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Magical Garden ~箱庭の少年達と新任?教師~  作者: 夕城ありあ
第3章 文化祭編 《I'm reluctant to be playing, so I keep escape from everyone.》
34/41

7 そして文化祭当日

 やってきました文化祭

 はしゃぐ気持ちをおさえることはない

 年に一度のお祭りなのだから

 楽しまなければ損ってものでしょう?






 初めに目を覚ましたのはどの少年だったのか。

 それは私には分かりかねることだが、少なくとも早起きした中の一人にお祭り大好きのナルミ・カッド少年とエイジ・モーレイ少年が含まれていたことは確かだろう。

 珍しく早起きをしていた私は既にその時間、宿舎にいなかった。

 早起きといえば聞こえはいいが、要はレイに叩き起こされただけ。

 昨日の夜の準備もあって、おかげで眠い気がする。

 ……レイには「平気で何日も徹夜するから説得力がない」と反論されたけど。気分の問題もあるだろう。好きな事をして徹夜をするのと、人に扱使われて徹夜するのとでは、終わった後の気力、体力ともに全く違う結果になると思う。

 レイの手から逃れ、宿舎近くの木の上でぼーっとしていた私は少年の感嘆の声を聞いた。

 その後に聞こえたのはその少年の声と思わしき騒ぎ声。

 続けてバタバタと慌しい足音。

 バンッ、と激しい音とともに開かれる宿舎の扉。

「うおっ、すっげ――っ!!」

「どうなってんだよ、これー!」

 少年達の歓喜の声が響き渡り、少年達が慌しく外へと飛び出る。

 昨日の夜の教師一同よりも、それはまさに蜘蛛の子を散らすという言葉が相応しかった。

 はしゃぎまわる少年達。

 それを木の上から見下ろして私はぽつりと呟いた。

「………若いわね」

と。





 彩られた学園。

 それはさながら御伽噺、もしくはワンダーランドのような賑やかさ。

 どこからともなく聞こえるリズミカルな音楽。

 宙をふわふわ漂うのは飾り付けられた小物やお菓子類。

 一部どことなく少女趣味的な雰囲気も漂わせていたが、広がる光景は遊園地よりも夢のような場所といえた。

「遊園地よりもすっげーよな、ぜってー!」

「おう! 俺、こんなトコ来たことないって!!」

 エイジとナルミがわいのわいのと騒ぎ、走り回る。

 そんな二人を引き止めるのはコウ。

「こら、二人とも。早くホールに行かないと遅刻になるだろう」

 保護者、もしくは引率の教師のように二人の世話を焼く。

 しかし世話を焼きながらも彼自身、胸を躍らせていた。コウもまだ年端もいかない少年の一人なのである。広がる光景に興味をもたないはずがないのだ。

 少しでも目を離せばどこかへ行ってしまいそうな二人は、一人で世話を焼くには酷く大変といえる。

 コウは傍にいる他の人に助けを求めようと後ろを振り返り――

「…………あ」

 短く一言、零した声はそのまま溜息となって消えた。

「ふむ。あれはまさに神獣の一つの不死鳥だな」

「あ、動いてるよ! 二人とも、見た?」

 空を見上げているカナメとリクとカズキ。

 リクが指を指す空には朝からずっと打ち上げられている花火が空を彩っている。

 昼間であるはずなのに、花火は目を奪われるほどの綺麗さで、これを夜に見たらもっと凄そうだと思い、リクは胸を高鳴らせた。

 一般的な花を象る花火に混ざり、打ち出された瞬間に様々な形を象る花火があった。

 それがリクらの話題となっているもので、伝説上の生き物とされる不死鳥や一角等を模した花火が空に舞ったかと思えば、それは空を駆ける、もしくは泳ぐように動いた。

 それらは花火であって生きているわけではない。

 けれど生すら感じられるほど、生き生きとして見えた。

