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Magical Garden ~箱庭の少年達と新任?教師~  作者: 夕城ありあ
第3章 文化祭編 《I'm reluctant to be playing, so I keep escape from everyone.》
38/41

11 祭りの後で

 そんなこんなで文化祭終了

 とりあえず面倒事を回避できたことに満足しつつ

 さあいっぷくでもするか、と思うのだけど

 ………どうしてこんなに険悪ムードなのかしら?






「――で、何なの、お前?」

「随分な物言いですわね。というよりも、私からしてみれば貴方達の方が何ですのって感じなのですが?」

「へぇ…。言ってくれるじゃんか」

 びゅおおおおおっ、と。

 その場だけにブリザードが凄まじい勢いで吹き付ける。

 凍りつき、あまりの寒さに周りにいた他の少年達はぶるぶると体を奮わせている。

 そんな周りのことなど一切気に掛けることなく、ブリザードは吹き付ける。その勢いが増し、絶対零度を超しているのは気のせいではないだろう。

 ……ああ。あんな所に被害者その一のカッド少年が転がっている…。

 ほんの少しだけ哀れに思ったけれど、彼ならばそのうち復活するだろうと元気の良さを見込み、助けることはしないでおいた。

 ……だって面倒だし。

 第三者として見物している私だったけれど、不意に私の近くに避難しているマッカレル少年が小声で話しかけてきた。

「………ユキ先生、何とかしてくれよ…」

 私は改めて、ブリザードの発生源となっている二人の人物へと視線を向ける。

 そして、首を左右に振ってみせた。

「あー…。でもどっちも似た者同士だし、どうにもならないんじゃないかしら」

「……いや。止めれるとしたらユキさんしかいないんじゃ…」

「私で大丈夫ならシーバス少年でも大丈夫だと思うわ」

 さらりと流そうとしたがサーディン少年にツッコミをいれられたので、再びさらりと役割転化をする。

 避難している少年達の視線がシーバス少年へと一気に集まる。

 と、慌てたようにシーバス少年は「無理だ」と主張するように首を左右に振ってみせた。

 私達がこそこそと――とはいえ私だけは小声でなかったりするのだけど――やりとりをする間にも、目の前の冷戦は続けられている。

 一対三なので数で少年達が有利に見えるが、しかし少女が負けそうな気配はない。年齢的に同じくらいなので、背格好も同じくらいである。が、少女は一人で三人分のオーラを纏っている。

「さっきレイさんが説明したじゃない」

「それは聞いた。でも俺は直接聞かないと気がすまないタイプなんだよね」

「そうそう。で、どうなのさ、ユキ?」

 突然話を振られ、視線が私へと集まる。

 冷戦を繰り広げているメンバーからは鋭い眼差しが。

 他のメンバーからは助けを求めるような眼差しが向けられる。

 視線が集まろうが気にすることじゃないけど、どちらかといえばいい気分のはずがない。

 はぁ、と大きな溜息を零した後、私は少女――オウカを手招きした。

「それじゃ、改めまして。この子はオウカ。王族の第一皇女よ、れっきとした。あまり失礼のないように」

 簡潔すぎる紹介に、「それだけかよ!」と少年達からツッコミが入れられる。

 ……うーん、どうやらご不満らしい。

 しかしこれ以上何を説明すればいいのかわからない。年齢? 身長? ……あまりプライベートな事は話すような事でもないだろうし。

「王族ってことはユキの親戚の子か何かなのー?」

 いつの間にか復活したカッド少年が、はいはいはーいと片手を元気よく挙げて発言する。

 挙手と同時に発言を勝手にするのはどうかと思いきや、注意しても無駄だろうと思ってそれを口にするのはやめることにした。

「そうね。私の身内よ、オウカは」

 ――王族。

 すなわち――私の兄の血縁者。

 もっとも私の歳を考えれば、オウカにとっての私は祖母の祖母のそのまた祖母の……と言い続けていくときりがない繋がりになる。正式にどれくらいの孫になるのかは考えたくないが、それくらいには離れた血縁者でもある。

 外見年齢が永遠の十六歳ということもあって、おばあさん呼ばわりするのもどうかとかなり昔に討論され――そんなことは討論するようなことなのかと当時は疑問に思ったが、きっと彼らにしてみたら重要なことだったのだろう、と思うことにした――私は王族の直血の人々にとって姉的立場とみなされ続けている。

 現にオウカも私のことは姉と呼ぶ。

 私からしてみればオウカは妹のような存在であり、娘のような存在である。

 というか、オウカだけではなく王族の人々は皆そんな感じに私は思っている。もっとも、直血以外まで幅を広げると、さすがに私も全てを把握しきれてないのが現状だが。何万年もの月日の間に王族の血も横へ横へと広がっているのだ。

