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Magical Garden ~箱庭の少年達と新任?教師~  作者: 夕城ありあ
第1章 出会い編 《It's up to me to begin new my life or not to.》
4/41

4 夜の遭遇

 思えばこの時から

 何かが回り始めていたのだろうと

 後になって思うことになる


 ―――担当教官希望〆切まであと二週間。






 校則の一つにこう書かれている。

 夜間の外出は許可がない限りに禁止とする――と。

 夜間と指定されているのは午後八時過ぎ。生徒達はそれまでに食堂で夕食を済ませる必要がある。食堂は風呂などと違い、全ての生徒に共通で一箇所にしか設けられていないからだ。

 宿舎は四棟あり、レイが何らかの基準によって生徒達を割り振っている。新入生が増えて全学年が揃えばそんなことはないのかもしれないが、今の三学年しかない状態ではとても広い宿舎といえるだろう。半分以上は空き部屋になっているし、皆で使うフロア等も半分くらいの人数で使用しているのだから、広いなんてものではない。私からしてみれば、豪華だと思わずにはいられない。

 夜間は外出禁止とされているとはいえ、八時に消灯というわけではない。

 宿舎の一つ一つには普通の家でいうリビングにあたる部屋と、勉強を大勢でできるような学習用の部屋が設けられている。

 消灯は十一時。

 その時間の少し前に教師が点呼をしにくることになっている。

 よって、それまでの時間は各々宿舎内であれば好きにしていていいということだ。

 点呼が終わり、消灯の時間になると宿舎内にある公共の部屋の灯は全て消される。その後すぐに寝るのが一番だが、各自部屋で勉強をして夜更かしをする生徒もいることだろう。騒がなければ注意はされない為、真夜中までこっそり馬鹿騒ぎをしている生徒もいるかもしれない。

 レイに見せられた校則が書かれた紙の内容を思い出しながら、私は少し離れた場所に見える人影をじっと見つめた。

 規定のローブ。

 青い髪に小柄な体は、まだ幼い。

 そして、幼い魔力。

 どこをどう見ても生徒と断言できる。当然だ。不審者等侵入しようがないのだから、私が見覚えのある教師でなければ生徒以外であるはずがない。

 足元には数冊の本が積まれていて、その中の一冊を真剣に灯で照らしながら見て、本に載っているのだろう魔法の練習をしている。若干どころではなく、魔法は不発気味なので、苦手魔法の練習をしているのだろう。

 そこに、一人の少年がいた。

「………」

 視線を少年から、腕にはめている時計へと移す。

 只今の時刻、午後八時半。

 私の時計は魔法もかかっている為、時間は正確。

 夜間と指定される時間であることは間違いない。

 ……さて、私はどうするべきだろう。

 少し風に当たろうと外に出てきたのが間違いだったようだ、と今更ながらに後悔する。まさにその文字の通りに後から悔いてしまう。

 いや、でもどんちゃん騒ぎになったあの場所にあれ以上いるのもちょっと思うところがある。日中から騒いでいたこともあり、室内では酒を飲んだくれて寝ている人物が数人、まだちびちびと酒を飲んでいる人物も数人。後で魔法を使って片づければ綺麗すっきりな部屋になるとはいえ、室内は酒臭く、部屋中に酒瓶やら食べ物の皿等が散らかりまくっている。あそこにあのままいるのでは、とても落ち着くに落着けない。

 部屋を出たことは間違いではない。違う場所を散歩に選べば良かったのだ、と私は結論を出した。

 が、肝心の結論がでていない。――あの少年をどうするか、ということに対しての質問が。

 先生らしく夜間の外出を注意するべきか。

 その場合、校則違反ということで少年は罰せられることになる。生活態度の面から点数がマイナスされ、反省文を書かされることになるだろう。

 しかし少年は別に悪さをしようとしているわけではない。ただ、宿舎内で魔法の練習はできない為に外に出ているのだろう。禁止時間となってからまだ時間はそれほどまでに経っていない。大方時間が経つのを忘れている、禁止時間になっている事に気づいていないといったところか。