 ちなみにこの花火は錬金術担当教師であるソウジがこっそりと作り上げていた作品だと知った少年達が後日、彼に詰め寄る姿が見られるのだが、それは別の話である。

「校舎の中はどうなってるんだろうな?」

「さあ…。でも魔力はひしひしと伝わってくるよね」

「案外迷路とかになってるかもしれへんな」

 学園の中央に立つ校舎の塔を指差すユヅキ。

 ルイが睨みつけるように気配をよむ。

 確かに塔からは空間が捻じ曲げられている魔力の波動がここにいても伝わってくる。

 おもしろおかしく冗談交じりに言ったキョウだったが、実を言えばそれは的をえていた。

 ケイカやネイトらによって、塔の中の空間は迷路のようにされていた。扉を潜った先がいつもある教室とは限らない。更にいえば、一度通った場所も目まぐるしく空間がぐるぐる回っているために同じ場所に戻れる確率はかなり低い。

 迷路も迷路、摩訶不思議な迷路がそこに広がっていた。

「俺はあっちの森が気になるな」

「ああ、それはいえてる。何かあそこだけ空気が違うんだよね」

 飄々として森や湖へと視線を向けるリョウ。

 リイチがそれに同意した。

 そこはユキが受け持った場所。

 森の周りに結界を張り、ユキはそこをさながら精霊の森に変化させた。

 とはいえ彼女的にはこれといって何かをしたわけではない。

 ユキがしたことは、森と湖に精霊や妖精達を召喚だけだった。

神族や魔族と違い精霊達も別世界に移りすんだとはいえ、実際にはこの世界のあちこちに精霊達は今もまだ生き続けているのである。それこそ植物や水、万物の全てには精霊が宿っているといっても過言ではない。

 張った結界は〈力〉の及ぼした範囲を限定するため以外にももう一つの理由がある。

 古代魔法が使えない今の魔法使い達は、〈眼力〉をもたないために精霊達の姿を見ることができなければ、その声すらも届かない。

 そんな少年達の弱い〈力〉を手助けする役割も結界がはたしていた。

 見ることまではいかなくても、その存在を感じやすくし、その人の潜在能力によっては声くらいなら聞こえるかもしれないだろう。

 神秘的な雰囲気が漂う。

 まさにそこは今、精霊の森といえた。

 ナルミやエイジほどではないが、各々好き勝手にしている仲間達を見て、コウはもう一度溜息を零す。

 もはやこうなってはコウ一人の力ではどうすることもできない。

「コウ先輩…」

 呼び声とともに。

 ぽんっと軽く叩かれる肩。

「……ああ、レンか」

 振り返ったその先にいたのはレンで、コウと視線が合うなり苦笑してみせる。

「…まあ、今日はお祭りですしね…。今日くらいははめを外してもいいんじゃないでしょうか」

「そう…だな」

「はい、そうですよ」

 周りの仲間達を見回し、互いに顔を見合わせて苦笑し合う。

 そこでコウは何かに気づいたように周りを見回し直した。

「? どうかしたんですか、コウ先輩?」

「あ、ああ。シュリンの姿がないような気がするんだが……」

 宿舎を出た時までは横にいたはずなのに、いつの間にかこの集団の中からシュリンの姿がいなくなっていた。

「シュリン先輩なら…」

「知ってるのか?」

「はい。宿舎を出たすぐの所でユキさんの姿を見つけたとかで…」

「ユキさんを?」

「俺もよく気づいたな…って思ったんですけど…、どうやら傍の木の上でうつらうつらしていたようで………起こしてやるって言ってましたよ」

「そうか…」

 微妙な間が空いたことに対し、コウが何も追求しなかったことにレンは胸を撫で下ろした。

実をいえば実際は少しばかりレンの告げた言葉とは違っていて。

シュリンは眠たそうな――というよりも半分ほど眠っている――ユキを発見し、おもしろそうだから脅かしてやろうと悪巧みをした、というのが真実だった。

 しかしそれをコウに正直に言うのもどうかと思い、咄嗟にレンは誤魔化したのである。

「…まあ、あいつのことだから遅刻することはないだろうし、大丈夫だな」

 苦笑しながらコウが言う。

(……良かった。コウ先輩に不審がられないで…)

