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Magical Garden ~箱庭の少年達と新任?教師~  作者: 夕城ありあ
第3章 文化祭編 《I'm reluctant to be playing, so I keep escape from everyone.》
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3 迷惑な問題発言

 お祭り、イベント

 大勢で行うのが楽しいというのはわかるけれど

 けれど私にとってみれば

 ……面倒事に変わりなかったりする

 第三者の立場ならそんなことは思わないのだけれども






「相談があるんですが…」

 シーバス少年に、そう話を持ちかけられたのは私が少年達に、挑戦的な言葉を投げつけた数日後のことだった。

 協力すると告げた手前、その相談を受けないわけにはいかない。

 何か妙な面倒事でも企んでいるのなら、話を聞くことすらしようとは思わなかっただろうけど、シーバス少年、そして他二名の様子を見ているとそういった雰囲気ではなさそうだった。

「構わないわよ。文化祭のことよね?」

「ええ、そうです」

「何をやるかは決まったわけ?」

「まあ、一応は…」

 既に文化祭まで一ヶ月をきっている。

 正確には三週間ほどしか残されていなくて、どのクラスも必死に練習や用意をしているようだった。

 さすがに何をするにせよ、出し物が何であるか決まっていないとやばいというもので。

 シーバス少年の肯定の返事に、少し安堵した。

 ……まだ何も決まってないとなれば、担当教官としてレイに何か言われそうだし。

「で、何にしたの?」

 責任者としてそれくらいは知っておく必要がある。

 私の質問に答えたのは、ハリバット少年だった。

「正統派で合奏をすることにしたよ」

「客受けを狙ったりはしないの?」

「この面子でそれは難しいだろ。それに何より俺が嫌だね、そんなのは」

 ふんっ、と鼻で笑うハリバット少年。

 私はその言葉に納得しつつ、しかし頭の片隅では客受けを狙う三人の少年の姿を想像してみた。

 ……ううん…、確かに想像し難いかも…。

 俺様的なハリバット少年。

 やる気のないヘリング少年。

 朗らかなシーバス少年。

 藤代少年達と比べると彼らが受けを狙う姿は想像し難い。

 ……いや、しかしハリバット少年だったら…。

 と、素敵的想像を膨らませようとしたその時、目の前から突き刺さる痛いほどの視線に私は想像を取り消した。

「…………ねえ、ユキ。今何か想像しなかった?」

「何もしてないわよ」

「…………」

 疑惑の眼差しを向けられる。

 しかし私はそれをさらりと流し、相談が始まる前にシーバス少年が用意してくれた紅茶を口にする。先日、レイに分けてもらった新作の紅茶だが、なかなか香りが良くて美味しい。そしてシーバス少年がいれる紅茶はそれをさらに美味しく仕上げている。いつもながら素晴らしい腕前である。