 となると、見て見ぬ振りをしてあげるべきなのか。

 私個人としては、誰が注意されようと関係ないことなのだけど、関わり合いになるのだけは避けたいところ。

 教師である私に発見されるというのは、少年にとっても不本意なことだろう。

 私的結論をいえば、このまま気付かなかった振りをして立ち去るという選択を選びたいところだけれども、その場合、私以外の教師に見つかる恐れがある。それこそ少年にとっては不本意なことなのかもしれない。

 ……結局どうしようか。

 悩み、首を傾げる私。

 と、その時。

「あ…」

 小さな声を上げて、少年が私の存在に気付いた。

 一瞬の間。

 その後で少年は慌てて時計で時間を確認し、顔を青褪めた。どうやら夜間外出禁止時間になっているのに気付いていなかったというのが正しいらしい。面白いくらいの一瞬の顔色変化に感心する。

 下に積んである本を慌てて手に抱え、おろおろし始める少年。

 そして、何か決意したような表情になると、思い切って少年は私の方へと駆け寄って来た。

「すみません…っ、僕時間が過ぎているのに気がつかなくて……」

 本当に反省しているのだろう。

 ぺこぺこと何度も頭を下げる。どことなく怯えたように見えるのは気のせいではない。何か私から罰を与えられる事を覚悟しているようだ。

「………」

 ……さて、どうしようか。

 残念ながら気付かなかった振りはもうできない。

 そうなると普通の対応よろしくこの少年に何らかの罰則を私が与えることになる。

「………」

 しばし考えてみる。

「………」

 もう少し考えてみる。

「………」

 …………少し面倒くさく思えてきた。

 ――結論。

「早く宿舎の方に戻ったほうがいいんじゃない? 教師に見つかるとヤバイわよ、君」

 厄介ごとを引き受ける前に、私はこの出会いをなかったことにすると決めた。

 罰則云々の問題は私としては面倒な問題でしかない。反省文などを書かされる生徒も生徒だが、それらの書類を私が処理しなければならなく、仕事が増えてしまうのだ。――面倒以外の何物でもない。

「え…?」

 少年はまさかそんな事を言われるとは思ってもみなかったようで、大きな目をさらに大きく開いてきょとん、としている。

 ……あらあら、虫眼鏡なしなのに大きな目だこと。

 そんな事を思いながら、私はもう一度同じ言葉を口にした。

「早く宿舎の方に戻ったほうがいいんじゃない? 教師に見つかるとヤバイわよ、君。…もっとも、罰則を受けたいなら別だけど」

 はっと我に返った少年が、罰則という言葉に過敏に反応して頭を左右に思い切り振る。

「あ、ちなみにここで私とは会わなかったということにしておいてちょうだい。色々と厄介だと思うから」

 釘だけは忘れずにさしておき、私はくるりと方向転換して歩き出した。

「マーリン先生…!」

 咄嗟にでた行為なのだろう、少年が私を呼び止める。

 無視してしまおうかと思ったものの、少年が哀れに思えて私は足を止めて振り返った。

 そして一言。

「おやすみ」

 と、私は少年に向かって挨拶をすると再び向きを戻して歩き出した。

 私の後方から背中に向かって、「おやすみなさい、先生…!」と慌てて挨拶をかえす声がかけられる。その後にぱたぱたと少年が慌しく走り去って行く音が聞こえた。振り帰って見送るなんてことを、当然ながらするはずもなく。