(……シュリンが離れたことに気づかないなんて、俺も充分に浮かれているということだな)

 微妙な思考のすれ違いに、お互いに気づくことはなかった。

 楽しそうにはしゃぐ少年達は何も彼らだけではない。

 学園の生徒達のほぼ全員が目をキラキラと輝かせてあちこちで騒ぎ続けていた。

 生徒達のほとんどが遅刻ぎりぎりにホールへと駆け込むことになり、爽やかすぎる笑顔を浮かべるレイにお叱りを受けることになるのは、これより数分後の話である。





 学園中の人々が一箇所に集合する。

 とはいえ軽く数百人は収容できると思われるホールにはかなりの余裕がある。

 特にこれといって席が決まっているわけではなかったので、生徒達は各々友達同士で集まって席についていた。それと少し離れた位置に教師達も陣取る。後方に来訪者として生徒達の親や客人の姿があるようだったが、親に至ってはそれほどの人数はいないようだった。

 ……まあ、参観日じゃあるまいし、こんな辺境の地に好んでくる親なんていないってことだろう。

 私は目の前に広がる壇上へと視線を向ける。

 見事ともいえるステージ。

 そこに見知った人物の姿が二つ。

「………何やってるんだか」

 見た瞬間に零れた溜息混じりの言葉に、隣りに座っていたソウジが苦笑する気配が伝わった。

「まあ、いいんじゃないですか。あれはあれで」

「………確かに正しい人選といえば人選だけど…」

 意味ありげに間をおいて。

「………………あれはどう見ても浮かれすぎだわ」

 どっちが生徒だか分かったもんじゃない。

 そう続けた私の言葉に、ソウジだけでなく傍にいたネイトも同様に苦笑した。

「確かにそうですけど…。まあ、でもあれだけ広ければ落ちる心配もないですし、大丈夫でしょう」

「…………そうね」

「…………そうだな」

 私とソウジは昔のことを思い出し、深々と納得した。

 別に壇上にいる彼らの心配をしているわけではなく、同僚として恥ずかしいと少し思っただけ。

 改めて私は壇上にいる人物――マヒロとカリンを見て、溜息を零した。

 学園長直々に、マヒロとカリンに司会を頼まれたらしい。

 ある意味正しい人選で。

 ある意味間違った人選。

 矛盾だとは分かるがそう思わずにはいられないのは、何も私だけではないだろう。

 とりあえず何事も起こらないことを祈りつつ、私はマヒロ達、司会の言葉を聞き続けた。

 お祭り人間である彼らのノリに便乗した少年達が元気よく騒ぐ。

 広いホールに対しての少ない人数であるはずなのに、ホール内は充分に賑やかすぎるくらいだ。

 初めの挨拶やら何やらと業務的なやりとりを行うのを横目で見ながら、私はちらりと視線を後ろへと向けた。

 視線の先は客人として招かれている人々。

 見知った顔もあれば、知らない顔――もしくは覚えるに値しない顔――もある。

 その中にクラムらの姿を見つけた矢先、視線が重なったので軽く手を振っておく。

 しかし、今私が後ろに視線を向けているのは彼らを見つけるためではない。

 目的は―――今回の重鎮。

 客人らに混ざって、確かに重鎮はそこにいた。

 重鎮である王族の人物。

 さすがに姿を見せるのは危険なので、フードで顔も体も隠している。一見、そんな格好でそんな場所にいようものならそれこそ不審でしかなさそうだが、それはファッションのなせるわざか。適度に上流人の空気を纏わせるに終わり、別にそこにいても違和感がない。

