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Magical Garden ~箱庭の少年達と新任?教師~  作者: 夕城ありあ
第3章 文化祭編 《I'm reluctant to be playing, so I keep escape from everyone.》
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9 彼の仕返し

 あれを過去の過ちだと思えるだけ大人になったというべきか

 それとも

 仕返しとばかりに行動にでることをまだ子どもだというべきか






 順調に進むプログラム。

 漫才をやってみせるクラスもあれば、手品をお披露目するクラスもあり――ちなみにどうせ魔法だろうとツッコミをいれられていた――、それぞれのクラスが一丸となって作り出したそれを一生懸命に発表する少年達の姿は微笑ましい。

 ……しかし何故だろう。

 そろそろプログラムが中盤に差し掛かるという頃になって、酷く冷気を感じるのは。

 冷気、というよりも正しくは怒気。

 私はちらりとそれを発している少年を盗み見て、

「………うわ。凄いご機嫌斜め」

 と呟いた。

「……ユキさん。全然驚いてる様子じゃないですよ…」

「あら、そう?」

「そうですよ。今の『うわ』ってまるっきり棒読みじゃないですか」

 私の呟きを聞いていたケイカに素早くツッコミを入れられた。

 ケイカの顔には呆れ混じりの表情が浮かんでいる。

 ……うーん、まだまだ私も青いということか。

 心の中で呟いたつもりがどうやら声に出していたようで、今度はソウジに苦笑されることになる。

「……別に青くもないでしょう」

「まあ、それもそうだけど」

 この歳で青かったら、世の中の人達は皆青いことになってしまう。ソウジのツッコミはもっともな言葉といえただろう。

 もう一度、私はその少年を盗み見た。

 怒気を周囲に放ちまくっていていつもの冷静さを失っているせいか、その少年が私の視線に気づくことはなく、代わりに隣りにいた別の少年が私の視線に気づく。

 少し驚いたように目を大きく開いた後、礼儀正しく軽く頭を下げてきた。

 別に挨拶をさせる為に視線を向けていたわけではないのだけれども、無視するのもどうかと思い、軽く手を振っておいて何事もなかったかのように壇上へと視線を戻した。

「……今度は何やってるんですか?」

「ちょっと愛嬌を振りまいていたのよ」

 そう、愛嬌。

 たまには必要だろう。世の中をうまく渡っていく上では。

「ユキさんには無理でしょう?」

「さらりと言わないでよ、ネイト。……まあ、事実だけど」

 すかさずツッコミをいれてくるネイトが恨めしい……ということもなく、やはり言われた言葉は事実で私に愛嬌を求めるのがまず無理なので、一人でうむ、と頷いて納得した。

 他愛もないやりとりとしつつ、私は呆れた視線を壇上横で司会を務めるマヒロへと映す。

 うきうきと楽しそうにしているその姿は少年そのもの。

 横にいるカリンも同様に少女そのものなのは言うまでもない。

 ……本当にいい歳した大人が何を浮かれているのやら。

「……マヒロのやりそうな事なんて見当はすぐにつくわよね」

「はははっ。まあ、それを言っちゃいけませんよ」

「まあね。でもあれを汚点と思うようになっただけでも大人になったと思うべきなのかしら?」

「いや、でも仕返しのような行為は子どもなんじゃ……」

 私とソウジとの会話に割り込みし、すかさずツッコミをいれたのはキヨ。

 その頬は若干引きつっていなくもない。

 私達は顔を見合わせて呆れ混じりに苦笑し合った。

 司会の端で私の研究室に遊びに来る少年達がわらわらと動き始めるのが見えた。そろそろ彼らの出番が迫っているらしい。

「……さて。どんな人選になっているのやら」

 少年達が舞台裏へと姿を消す。

 それに混ざってマヒロも裏手へと姿を消したのを私は呆れ眼で見送った。

 そして―――幕が上がる。





「…………はぁ」

 溜息。

 それが私の最初の反応だった。

 マヒロのクラスが何をするかなんて容易に想像がついていた。

 だからこそそこまで呆れはしないだろうと思ったのに、それでも溜息が最初に零れたのは何故か。

 と、私が思った矢先に。タイミングよく隣りのソウジが呟いた。

「……人選ミスなんじゃ…」

 それは、まさにたった今私が疑問に上げた言葉に対しての答えに他ならず。

 ――深々と納得。

 私は溜息が零れた理由に大いに納得した。

 今も尚、壇上で繰り広げられるのは、二学年Aクラスによる劇。

 何人かの少年達が壇上に上がっていて、革新の演技――といえるのかは甚だ謎だが――を行っている。周囲に置かれている小道具類がやけに細かいのは、クラスに物事を細かく追求しなければ気が済まない人物がいるからなのだろう。