 その中での直血、最も血を濃く受け継ぐ人達が由緒正しい王族と名乗り続けている。

 オウカはその時期王の有力候補と噂されている。

 王は今までずっと男が引き継いできていたが、第一皇子らに比べるとオウカの方が遙かに世を統べる力を持ち合わせているし、王に相応しい。

 天性の資質とでもいうべきか。私の兄がもっていたものと似たものをオウカも備えもっているのだ。

 加えて彼女は小さな頃から私が帝王学等を教え込んでいる。他の子達に比べて私が贔屓していることも、オウカが時期王だと囁かれる謂れかもしれない。

「ユキはね、私の一番憧れている人なのよ」

「へぇ…」

「物心つく頃からずっと尊敬しているし、大切に思ってるの。だから私からしてみれば、いきなり湧いて出てきたあんた達の方が何なのって感じなのよね、はっきりいって」

「それはそれは…」

 気が付けば、オウカの口調が外向きの取り繕ったものからラフなものへとかわっている。その口調は内々だけのものなので、少年達を彼女の内のメンバーとして認めたというべきなのか、それとも完全なる敵とみなしたからからこその口調なのかが怪しいところではあるけれど。

「とりあえず今の状態ではあんた達のことは認めてないから」

「別にお前に認められなくても痛くも痒くもないんだけどね」

 ごごごごご…と口論するオウカと少年達の間に炎が燃え上がる。

 さきほどまで冷たいブリザードだったはずなのに、いつの間にこんなに熱くなったのかが甚だ謎でしかないのだけど。

「……うーん…。オウカは皆と仲良くなれると思ったのだけど…」

「ユキ先生…。暢気なこと言ってないで何とかして下さいよ…っ」

 アルフォンシーノ少年が助けを求める。

 捨てられた子犬のような眼差しはある意味卑怯な手だと思いつつ――しかし彼の場合はわざとではないので責めることはできないのが何とも…。――、私は大きく息を吐いた。

 ……仕方ない。

「はいはい、そこまでそこまでー」

 棒読みで科白を言いながら、注目しろとばかりに手をパンパンと叩く。

 集まる視線。

 それに満足して一度頷く。

「ほら、少年達。私の大切な娘に対して酷いこと言わない。仲良くしないとだめでしょう?」

「ユキ、そんなこと言われたって……っ」

「―――私の可愛いオウカに酷いことをしたら許さないわよ?」

 今の私にとっての家族は直系の王族。

 王族であるオウカは私の大切な家族。

 その彼女を傷つけるようなことがあれば私は許さないだろう。

 王族の人々が私を大切に思ってくれているように、私もまた大切に思っていて、彼女達のためならば私はきっと何でもする。

 珍しく微笑んだ私。

 しかし少年達もその微笑に含まれる棘はしっかりと感じたようで、ぐっと言葉を飲み込んだ。

 不平を言わなくなったことに満足げに一度頷いて、今度はオウカの方を見遣る。

 私に少年達が窘められたことを良しと思っていたのか、勝ち誇ったような笑みを浮かべていたオウカだったが、そこにある私の微笑を見てそのまま硬直する。頬が若干引きつったのを私の視界は捉えていた。

「オウカ」

「な…、何…、ユキ…?」

「オウカも少年達を怒らすようなことは言わないように。彼らも大切な私の教え子なんだから」

「う……。わ、分かったわよ…」

 ばつの悪そうに視線を逸らすオウカ。

 とりあえずブリザードや燃え滾る炎は消え去った。

「さ。これで一段落ね」

 うんうん、と頷く私。

「……さすがユキだな…」

 イール少年が呆れたように呟いたのは、とりあえず聞かなかったことにしよう。

 そして、話を逸らすように一度咳払いをして、オウカが笑顔で私の腕に抱きついた。

「ところでユキ。今度はいつ遊びに来てくれるの?」

「うーん…。いつかしらねぇ…」

「遊びに行くって言ってるくせに全然遊びに来てくれないんだもの。しかも私の方から遊びに行ってもユキの家にはいないし」

「まあ、長期休暇でなければ私はここの宿舎にずっといるから仕方ないわ」

 拗ねたように頬を膨らませる姿は可愛らしい。

 思わず頭を撫でてしまっても致し方ないだろう。オウカも別に嫌がっていないし。

「仕方ないって問題じゃないのよ!! ユキならいつだって遊びにこれるでしょ?」

「まあ、それは…」

 そうなんだけど。

 と、いう言葉を遮るように、傍で私達の会話を聞いていたボニート少年が口を挟んだ。

「遊びに来る、とは何処に行くんだ? それはもしかしなくても王宮のことか?」

 ボニート少年にしては珍しく素朴な疑問に、オウカはさらりと答える。

「そうに決まってるじゃない」

「そうか…」

 ふむ、とボニート少年は納得するが今度はカッド少年が騒ぎ始めた。

「ええ! ってことはユキってば王宮にフリーパス!? すっげー」

 一般人にとっては王宮なんてそれこそ本当に係わり合いのない場所でしかない。

この世界を守り、統べる者である王がそこにいるということは誰もが知っていることだろうが、しかし王の姿を知る者はそれなりの地位がある者に限定されるのが事実。少なくともここにいる少年達は王がどのような人物であるかは知らない。

