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音楽同好会 3

 軋むパイプ椅子に腰を下ろした後は、俺と西東さん宛に改めて同好会の説明が知谷先輩から為された。

 さっき「例外」と口にしていたのは、月に一度、月末の平日最終日には必ず同好会の参加しなければならない、という内容だった。うへえ。

「新入会員もこれで五人になったことだし、月末の歓迎会がたのしみだねー。あははは」

 知谷先輩がそう言うと、あとはテキトウにヨロシク~、と追伸しそのままイヤホンを付けて目を閉じてしまった。

 マジで何すればいいのこの同好会。


 放任された俺たちは顔を見合わせていた。

「なんかごめんね、巻き込むような形になってしまって」

 せめてもの社交辞令を西東に言った。いやだって俺悪くねーし。

「いえ、こちらこそ……それに神地君が入るなら、私は――」

 そこまで言って、不意に息をのむ西東。なんだって?俺が入るなら?

 ここで後ろから馬鹿でかい声と肩に平手の衝撃。

「神地と西東、よろしく頼む!!がっはっは」

「大門先輩、俺らは何をしたらいいんですか」

「何って、何でもだよ。好きなことを好きな時にするといい!!基本は音楽に関する事だが、音楽以外の事をしたっていいのだよ」

 俺の鼓膜を振動させる頭上の大男が高らかに意味不明な発言をした。

「ただ、今日は居ないが、頻繁にお菓子やら飲み物やらを持ってくる奴がおるのだよ。それ目当てでここに来る会員も少なくはないぞ!!がっはっは」

「お菓子……」

 西東がお菓子に反応して、すぐに赤くなって俯いた。うん、お菓子おいしいよね。


 その後は何となくの流れで俺と西東は天文学室を後にし、二人で学校を出た。

 女の子と並んで歩くとかなんてボーナスタイムだよ。

 考え込むように顎にこぶしを当てながら歩いていた西東が、

「神地君、明日は部活、いきますか?」

 何故か目に星が宿っている。正確には同好会、な。

「あー、どうしようかな……」

 本当どうしよう。面倒くささと、西東さんとを天秤にかけて本気で悩む。

 俺が天秤を揺らす間も、期待の眼でこちらを見てくる。

 お、そういうことか?さてはお菓子が食べたいんだな。可愛すぎんだろ……。

「じゃあ、行くよ」

「本当ですか?それじゃあ私も行きます」

 ずっとそうだけど、なんで俺に合わせるんだよ。行きたいなら一人ででもいきゃあいい。

 いやまあ西東さんが居るなら言ってもいいけど。むふ。


 こんな感じで何をしていいかもわからない同好会に数回出向く事となったのだった。

 これと言って親密な友達もまだいない俺は特にやることもないし、何より西東さんのような美少女とお近づきになれるならどんな野郎でも大抵の面倒事は我慢できるだろう。それが男ってやつだ。

 


 長い回想はここまで、教室に入った俺は朝のHRが始まるまでの間、またしても思索に耽る。


 何故西東さんは俺に対してこんなにも親しげなのだ?

 この春、つい一週間ほど前同じ高校の生徒になり、偶然同じ同好会に入る事となっただけの、ただそれだけの関係だ。

 それなのに、見学に行く際も、入会の決定さえも俺に選択を――自意識過剰かもしれないが――委ねていた気がするし、なにより気になるセリフを言っていた。


――神地君が入るなら、私は。


 ここ数日脳内で反芻する西東の言葉が、どういった意味を成すのか、どのような理由からくる言葉なのか、という「苦悩」がここ最近の俺のトレンドだ。


 幼馴染でもなければ、同じ中学だったわけでもない。

 単純に、自分で決められない、他人に流されやすい優柔不断なお嬢様っていう可能性もあるにはあるんだけど。

 どうしても、ね。

 どうしても、思春期――自分で言うのもアレだけども――の男の子ともなると、都合よく解釈してしまうものだね。

 甘いものを作ってくれたり、一緒なら同じ同好会にも入ってしまう。

 それは俺に少なからず「好意」を抱いているからではないか、ってね。


 そんなことを考えつつ、もう一遍で冷静にとらえる俺ももちろんいる。

 そんなわけがない。

 女というものは、合理的な生き物なのだ。

 ふんわり生きて、たまたま鉢合わせた男に突然好意を抱いたりなんかしない。

 お金、面白さ、話術、あるいはルックス。

 何も持ち合わせていない俺が、棚ぼた然に美少女に好かれたりなんかはしない。わかってるさ、泣いてなんかいないぞ。


 しかしながら男ってのは単純な生き物で。

 あんなに無垢な笑顔を向けられたら、そりゃ意識してしまうし、期待もしてしまう。

 それが例え自分への好意ではなくても、勘違いをしてしまう。

 悲しい生き物だよね。


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