「『ここ、まだ汚れていてよ?』」

「『まだ食事の用意もできていないの? 一体何をやってたのよ』」

「『さっさと働きなさい。それが貴方の仕事なんですからね』」

「『……はい。分かりました』」

「『ふん。分かっているなら早くおし。シンデレラ』」

 演じているのは『シンデレラ』。

 老若男女、誰もが知っている物語であり、劇としては有名な話の一つだろう。

 ………ただし、あくまで演じるのが少年達でなければの話で。

 いってしまえば―――女装劇。

 自分の過去の過ちをお前達も味わうんだ、とばかりにマヒロが自分のクラスで実行した出し物は他でもないそれだった。

 私は壇上の女装……した少年達を見る。

 ………だから彼は機嫌が悪かったのか。

 人選ミスという言葉とともに納得したのがそれで、私は半ば哀れな眼差しをその少年へと向ける。

「……これはどういう基準で役柄を選んだのか知っている、キヨ?」

「………………………アミダくじ…だそうです」

「……そう」

 答えに躊躇うように充分過ぎる間をおいたキヨの肩は酷く項垂れていた。もしかすると、マヒロがこれを持ち出した時点で彼は止めようとしたのかもしれない。……結果として止めることはできなかったようだけれど。

 私達がそんな会話をしている間にも劇は進む。

 場面はお城でのパーティへと変わり、賑やかな雰囲気になる。

 ここでもちょっとした小細工や場面転換でお遊び系の魔法を使っていることには凝っていると思ったが、しかしやはりそれよりも私は人選に呆れるしかない。

 王子役はサーディン少年。

 ……まあ、このあたりは似合うような気がするのでよいとして。

 継母と姉役はカッド少年とモーレイ少年と他一名。

 ……まあ、彼らも彼らで楽しんでいそうなので気にしないとして。

 魔法使い役にイール少年。

 ………やる気がなさすぎだけどこれも敢えて気にしないことにして。

 問題は――主役のシンデレラ。

 笑っていない、もしくは冷笑ともいえる笑顔を浮かべてその役を演じているのは――フラウンダー少年。

 女装姿が似合わないわけではない。

 すらりとした体格に、切れ長の細めの眼差しはどちらかといえば秀麗な方になる顔立ちをしていることもあり、東の国の方の美人的な仕上がりにはなってはいる。――が。

 ……いくらくじでも彼にこの役はどうかと…。

「……明らかに人選ミスだわ」

「………俺もそう思います」

 私の言葉に、周りにいた同僚達も深々と納得した。

 観客である他クラスの少年達はおもしろおかしく爆笑し続ける。女装自体もおもしろいのだろうが、話がもとの話と少々変えられて笑いをとりいれているのもその理由だろう。

 普通なら王子と幸せになって終わりであるシンデレラストーリー。

 けれど劇ではその後、継母と姉達に復讐する話まで加えられていた。

 その時のフラウンダー少年が酷く楽しそうに見えたのは………気のせいということにしておこう。





 プログラムは順調に進む。

 途中、司会のカリンが壇上から落下するというハプニングなどが起きたが、大きな事故にならなかったのでよしとして。

 プログラムが進むということは、それはつまり私達教師の出し物が刻一刻と迫ってきているということに他ならない。

 最後のクラスの出し物になったところで、私達は揃ってその場を後にする。

 一応少年達に気づかれないように気配を消して移動したものの、一部の少年は気づいていたことだろう。こちらに幾つかの視線が向けられていた。

 そのままソウジ達とともに舞台裏に行こうとした私だが、

「あれ? ユキさん何処かに行くんですか?」

「ちょっと野暮用。時間までには行くから先に行っていて」

「はぁ…。そうなんですか…」

 皆に声を掛け、一人でそこを抜け出した。

 誰にも言ってないが――というよりも、言うつもりもない――出し物の前に私は人と会う約束をしていたのだ。何よりも自分のためにも会わないわけにはいかない。

 途中、ずっと別行動していたレイとすれ違う。

 ……って、何でこんなタイミングですれ違うかしら。

 相変わらず食えないと思いつつ、私は簡単に挨拶をする。

「あら? 何処に行くの、ユキ?」

「……忘れ物をとりに行くのよ」

「忘れ物?」

「そ。あれ、自分の部屋に置いたままなのよね…」

「そう。でも遅れないでちょうだいね?」

「………はいはい。分かっているわよ」

 別れた後もレイが怪しむように私を見つめる視線を背中に感じたが、それは一切無視することにした。気にすることで私の計画がだめになってしまっては元も子もない。

 時間もそれほどあるわけではないので、ここでレイとやりとりをする余裕などないのだ。

 暫くの間レイの視線は続いたが、もともと私が行こうと思っていた場所は私の自室だったので、それ以上疑われることはなく、私は無事に部屋へと辿り着いた。

 部屋の扉を開ける。

 そして私は既にそこにいた待ち合わせの人物を見て、口端を緩めて笑った。

「いらっしゃい。…でも、物好きよね、本当に」

 その人物は私を見て立ち上がり、同じように口端に緩めて笑い返した。


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