死神とお店
「ところで目的地に向かう途中だと言っていたが大丈夫なのか?それと地図はどこにあるんだ?」
「目的地はこのお店なので大丈夫です。」そう言って麗音は例の入口を指さす。やはりお店だったようだが看板もついてなく、さらにこんな脇道の奥にあるともなれば経営は大丈夫なのだろうか。
「地図に関しては収納魔法のようなものがあるので大丈夫です。これがなかなかに便利なんですよ。収納出来る量もかなり多いらしいですし。」麗音が少しドヤりながら自慢げに言う。
「そうか、それは良かった。私は荷物をほとんど持てない。そこは任していいか?」実際に私は今着ている服のポケットにしかものは入れることをできない。
「もちろんです。」頼られたことが嬉しいのか少し喜んでいるようだ。
「とにかくあの店に入るか。」正直あれが本当に店なのか分からない。看板どころかこのスペースからでは窓もなく中を見ることができない。なんにせよ入ればわかる事だ。
「そうですね。あの店へ入りましょう。」
ベンチから二人とも立ち上がり、入口へと歩く。
中へと入ると奥のカウンターのような場所の扉から身長も高くさらに服がはち切れんばかりの筋肉を持った体格のいい40は超えてそうなスキンヘッドの男が出てきた。
「いらっしゃい。君が例のお嬢ちゃんか。確か麗音…だっけ?遅かったな。ちなみに俺はここの店をやってるゲイルだ。よろしく頼む。」
「よっ、よろしくお願いします!えっと…これを…」ゲイルの威圧感におされながらも麗音はいつの間に取り出したのか紐で巻かれた紙をゲイルへと差し出し、ゲイルがそれを受け取る。
「確かに受け取った。ところであんたはどちら様だ?どこか人間離れした強さの気配を感じるが…」
ゲイルがこちらを警戒するように聞いてくる。麗音も良くない気配を感じたのかあたふたしている。
「私はシノガミだ。これから彼女と共に旅をする予定だ。」私は答える。
「シノガミか…死神みたいで不吉な名前だな。」やはり適当すぎただろうか。死神とバレてはいけないという規則もなくいがバレないに越したことはない。もう少し捻れば良かった。
「まぁいいだろう。」一応警戒はといてくれたようだ。
「ところで嬢ちゃん。」
「えっ?はい!なんでしょう!」不穏な空気がなくなり、ほっとしているところでゲイルに呼ばれ、声が少し裏返っている。
「そんなに驚くなって、まぁとりあえず少し待っててくれ。今からいろいろと持ってくるからな」そう言ってゲイルはさっきほどの扉へと行った。
落ち着いたところで改めて店内を見渡してみると、至る所に剣や盾、槍や斧などの武器や革や鉄のようなもので作られた兜や鎧などが無造作に置かれている。端の方には瓶に入った色とりどりな液体や、葉っぱのようなものなどの道具まで揃ってはいるようだがそれもあまり綺麗に並べられているとは言えない。
建っている場所もとい、売り物の並べ方からも売ろうという気が感じられない。本当に客は来るのだろうかと考えているとタイムリーにも入口が開く音がした。
「ゲイルさ〜ん。いるか〜?」
そう言いながら入店してきたのは身長が170程度の顔が童顔なすらっとした青年だった、年齢が予想しにくい。革の鎧のようなものを身につけ、腰には剣が刺さった鞘がをつけている。
「ちょっと!先に行かないでよ!」
男子の後ろから女の声が聞こえる。そしてひょこっと男子の後ろから身長が男子に比べ15センチ程度低めだがしっかりしていそうな少女が出てくる。手には杖のようなものを持っており服装は白のワンピースを着ている。
「って、先客がいるなんて明日は槍でも降るんじゃないか」こちらを認識した瞬間、青年がマジなトーンで言ったため、やはり今回は偶然で客は少ないのだなと感じずにはいられない。少女はと言うとこちらを認識した途端青年の後ろに隠れてしまった。