 加えて世界の中央にある王国。

 その中に位置する王宮は王族しか立ち入ることのできない場所である。

 元気いっぱいのお年頃の少年達にとっては未知の世界であり、胸を高鳴らせる気持ちも分からなくもない。

「……何言ってるんだよ、ナルミ…。ユキさんはそれこそ王族の直系も直系なんだよ? フリーパスかどうかなんて考えなくても分かるだろ…」

 はぁ、と重い溜息を吐きながらポラック少年が呆れた。

 ポラック少年の言葉に改めて納得したカッド少年が「なるほどー」と言いながら笑う。納得できたことが嬉しかったらしい。

 じーっと恨みすらこもった眼差しを向けるオウカ。

 私はぽりぽりと頬を掻きながら、「あー…」と短く唸った。

「…王宮は別に構わないんだけど、中央は何かと厄介な場所だから面倒なのよね」

 城には様々な人がいる。

 ましてその城――王国を囲むように魔法協会が位置していると考えると、厄介なことこの上ない。あそこには私を疎んじる人がかなり多く居座っているのだから。

 こんな年寄りな私を疎んじる気持ちは分かるし気にしないけど、いちいち相手にするのが面倒でしかない。

 あまり乗り気でない私の様子を見て、オウカが力ずくで私の手を握り締めた。

「何、どうかしたの、オウカ?」

「や・く・そ・く・よ。近いうちに里帰りすること。いいわね?」

 握り締めた手の中、指を絡めて指きりをする。

「ぷっ。なんだ、その幼稚くさいのはよぉ」

 ヘリング少年が馬鹿にするように笑みを浮かべる。

 オウカはヘリング少年を視線だけで射殺せそうなほどの鋭い睨みをきかせた後、もう一度指切りをしながら言った。

「や・く・そ・く。守らないと承知しないから。ユキは私との約束は守ってくれるんでしょ?」

「……はぁ。そうね、約束は守るわ」

 一方的に無理やりなされた指きりの約束。

 それは何だか懐かしいやりとりで微笑ましくて。

 それこそオウカが物心つく頃に、私が頑固で強情なオウカを納得させるために指切りをしたことがきっかけで、それ以来彼女との大切な約束では指切りをするのが今も続いているのだ。

 私は苦笑しながら頷いた。

「近いうちに暇をみて遊びに行くわ。勿論、連絡も前もっていれるから安心しなさい、オウカ」

 確かに不精を働いているのも否めない。

 定期的に顔を出すようにしているが、この学園に勤めるようになってからオウカの所に顔を出していなかったのは事実だったし。オウカが怒っても仕方がないことだろう。

「それでこそ私の大好きなユキよ」

 にっこりと。

 満足そうにオウカが微笑む。

 私もまた、つられるようにオウカに微笑んでみせた。

 とりあえず一件落着。

 文化祭も無事に面倒なことなく終わったことに安堵し、私はお気に入りのソファにどっかりと座り直した。

 自然に微笑んだ私を見て驚いたマッカレル少年が、

「………家族は別格か…」

 と呟いたり、

「……って! そういえば俺達ユキにまだ合唱のこと何も聞いてないんだけど」

 思い出した、と新たに別の用件で詰め寄ろうとするハリバット少年や、

「あ、俺も聞きたいことある!! リイチ達が使った楽器について俺、詳しく知りたいんだけどさー」

 興味津々に瞳を輝かせるモーレイ少年や、

「それよりも俺はリイチ達のピンズが気になるんだけど?」

 にっこりと笑ってない笑みを浮かべて詰め寄るフラウンダー少年。

「ってことは最近でるっつーお化けはこのお姫さんやったんやな」

チャー少年がなるほど、と納得する。

 その他色々と少年達が各々騒ぎ始めたけれど、それらは一切無視して私はオウカと美味しいティータイムを楽しみ続けた。

 ……精霊達も呼んだことだし、明日の日曜日は湖でまったり過ごそう。

 そんなことを考えながら。


これにて文化祭編終了です。

次は番外編をいくつか入れる予定です。

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