「それで、どんな合奏にするの?」

 正統派はつまらない、と。

 お祭り的イベントでは生徒達にとって客受け派の方が人気あるために、一見そう思われがちではあるものの、しかし正統派の出し物を馬鹿にしてはいけない。

 古い人間の私としては、正統派の出し物こそ文化祭にあってしかるべきだと思うからだ。

 ……まあ、私が静かな方が好きだというのも理由になっているのだろうけれど。

 ――合奏。

 とはいえ、多種多様の合奏がある。

 使う楽器、選曲によって本当に合奏者の個性が現れるというものだろう。

 劇をやるには三人は少ないが、合奏ならば三人でもできなくはない。別にオーケストラを目指しているわけじゃないし。

「無難にバイオリンとかがいいかって思ったんだけど、それだとつまらないような気がするんだよね」

「それで、何か伝統的なものか、それとも民族的な楽器を使った合奏をしようかと考えているんだが……」

「ふむ。なかなか面白い発想なんじゃない?」

「だろ? で、そこで相談なんだけどね。何かそういった楽器、持ち合わせてない?」

 つまり、相談はそれか。

 私はもう一度、ふむ…と納得して記憶の綱を手繰り寄せてみる。

 この学園にも楽器は幾つか用意してある。それは一般科目としての授業で音楽があるからなのだが、残念ながら伝統的、もしくは民族的な楽器はそこにはないと思われた。

 となれば私の所有物で、ということになるけれど。

「…………うーん…」

「ありそうか?」

 ヘリング少年の問いと同時に、私はぽんっと手を鳴らしていた。

「ああ。そういえばあるわよ」

「本当ですか?」

「ええ。私が暇つぶしに集めた物と、昔知り合いから譲り受けたり預かったりした物が幾つか」

「……暇つぶしって何だよ…」

「長年生きていると、何でもいいからやってみようとかいう気になるのよ」

 たとえば発想の転換をしたい時。

 たとえば突然何かがやりたくなった時。

 というか、実を言えば過去に暇つぶしと称して色々な趣味を持ち合わせていたので、私の能力は様々だったりする。大体のことはできてしまうくらいには長く生きているのだ。

 音楽だってそれなりにできる……はずだ。たとえ数百年手を付けてなくても。

 そして私は、はたっとそれを思い出した。

 数百年という単語がキーワードだったのかもしれない。

 思い出したのは数百年どころではなく、それこそ気の遠くなるような何万年か前のことなのだが。

「……お勧めの楽器があるわよ?」

「いきなりだな、おい」

 ヘリング少年がすかさずツッコミをいれる。

 手のジェスチャーまで伴っていて本格的なツッコミだ。

「変なのじゃないだろうね?」

 ハリバット少年が疑わしいとばかりの眼差しを向ける。

 心外だわ。

 と、心の中でだけで反論したのは、人それぞれの感覚によってはそれが『変なの』に分類されてしまうことも有り得るからだったりする。

「私としては全然変な物のつもりはないけれど、でも人によってはどう思うかはそれぞれだと思うわ」

「……どういう事ですか?」

「そうねぇ…。説明するよりは見た方が早いとは思うけど……」

「けど?」

「敢えて言うならば、普通の楽器じゃないということかしら」

 その私の言葉に、

『普通の楽器じゃない?』

 と。

 三人の少年の言葉が綺麗に重なった。

 合奏ではなくて、合唱でも十分大丈夫なのではと思えるくらいのはもり様である。

 訝しげな視線を向けられる中、私は一人、懐かしい過去の思い出に思考を巡らせる。

「そう。普通の楽器じゃないわ。だって、その楽器は―――……」

 自分ではそんなつもりはなかったけれど、どうやら私は口端に笑みを浮かべていたらしい。

 私の言葉に、少年達は各々の反応を示した。

 ハリバット少年は、お馴染みの不敵な笑みを浮かべた。

 シーバス少年は、半ばぽかんとした表情を浮かべて、その後に納得したように微笑みを浮かべる。

 そしてやる気のなかったヘリング少年は、瞳に私の言葉に対しての興味の色を浮かべ、ハリバット少年同様に不敵な笑みを浮かべたのだった。





 何故かは分からないけれど、必ずといっていいほど毎日、私の部屋に誰かが訪れる。

 誰か、というか私の私室なので来訪者は元教え子の教師達に限られるのだけど。

 物好きというか、暇人というか、はっきりいって理由が私には分からない。

 けれど、別に面倒事を持ち込まなければ気にしないことにして、私は毎日のようにその誰かしらを迎え入れる。

 今日の来訪者は、その中でもダントツで来る回数が多いレイ。

 ちなみに本日の手土産は有名所のマフィン。

 いつの間に入手してきたのかは知らない。

 レイのことだから、色々と裏で手を回しているのだとは思うけれど、興味がないのでその辺りのことは気にしない。

 とりあえず手土産は大歓迎なので、私は遠慮なくそれを受け取る。

 その代わりに紅茶を用意した。

 ……うん。さすが有名なだけあって美味しいわね、このマフィン。

 もぐもぐと食べることに集中している時、レイが声を掛けた。

「どう、文化祭の準備は?」

「さあ。順調なんじゃないの?」

「なんじゃないの…って……。ユキは何もしていないわけ?」

「協力は、してるわよ。案内の紙に書いてあったように」

