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Magical Garden ~箱庭の少年達と新任?教師~  作者: 夕城ありあ
第3章 文化祭編 《I'm reluctant to be playing, so I keep escape from everyone.》
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5 文化祭を待ち望む人々

 日々刻々と

 文化祭が目の前へと迫る

 楽しみにしている少年達よりも何よりも

 ……学園長である彼女が一番楽しそうに見えるのは

 私の気のせいだろうか…?






 日が経つなんてあっという間だと思う。

 特にせわしない日々が続くとそれこそ本当にあっという間で、気がついたらそれが数日後に控えていたなんてことはよくある話だろう。

 そんなことを何故か考えながら、私は目の前の人物を見る。

 その人物――レイは必死に私に何かを説明しているところだった。

「で、飾りつけはこんな感じにしようと思うんだけどどうかしら?」

 学園長室で、レイは私に図面を見せながら楽しそうに笑った。

 図面は学園の敷地内の物と、どこかのホールらしき場所の二枚。

 見ただけでも分かるくらいに後者に力が入っている。

「……いいんじゃないの」

 私はその図面をちらりと見遣り、適当に相槌をうつ。

 するとレイの顔が不機嫌そうなものへと早変わりした。

「もう、ユキ。私は真剣に聞いているのよ? そんないい加減に返事をしないでちょうだい」

「……だったら私じゃなくてマヒロ達と話し合えばいいじゃない」

 適材適所、という言葉がある。

 お祭り人間の彼らだったらきっと私以上に真剣にレイの話を聞いてくれることだろう。

 何と言っても目の前の図面は文化祭のための物なのだから。

「もう話し合ったわよ。だからユキと最終確認しているんじゃないの」

「あら、早いのね。…でも私と最終確認する必要なんてないと思うけど。レイがこの学園の長なんだし私には関係ないでしょう」

「だめよ。私が確認したいと思っているんだもの」

「…………あ、そう」

 これ以上何を言っても無駄だと悟り、私は隠すことなく溜息を零した。

 その後で改めて目の前の図面に目を遣る。

 確かに言われてみれば、レイの趣味というよりはマヒロ達が考えそうな飾り付けが含まれていると気づくことができた。細かくみていくとどれが誰が提案したものかがわかってしまうあたりに、私とレイ達との付き合いの長さが伺える。

 学園の敷地内の図面は、いかにもお祭りと称するに相応しいくらいに現状と違った飾りつけが予定されているらしい。文化祭は出し物にすると決めた以上、学園を飾りつける必要があるのかは甚だ謎ではあったが、それは気にしないことにした。折角のお祭りなのだから雰囲気も大切ということなのだろう。

 広い学園内のどこをどう飾るかが事細かく記載されている。

 木は勿論のこと建物にも雰囲気を出そうとするためか、凝った飾りが予定されているようで、普通の学校の文化祭のようないかにも生徒の手作りといった雰囲気とは百八十度違う。寧ろ、金持ちの道楽パーティか何かのようだと私は思った。

 ……とはいえここが魔法学校なのだと考えればそうなるのは当たり前なのかもしれないが。

 凝っている。

 本当に凝っている。

 それこそ用意するのが面倒だと言わんばかりに。

「ねえ、レイ」

「何、ユキ?」

 質問があるなら遠慮なく言っていいのよ?

 レイの笑顔が言葉に表さずともそう告げている。

 当然私が遠慮などするはずなく、質問を口にした。

「これは誰が用意するの?」

「そんなの私達に決まってるじゃない」

 さらりと答えるレイ。

 予想していた通りの答えだったとはいえ、顔を顰めずにはいられない。

「あ、勿論自分達で作ったりなんかしないわよ? 魔法に決まってるわ」

 ……何を今更当たり前のことを。

 そう思ったが口に出すことはしない。

 というか、もし仮に魔法を使わずにこれだけの準備をしようなんて言い出そうものなら、私はここで容赦なく家へと転移していただろう。

 魔法なしで用意できないことはない。が、そんなはた面倒なことはしたいとは思わない。魔法で準備するのでさえ私には面倒でしかないのだ。

「………勿論私も入っているのよね…?」

「当たり前よ、ユキ。頼りにしてるわ」

「………しなくていいわ、そんなの」

 聞かなければ良かった。

 ……いや、でも聞いても聞かなくてもどちらにせよ借り出されるのは目に見えているから変わらないか。

 私はもう一度溜息を零す。

「……で、これはいつ準備するの?」

 私はホールの図面の方を手に取る。

 一瞬、ホールなんてあったかと記憶の中を探る。用事などなかったので一度も足を運んだことなどないが、確かに学園の見取り図内には校舎から少し離れた位置に書かれていたことを思い出した。