 これにて一件落着である。

 うんうん、と一人で頷いて。

 私は自分の部屋へと戻って行った。

 その後―――




「リク!!」

「あ…、リイチさん……」

 ユキが去ってからちょうど入れ違いになるようにそこにリイチがリクを呼び戻しに走って来た。

「お前、何してんだよ。とっくに外出禁止時間になってんだぞ」

「すみません…、ちょっと熱中していたら時間が過ぎているのに気がつかなくて…」

「お前らしいといえばお前らしいけどね。でも教師に見つかって困るのはお前なんだからな」

「…………」

 リクは困惑気味に表情を崩す。

 当然ながらそれにリイチは気付いた。

「…何、いきなり? 何かあったわけ?」

 びくっと、明らかに不審なほどにリクが体を震わす。が、慌てて顔に笑顔を浮かべると取り繕うように言った。

「な…、なんでもないです、リイチさん! …あ、ほら、早く戻らないと見つかるかもしれないですよね。いきましょう…っ!!」

「………」

 怪しい――と。

 リイチは思ったものの、リクは見かけによらずに頑固者でこういった時は何があっても口を開かないということを知っていた為に、敢えて何も尋ねることをしなかった。ただ、リクを観察するような目で見続けていた。何か行動の中から読み取ろうとしているのかもしれない。




 次の日の授業が終った後、教室を出た私を追うように一人の生徒が走り寄って来た。

「マーリン先生…!」

 名前を呼ばれ、私は立ち止まって振り返る。

 そこに、昨晩遭遇した少年が立っていた。

 名前を昨日確認したのだけれど、少年の名前はリク・アルフォンシーノというらしい。二学年の生徒である。見たところ、クラスで一番背が低いようだったが、とても素直そうな性格が外に現れている為、それを馬鹿にされたりはしていないようである。

 ざわっと教室と廊下の辺り一体が騒がしくなる。

 当然ながら、周りの視線が私と少年に集まった。

 不可思議なものを見るような視線から好奇、不審そのものの視線まで様々だ。

 私は周りには分からないように、少しだけ眉を顰めた。

 生徒達と関わり合いを持ちたくないと思っているから、こうして注目を浴びてしまうのは望むところではない。

「……あの、僕…、マーリン先生にお聞きしたい事があって…」

「……何を?」

「…その…、授業で分からないところがあって…。調べても分からなくて……」

 ざわっ、と再び騒ぎが生まれる。

 他の生徒達からしてみれば、何故という感じなのだろう。最悪な出会いから始まって、今の今まで最低のレッテルを張られている教師である私などに、この少年以外誰一人として質問はおろか、近寄ろうとする者すらいなかったからだ。

「………」

 私は少年の顔をじっと見据えた。

 ……どうするべきか。

 面倒、という思いはあるものの蔑ろにするつもりはない。先生として、というよりも人とて正当な人間を蔑ろにするのは気が引ける――ちなみに正当でないといえるのは策士なレイのような人のことを言う――。

 いや、それよりも。

 とにかくこの集中する視線を何とかしたいという思いが強かった。

 騒ぎがこれ以上大きくなる前に立ち去るのが良いだろう。

「……昼食後、私の研究室に来るといいわ」

 午前中は授業が私も少年も入っている。教えられるとしたら午後になる。というか、午後はそういった時間となっているのだから。

 必要最低限なことを伝えて、私はくるりと方向転換すると、何事もなかったように廊下をすたすたと歩き始めた。

 ……物好きな子がいるわね。

 そんなことを考えながら、私は次の授業で使用する教科書をとりに研究室へと向かったのだった。




 昼食の時間の話題は一つだった。

 話題の中心人物、皆に囲まれているのはリク。

 のんびりとしているリクだが、この時は何処か困ったような表情を浮かべていた。

「リク、お前あの先生に勉強教えてもらいに行くんだって?」

 リイチがずばりと尋ねる。

「……う…、うん。古代魔法学ってちょっと分からないから…」

「お前、分かってんのか? 相手はあの先生なんだぞ?」

 リクと同じクラスメイトであるユヅキ・サーディンが心配そうに言う。幼い感じがするリクとは正反対に、大人びた秀麗な顔をしているユヅキが心配そうな表情を浮かべると、非常に絵になる。残念ながら騒ぎ立てるような女子は男子校の為にいないが。