 「は」の部分にアクセントをおいて告げる私。

 ムッ、とレイの眉が顰められたのが視界に入った。

 ちなみに表情は笑顔のままだから普通の人ならば気づかなかったことだろう。

 あれだけ紙面上で強調したのに関わらず、私がほとんど準備や参加していないことに対し、レイが不満をもつのは予想していたことだった。

私は予想通りのレイの反応に、心の中でだが、棒読み口調で笑い声をあげてみる。

「…………そう」

 静かな返事。

 けれど私にはそれが舌打ちしたように聞こえなくもない。

 というか、聞こえてしまったのは気のせいではないはず。

 ……レイってそういう性格なのよね…。

 にっこりと微笑みながら、レイはもう一度尋ねる。

 その綺麗すぎる笑みが怪しすぎるのは気のせいではないだろう。

「それで、ユキの担当の生徒達は何をするつもりなの?」

「正統派で合奏をするそうよ」

「あら、そうなの」

 残念ね。

 という言葉は何に対しての言葉かはすぐに理解できた。

 が、敢えて気にしないようにして。

「……まあ、リイチだしね。そうなるのが普通ってものよね」

 さすが親族。

 似たもの同士だけはありハリバット少年という人物をよく理解しているのだろう。

残念そうな表情を浮かべた後、けろりと何でもなかったようなあっさりとした態度に変わっていた。

「そういうレイの所は何を予定しているのよ?」

「さあ。至って普通のありきたりの出し物よ」

「…………そう」

 敢えてそれ以上の追求はしない。

 私は再び、もぐもぐとマフィンを食べ始めた。

 のだけど―――


「私ね、文化祭を盛り上げる為にもう少し何かしてみようかと考えているのよ」


 レイのその言葉に、私はぴたりと口の動きを止める。

 ちらりとレイを見る。

 レイは食えない笑みを浮かべ、私に微笑む。

「………」

 微笑は、私に警戒心を与えた。

 何とはなしに嫌な予感が体を走る。

 私の第六感が告げていた。――今、レイとのやりとりを終了すべきだと。

 ごくんと口に含んでいたマフィンを飲み干して、紅茶で喉をすっきりさせる。

「レイ。そんなこ……」

 とは考える必要はないわ。

 と、私が口にしようとするのとほぼ同時に。


「だからね、私達教師も何かをするべきじゃないかって思うのよ」


 と。

 レイが嬉しそうに告げた。

 ぐわん、ぐわんと頭の中で警告の鐘が鳴る。

 降って訪れた面倒事に、抗議の叫びの代わりに鳴った鐘は、私の全身を使って鳴り響く。

 ―――最悪だ。

 すぐにでも却下せねば、と思って改めて口を開きなおそうとし――

『それ、楽しそうですねー!!』

 思ってもみない人物の声が部屋に響き渡った。

 うきうきわくわくと表現できそうな楽しそうな声。

 ぴしっと私の体の動きが止まる。

「………」

 部屋を見回したが私とレイ以外に人の姿はない。

 加えて部屋の周りにも人の気配はしない。

 ……では、声はどこから?

 問うような眼差しをレイへと向ける私。

 レイは、してやったりという笑みを浮かべながら、何かをポケットから取り出した。

 小型の何かは私も見覚えのある物で。

「…またそんな姑息な手段を……」

「ふふっ。私は私の望みのためなら何だってするわよ」

「………そうね。レイはそういう人よね」

 それは昔、錬金術を得意とするソウジが作った物。

 遠方にいても会話のやりとりができるようにと作られたそれは、人目に出ていたら画期的な道具として世界に広まっていただろう。ただ残念なこと……かどうかは分からないけれど、作成者であるソウジは自分達の便利のためだけに作ったので人目に出すことはなかったが。

 おそらくレイの持っている物と同じ物が置いてある部屋には、他の皆が集まっているのだろう。

 先ほどの声以外にも外野の声が聞こえてくる。

 私だけが聞いていた言葉だったら、安易に却下できた。

 しかし私以外の全員が聞いていた言葉であり、しかもレイの提案を受け入れるような言葉である以上、結果は見えている。

 溜息が零れる。

 呆れが半分。

 残りの半分は、このやろう…な気分とでもいっておくべきか。

「頑張らないといけないわね、私達も。生徒に負けていられないわ」

 既に決定事項となったそれを前提とした言葉を口にするレイ。

 その瞳が無駄に燃えているような気がするのは気のせいだと思いたい。

『俺も頑張りますよー』

『楽しみですね。何にしましょうか?』

 次から次へと聞こえてくる声は、故意的に右から左へとスルーさせることにした。

 ……とはいえスルーしたところでそれこそ無駄でしかないのだろうけど。

「逃がさないわよ、ユキ」

「……レイ」

「貴方も教師の一員なんだもの。教師一同でやるから私達の誰かに代わりを押し付けることもできない。当然、生徒達にも押し付けることもできない。――逃げ場はないわね」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべて、にっこりとレイが微笑む。

 私は何も言う言葉が見つからず、もう一度、大きな溜息を零した。

 重い、重い溜息を。


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