 私と同じように、レイはもう一枚の図面を手に取る。

 それを見てまだ何かを書き加えながら―― 一体これ以上何を加える必要があるのか私には分からないけれど――答えた。


「前日の夜から当日の朝にかけてよ」


 さらりと何事もないかのように。

 ……そうかそうか。

 ……それで当日少年達を驚かせようという魂胆なのね。

 レイらしい答えに私は深々と納得してしまい、私も私で別に問題はないとばかりにさらりと流すことにする。

 実際、それは別に問題ではなかった。

 魔法で準備することを考えれば大した時間を要しはしないだろうし。

「ああ、そうだわ」

 思い出した。

 ぽんっと手を叩いてレイが言う。

 レイは立ち上がって自分の机の所に行ったかと思えば、その上に積んであった書類の中から数枚を取り出し、それを手に再び先ほどの位置へと戻ってきた。

 何を持ってきたのかと私が思うよりも早く、その書類を私へと手渡す。

「………『来客予定』?」

 受け取った紙の一番上に書かれていた文字で目に付いた部分を、私は口に出して読んだ。

「そう。去年もそうだったんだけど、文化祭は外からのお客様が来ることになってるのよ」

 魔法学校も普通の学校と変わらない。

 とはいえそれは表向きの言葉で、実際の魔法学校は普通の学校と異なる部分が多々あるのが事実である。

 その中の一つがイベント類。

 純粋に魔法学の育成を求める魔法学校においては、他の学校と比べるとイベントを行う学校は極少数でしかなかった。全くないとは言い切れないが、それでも普通の学校と同じくらいにあるとは言い難い。

「うちの学園は行事を大切にしているから珍しいということで、様子を見に来る人達が結構いてね。今年はそれだけの人が来ることになっているのよ」

「ふぅん…」

 ぱらぱらと手元の資料を捲りながら速読する。

 他の魔法学校の教師や魔法教会の人々。

 様々な人の名前や地位が大まかに書かれていて、確かにレイの言う通りに様子を見に来る人数としては多いといえる。

「あら、クラムも来るの?」

 その中に見覚えのある名前を見つけ、思わず声に出す。

 魔法教会から来るメンバーの中に、元私の教え子であるクラムの名前が並んでいた。

「ええ。ついでだから来訪者じゃなくて私達と一緒に催し物をしてもらおうと思ってるの」

「……そう」

 ご愁傷様。

 来客になったばかりに巻き込まれることになってしまったことに同情しつつ、しかし彼なら喜んで――とまではいかないが――協力してくれるだろうと考える。

 そして、彼以外に見つけてしまった『オイスター』という名前に改めて私はその人物へと同情した。彼もまた、巻き込むことはレイの中で決定事項だろう。……年齢でいくと彼の方がレイよりも上のはずなのに、押しが弱いところもあるから巻き込まれずにすむ、という事はありえないだろうし。