「おいおい、そんなに珍しいか?この店も一部の界隈では結構有名なんだぞ。」
いつの間戻ってきたのかすぐ後ろにゲイルが立っていた。麗音も急に真後ろから声がして「ひっ」と軽く悲鳴をあげる。いくら気を抜いていたとはいえこの距離で気づけないとはなかなかに恐ろしい。
「あっ、ゲイルさん!こんちは!」青年が元気よく挨拶をする。少女は後ろに隠れながらもかすれそうな声で「…こんにちは…」と挨拶をする。ゲイルは答える
「おう、お前たち今日は運がいいな!」
「なんか面白いことするの?」青年が嬉しそうに質問する。
「ああ、楽しみにしてな。ってか2人は何の用だ?」
「いや、ただ来てみただけ」
「いつも通りだな。嬢ちゃんたちすまんね。とりあえずこれを」
急に話が戻され、手のひらより少し大きめの石版を私と麗音に渡される。
「本当はお嬢ちゃん分だけの予定だったんだがまあ余分に一人分くらいいいだろう」
麗音は受け取った石版を観察しながら聞く
「この石版ってなんですか?」
「その石版はな、魔力を流すことによってステータス等が表示されるんだ。それに魔力は人によって違いがあるからな、一度流したらその流した人にしか反応しなくなる。まぁ身分証みてぇなもんよ。」
「なるほど…」麗音が理解したのかしていないのか分からない表情で頷く。
「はやく魔力を流してよ!」青年が興奮気味に急かす。この二人についてまだ聞いていないがあとでもいいだろう。
「魔力ってどうやって流すんですか?」麗音が質問する。
「全身の神経を石版を持つ手に集中させろ。慣れれば簡単にでできるんだがな、最初はやりすぎるくらいがちょうどいい。」
ゲイルの言う通りに石版を持つ手に意識を集中する。麗音も頑張っているようだ。すると私の石版は黒っぽい光がうっすらとひかり、文字や数字が浮かんでくる。表示されるステータスは魔力以外は昔、学校と呼ばれる場所で仕事があった際にやっていた体力テストと呼ばれるものでも図れそうなものばかりだ。麗音の石版はと言うと白い光がかなり明るく光っていた。
「おお、これは驚いた。さすが転移者なだけあるな」麗音の石版を見ながらゲイルが言葉をこぼす。青年たちも魅入っている。
「これってすごいんですか?」麗音も興奮気味に聞く。
「ああ、この光り方は尋常ではないな。良ければでいいんだがステータスを見せてくれないか?ついでにシノガミも」
「ええ、いいですよ!」麗音は元気よく挨拶をする。
「私はついでか。」思わず呟く。
「すまんすまん。悪気はねぇんだ。」実際一ミリも悪いと思ってなさそうな顔で言われる
「そもそもステータスってそんなに見せびらかしていいのか?」一応聞いてみることした。
「そうだな、信用できない人にはあまり見せない方がいいかもしれん。あ、もちろん俺は信用してくれていいぞ。こっちの二人も。」ゲイルは青年とその後ろの少女に目を向ける。
「わかった。とりあえずその二人を紹介してくれないか?」
「そうか、そういえばまだだったな。ほら、二人とも自己紹介してやれ」
「俺はこの街で冒険家をやってるハイクだ。よろしくな。そして後ろに隠れてるこいつがエランだ。人見知りで恥ずかしがり屋なんだ。慣れれば良い奴だから」そういう言うとハイクがスっと横に動き、隠れていたエランが見える。
「あっ…よ、よろしくお願いします…」囁くような声でそういうとまたすぐにハイクの後ろに隠れる。どれだけ人見知りなのだろうか。
「そういえばこっちの自己紹介もまだだったね。私はウラネ、よろしくね。」麗音も挨拶をする。
「私はシノガミだ。よろしく頼む。」
「おう!よろしくな!」元気よくハイクが返事を返す。