 ただ、見る者が見れば傍にいる連れがただの連れではなく、中央の人物に対して控えているのだと気づくだろうが。

「………」

「ユキさん、どうかしたんですか?」

 私の様子に気づいたソウジが視線を追って後ろを見る。

 そしてすぐに納得する。

「……ああ、なるほど…」

「……物好きよね、本当に」

「ははっ。ちなみにそれはどちらに対しての言葉ですか?」

 少しだけ悪戯めいた口調でソウジが尋ねる。

 私は考える間もおかず、即答した。

「両方に、よ」

 と。

 途端に起こったソウジらの苦笑は気にしないことにした。

 私達がそんなやりとりをしている間も祭りはプログラム通りに進行していたらしく、気がつけばステージ上の灯りが全て消えていた。

「それではトップバッターは三学年、古代魔法学専攻クラスによる合奏でーす!!」

 浮かれた口調でカリンが告げる。

 同時に、消えていた灯りが一瞬にしてついた。

 ――ただし、先程までとは違う灯りだが。

 いつの間にか壇上のあちこちには光る花々があり、それが綺麗に輝いている。

 そしてその光に照らされるように三人の少年の姿。

 言うまでもなく、私が担当する少年達だ。

 胸を張って立つ姿は何かに挑むかのようで勇ましい。

 彼らの手に各々持たれているのは私が渡した楽器。

 それを、見て。

「………あれ…?」

 初めに声を上げたのはネイト。

 けれどそれはネイトだけの反応ではなく、周りにいた同僚達も同じ反応をみせた。

 唖然としたのが最初の反応。

 その後で皆、示し合わせたように私へと視線を向けた。

「何、どうかしたの?」

 無視しようと思ったが、小さな情けで声をかけることにした。

 とはいえそれだけで視線を彼らへと向けることはなかったが。

「何って…。ユキさん……」

「だから何よ?」

「いや、だから、その……あれって…」

 しどろもどろになったキヨの言葉は、突如起こった騒ぎによって止められた。

 壇上にいる少年の一人、シーバス少年が合奏前の挨拶として口を開こうとした矢先、観客席からブーイングがとんだのだ。

 とばしたのがどの少年かは分からないが、きっとお祭り人間の一人なのだろう。開式だけであれだけもりあがった矢先、トップバッターが真面目な出し物ときたために不満を覚えたのだろう。

「………ブーイングする相手が悪いと思わないのかしら」

 ご愁傷様。

 私が呟くのと同時に、壇上にいるリイチ少年とヘリング少年の目が怪しく光った。

 スチャッ、と音を立てて少年達は楽器を構える。

 その時私は確かに聞いた。……どこかで何かが切れる音を。

「もっと面白いことやれよなー!!」

 お祭り少年が騒ぎ立てた―――その、瞬間。


 ゴォォッ!


 と。

 物凄い竜巻が発生した。

「い……っ!?」

 お祭り少年は叫び声を上げる間もなく竜巻に巻き込まれてホール上空へと吹っ飛ばされる。

 瞬時にして静まり返るホール内。

 重い沈黙が流れる中で、聞き知った声が響き渡る。

「―――ああ、悪い。手元が狂ったみたいだね。まあ、もうこんな事はないとは思うけど、馬鹿ばっかりいるようだったらどうなるかは分からないかもしれないね。っていうか、お前らって人の演奏を静かに聴けないほどに馬鹿なわけ? 本当に猿並の脳しか持ち合わせてないんじゃないの? 人が折角、お前らにも演奏を聴かせてやろうって思ってるのにその人の優しさを台無しにするっていうわけ?」

 息つくことなく続けられたマシンガントークに、私は心の中で拍手を送った。

 ……うーん、相変わらず見事だわ、ハリバット少年のマシンガントークは。

 先ほどの攻撃だけじゃなく、今のマシンガントークにやられた少年達も多いことだろう。

 少年達が楽器を構えなおす。

 微かに光を発したその楽器に、観客の少年達の体が強張る気配がした。

「………やっぱりあれ、ユキさんの魔法楽器じゃ…」

「………っていうか、それって武器だろ、おい」

 と、ケイカ達が口にするのと同時に。


「お前ら、耳の穴かっぽじってよく聞いとけよ」


 ヘリング少年がにやりと笑いながら告げた。

 それはさながら喧嘩を売るように私には見えた。


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