 再びぱらぱらと紙を捲り始める私がそれを見つけるのと、


「今年はね、大物のお客様がいるのよ」


 レイが楽しそうにそう言うのはほぼ同時で。

 私はそこに書かれている名前が確かなのだと知る。

「あら、驚かないの、ユキ?」

「……驚くも何も…」

 私が驚かなかったことがレイには非常に残念そうだった。

 しかし私が驚くことはなく、代わりにこっそりと心の中で溜息を零す。

「………少年達は驚くでしょうね。こんな大物が来るとなれば」

「ふふっ、そうね。でもいい機会だわ。こんなこと、滅多に…というよりもないに等しいことだもの」

「………当たり前じゃない。普通、来ないわよ…」


 ――王族の人なんて。


 私のその言葉は声にならなかった。

 けれどレイにはその言葉が伝わっていたようで、にっこりと微笑む。

 そこに書かれていたのは、王族という身分と、その名前。

 時期王候補と一番言われている人物の名前が、そこに確かに書かれていた。





「文化祭まであと数日しかないんですよね…」

「そうね」

「何だか日が経つのが早くて不思議な感じです、僕」

「不思議とは思わないけれど、日が経つのが早いと思うことは私も同感よ、アルフォンシーノ少年」

 和やかな雰囲気が研究室内を包み込む。

 私はまったりとしながらティータイムを満喫していた。

 残念ながらシーバス少年はいないので紅茶の用意をしたのは私で、しかし少年達も自ら進んで手伝いをしてくれた。……うん、いい子達よね、本当に。

「そういえば俺、聞いた話があるんですけど…」

 本日のお菓子はアップルパイ。ちょうど今が旬のため、色んな人達から貰った林檎が沢山あったので、ちょうどいいとばかりに授業のない空き時間に焼いておいた。

 そのアップルパイを食べながらポラック少年が口を開いた。

「あ、俺も」

 話に加わってきたのはマッカレル少年。

 マッカレル少年は林檎が好物らしく、前もって少しだけ他の少年の分よりも量を多めにしておいた。いつも部屋の掃除をしてくれているので、少しばかりのお礼代わり。

 いつもならそれに気づいた他の少年達が騒ぎ出しそうだが、運がいいことに騒ぎそうな少年はここにはいない。

 今ここにいるのは目の前の三人の少年だけだ。

「ユキさん達教師も何か出し物をするって聞いたんですが、本当ですか?」

「あら、もう知ってるの?」

「はい。シュリン先輩から俺は聞いたんですけど…」

「俺はルイから聞いたな」

「…あ、僕はリイチさんから……」

「なるほど」

 一応当日まで秘密の予定ではあったが、あの食えない三人の少年達なら知っていてもおかしくないかもしれない。

 既に知られているのならば隠す必要などなく、私はあっさりとそれを肯定した。

「ええ、私達もするわよ」

「本当なんですね! うわぁ…、僕、すっごく楽しみです」

 表情を綻ばせてアルフォンシーノ少年がふわりと笑う。

 アルフォンシーノ少年ほどではないが、残りの二人も表情を緩めたのが分かった。

「ありがとう。でも楽しみにするほどのことじゃないと思うわよ」

 決まった以上、私も参加はするもののやる気がないのは否めない。

 こんなに純粋に期待の眼差しを向けられると、ほんの少しだけ悪いような気になら……ないでもない。

「あれ、でもプログラムには書いてなかったよな?」

 マッカレル少年が近くに置いておいた自分の荷物から一枚の紙を取り出す。

 学園の全員に既に配られている文化祭のプログラムが書かれている紙は、当然ながら私にも見覚えのある物だ。

 文化祭ともなれば冊子にでもできそうなものだが、しかしクラスごとの出し物が何であるかが互いに秘密であるため、プログラムとして順番が書かれているだけでしかなく、一枚のカードのように綺麗にさっぱりとまとまっている。

 その紙にはマッカレル少年の言うように教師一同の出し物については一切触れられていない。

「…ということは最後…になるんですか?」

「さあ、私もよく分からないけどおそらくそうなんじゃないかしら」

 レイのことだから、生徒達に混ざって途中で出し物をするなんてことは考えられない。

 考えられるとすれば最初か最後。おいしとこどりが大好きな彼女のことだから、最後である確率の方が高いと思われる。

 出し物の順番は学園長であるレイの厳正な判断により決定されている。

 詳細まで知っているかは定かではないが、全クラスの出し物が何であるかを唯一把握している人物として、どのクラスが何をするかを前提にして判断したと言っていた。

 ―――のは表向きで。

「どれとどれを合わせるといいかしら?」

 含みのある笑みを浮かべてレイが指し示した紙に書かれていた点と点を適当に繋げた私は、その時予想もしていなかったのだ。

 ……まさか、それが文化祭の順番を決める物だったとは。

 点の先に隠してあった文字。

 片方にはクラス名。

 片方には番号。

 何か企んでいるとは思ったけれど、適当にあしらった私は隠されていた部分にそんな文字が書かれているなど思ってもみなくて。私が適当に点と点を繋げた後、レイが鼻歌まじりに隠すのに使った紙をぺりぺりと剥がし、その下から出てきた文字に思わず目が点になった。

 繋がったもの同士でどのクラスが何番目に出し物をするかを他の紙に書き取っていくレイを見て、私は自分の受け持ちの少年達に心の中で一度だけ謝罪した。

 大当たりも大当たり。

 何か裏があったのではないかと一瞬疑わずにいられなかったが、私の受け持ちの三人の少年の出し物は、見事にトップバッターの地位を獲得したのである。

 ……まあ、あの三人が最初だからと気後れする性格ではないが。

 寧ろ大歓迎と意気込んで挑んでくれることだろう。

 ちなみにアルフォンシーノ少年達の二学年Aクラスは中盤の予定で、程よい位置をキープしている。

「……あと数日かぁ…」

「去年まではそれほど楽しみってほどじゃなかったけど、今年は何だか楽しみだよな」

「うん、僕もそう思う」

 ちらりと向けられた三人の視線に、私は紅茶を飲むのを一時中断する。

「何? どうかしたの?」

 私の問いに、三人の少年の「何でもない」という言葉が重なり、互いに顔を合わせてくすっと小さく笑いあっていた。

 ……何を笑っているのかよく分からないのだけど。

 まあ、何かを企んでいる様子ではないので気にしないことにした。

「でもホントに何やるのか楽しみだよな」

「うん」

 楽しそうに笑うマッカレル少年達を見て、私は手を軽く左右に振った。

「いや、楽しみにしなくてもいいから」

「なんでそんな事言うんですか、ユキさん…」

「だって本当にそんなに楽しみにされるほどのものじゃないもの」

 ――ただの歴史だし。

 という言葉は声には出さなかった。

 あくまで秘密だというレイの意志を尊重して。


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