惑い慌てふためきのたうち回りました。そして気付きました。
「これは…………ハーレムの気配……!!」
王子はニヤつき目尻が急転直下の大暴落で駄々下がりしました。頭の中はスケベ一色です。いきなり三人纏めて相手しようと思う辺り、王子は女癖が悪いです。
「王子様は……私の物…………」
ヤンデレラが王子の腕を掴みグイグイと体に押し当てました。
「な、なによ! 私は別にアンタの為を思って…………!!」
ツンデレラも負けじと王子の腕を掴みグイグイと体に押し当てます。
「モグモグモグモグモグモグ!」
ピザを頬張りながらシンデレラも争いに参入しました。
「こ、こらこらあまり引っ張らないで!……やっぱりもっと引っ張って!」
王子はこの時初めて生まれてきて良かったと素直に感動しました。しかし三人の娘はそれぞれ気性が激しく、三人纏めて娶るとなれば納得がいかないだろうと王子は思いました。
「……ならば!!」
王子は閃きました。
「私も三人に増えれば良いのさ!!」
──ボチャーン!!
王子は泉へと飛び込みました! 見事な飛び込み!ノースプラッシュです!!
王子が泉へ飛び込むと泉は強く光り輝き、中からアジアンテイストな女神が現れました。
「貴女達が落としたのは【酒乱の王子】ですか? それとも【賭け狂いの王子】ですか? それとも【女癖の悪い王子】ですか?」
「……私だけの白馬の王子様」
「世界一優しい王子様よ!」
「ふ、普通の王子様です」
その答えにアジアンテイストな女神は表情を曇らせました。
「貴女達は嘘つきですね。ココには酒乱でギャンブラーでスケベ垂らしの王子しか居りません。よって全てボッシュートです」
──ブクブクブク……
三人の王子は泉の中へと消えていきました…………
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