 あの先生とは言うまでもなくマーリン先生のことである。

「うん、それは分かっているよ」

 先程とは違い、しっかりとした声でリクは答えた。――つまり、別に気の迷いでも何でもないのだ、と。それを皆に伝えるように。

 次から次へと、その場にいる生徒から心配され、質問され続ける。押し寄せてくる質問などの言葉の波に、リクはどんどんと後ろへと押され食事の器を持ったまま後退していった。リクは押しには弱いのだ。

 初めに質問をしたきりで、他の人がリクに質問をするのを黙って聞いていたリイチだったが、質問の波が一段落ついたところで再び口を開いた。

「リク、お前何か隠してるだろ?」

 びくっ、と。

 リクの体が大きく震えた。それは、昨晩と同じ反応。

(…やっぱり、あの時何かあったんだな……)

 リクはリイチの望む言葉は何も言わず、誤魔化すように「何も隠してない」と言うだけでしかなかったが、リイチはそのリクの反応に確信をもってそう思った。

(おそらく、あの時リクはあいつと会っている……)

 それは、間違いないとリイチは結論付けた。

「リク、やめとけやめとけ。あいつってば最低だし教えてもらうことなんかないって」

 誰かがそう言った。

 あちこちから声がかけられている為にそれが誰の声かは定かではなかった。その本人にしてみれば、適当にあしらっただけだったのかもしれない。――が


「マーリン先生は最低なんかじゃないよ!!」


 バンッ、と。

 思い切りテーブルを叩いて立ち上がって。

 食堂に響き渡るほどの大きな声でリクは怒鳴っていた。

 突然のリクの大声に、食堂にいた全ての人が驚愕して目を見開く。リクは普段にこにこしていて温厚な為に大声で怒鳴るなんてことは滅多にない。というよりも見た事がなかったのだ。

 静まり返る食堂。

 他の誰かが何かを言う前に、リクが一足先に、はっと我に返った。

「あ……」

 かぁぁぁっ、と恥かしさからかリクが顔を赤らめる。

「ご、ごめん…。僕、そろそろ行くね…っ」

 食器などをのせたトレイを掴むと、リクは逃げるようにしてその場を後にした。

 誰もがリクの姿が見えなくなるまで呆然と見つめ続ける。

 姿が見えなくなったところで、「何だったんだ?」というように皆は不思議そうに首を傾げた。謎が残る。だが、その謎の原因のリクが去って行った為に聞くことすらできない。謎は謎のままだ。

「………リイチ、何考えてんだよ?」

 それに、気付いたのはリイチとつるんでいる一人のリョウ。

 リョウ・イールは第二学年であり、色黒の肌に黒い髪という、全身黒っぽいところが若干目立つ容貌をしているが、孤高の一匹狼のような雰囲気を醸し出す彼が目立つことはほとんどない。自身の立ち位置をわきまえているようにして、授業でない時は目立つリイチの少し後ろにいる事が多い。

 不思議そうにしているメンバーの中でただ一人、リイチだけが真剣な眼差しで一点を見つめ続けていたのである。それは、先程までリクが座っていた席であり、今は誰もいない空席となっている場所。

 リイチは口元に手をもっていき、何かを考えているようだった。

 少しして、その手に隠れた手の下で口元にうっすらとした笑みを浮かべる。

 その笑みに気付き、リョウは少し目を細めた。何か、面白いことが始まりそうだという期待から。

「……俺も行ってくるよ」

 と。

 それだけを言うと、リイチもトレイを手に持って食堂から去って行った。

 リクだけでなく、リイチまでということで先程以上に騒がしくなる食堂の中。

 その中で、ただ一人リョウだけが小さな笑みを浮かべていた。

 そして、そのリョウの笑みに気付いたのは鋭いと言われている人達数人だけでしかなかった。


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