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Magical Garden ~箱庭の少年達と新任?教師~  作者: 夕城ありあ
第1章 出会い編 《It's up to me to begin new my life or not to.》
3/41

3 生徒達の反応と先生達との再会


 生徒達にとって好きな先生のタイプは?

 人によって色々だと思うけれど

 とりあえず

 自己中で無愛想な先生は好きにはならないことでしょう






 マジカルガーデンの年齢制限は、最低が十歳、最高で二十歳までとなっていて学年は一学年から七学年まである。年齢で学年が決まるのではなく、入った時によって年齢はまちまちとなってくるのだが、大半の生徒は十一歳で入学をし、十七歳で卒業となる。一部、優秀な生徒は飛び級というものがあるが、優秀な生徒ほど学校に長く在学して勉学をしようとするので飛び級となる生徒は極稀である。

 二年前に開校したこともあり、現在は三学年までしかない。

 クラスの数は各々の学年に二クラスずつ、一クラスあたり約二十名と若干少なくなっている。

 生徒の数も少なければ教師の数も少ない。

 学校中で教師の数はたった八人しかいなかった。

 二学年までは担任教師がいて、その先生に一般的な知識――普通に学校で習うような数学や社会等の勉強のことである――を学ぶことになっている。

 三学年以上になると担当教官を選ぶことになり、それ以降は必須授業以外、その教官から全ての勉学を教えてもらうことになる。とはいえ教官になる先生の性格により独学をやらせる先生もいるのは否定できない。

 担当教官は生徒が好きな先生を希望できる。大抵はその先生の人柄や、その先生の受け持つ専門教科に合わせて選ぶといえた。

 ――今年三学年へと進級した生徒は、あと二週間程で担当教官を選ばなければいけない立場にあった。




 昼休み。

 生徒達は例外がなければ大食堂で食事をとることになっている。食事に指定されている時間内にとればいつでもよい為、生徒達が全員一斉に食事をとるのは朝と夜くらいで、昼は本当にまちまちな時間に昼食をとっていて、食堂が混雑することは稀である。

 食事はバイキング制になっていて、カウンターで好きな物を選んで取り、それをテーブルで食べることになっている。

 幾つかあるテーブルが置かれているが、その中でも中央にある一番大きなテーブルに生徒達の何人かが集まって昼食をとっていた――余談だが、全寮制の上に生徒数が少ない為に生徒達の仲は良い――。話題は先生のことだった。

「お前ら、古代魔法学ってもう受けた?」

 パンを千切りながら食べていた一人の少年が尋ねた。

 赤茶けた髪をした、十人いれば十人共が美しいと認めるだろう見目麗しい少年の名前はリイチ・ハリバットといい、現在三学年に所属する少年の一人である。女王様のような性格をしているが、頭脳は高くて状況判断も速く、リーダー体質である為に周りから嫌われることはない。

 『古代魔法学』という言葉に反応し、今までわいわいと話に花を咲かせていた生徒達は一斉にリイチの話題にのってきた。それはもう、その話題を待っていましたと言わんばかりの食いつきっぷりである。

「受けたぜ、俺達も。っつーか、最悪の授業だったってーの」

 不満たらたらと言わんばかりの表情でエイジが言う。

 オレンジ色の髪をした彼は二学年に所属しており、ユキの授業において早々に減点された存在でもある。初回で点をマイナスされたのがこたえているのだろう。ぶつぶつと「五点が…」というクラスメイト以外には意味不明な言葉を呟く。

「そうそう。俺達生徒を全く無視して進めてるって感じじゃん。俺、あーいう授業って苦手…」

 同じクラスメイトの泣き黒子がチャームポイントである少年――ナルミがわざとらしく両手をぱたぱたと振ってみせる。その行為が示すことは『手が疲れた』というものである。それは別にやらせでも何でもなく、事実としてナルミの手は筋肉痛かというくらいに疲労を訴えていた。

 全くもって同感だ、とばかりにその場にいた全員が深く頷いた。

 ――それもそのはずで。

 古代魔法学の授業方法はといえば、延々と先生が黒板に文字を書き続けているという方法なのである。

 発言もなければ先生が意図的に生徒達に何かを尋ねることはない。ただ黙々と黒板に文字を書き、書きながらそれを読むだけで、一時間の授業の間に黒板はかるく往復五、六回はされていると思われた。

 生徒達は必死になってそれをノートに書き取る。おかげで他の教科に比べて古代魔法学だけが異様な程に書き写したノートのページ数だけが多くなっている。これには流石に生徒達もげっそりとなるのも仕方なく、不満をもって当然といえただろう。少しでも居眠りをしようものなら、注意はされないが書き写しができなくなる為に完全に授業においていかれてしまう。

「去年までの先生もあれだったけどさ、今回の先生も嫌な感じだし」

「…ああ、オイスターか。あれは……なぁ…、根性がひねくれてるっつーか、厳しいっつーか、テストとかは最悪だったよな。新しく他の学校に就任することになったって聞いた時は喜んだもんだけどな」

 オイスター教授は昨年度までこの学園で古代魔法学を教えていた教師であり、見た目が三十代後半くらいと見た目年齢が固定する魔法使いからすると若干、歳をとった厳しい表情が板についていた男子教師の名前であり、そんなだから生徒達から好かれるはずもなく、先生達のいない場所では敬うべき敬称をつけずに呼ぶ生徒がほとんどだった。

「ぬか喜びか……」

 はあっと。

 大きな溜息があちこちから零れる。それはまるで溜息の大合唱だ。

「内容も魔法史と被っているのを否めないな」

 淡々と考察モードに入りながら話すのは、二学年に所属する灰色の髪をしたカナメ。彼は自他共に認める研究者体質であり、気になる事があれば追求し続けずにはいられない厄介な性格の持ち主である。

「魔法史よりもこまごましてると俺は思うけどな」

「魔法史でもあそこまで詳しくはやってないし」

 トロウト兄弟が口を揃える。流石に兄弟といったところか息もぴったりである。背は兄の方が少し高めだが、どちらも屈強な体格をしており、民族的なものなのか肌は浅黒い。ぜひともサングラスが似合いそうな容貌をしているが、残念ながら学園にそれは不要であり、小さめの目が体格に反して可愛らしい顔立ちをしているとは、本人達には誰も言えない。……否、過去にリイチがばっさりと突っ込んだことはあるが、それは物怖じしないリイチだからこそできたことだろう。

「だいたい教師からいっていけすかねぇんだよ」

 口を尖らせていうのは三年のシュリン・へリングである。

 燃えるような赤色の髪をした、女好きのしそうな男前の顔立ちに垂れ目がちのシュリンは大層口が悪い。何か会話をすれば一も二も誰かの文句を砕けた口調で口にしているような、若干……どころではなく性格の悪い少年である。

 俺の趣味の女とは正反対だ、とさえ言い切る。

「無愛想もあそこまでいくとある意味凄いですよね……」

 言葉を続けたのは、二年のレン・ポラック。ベージュ色のサラサラヘア特徴ではあるが、平凡の平凡をいく特徴のない顔立ちをしている。授業の様子を思い返しているのか、レンは呆れを通り越してしまったのか、ある意味感嘆の息を吐いた。

 無愛想も無愛想。

 何かを質問すればカウンターパンチとばかりに容赦ない言葉が返される。その為に授業中は勿論のこと、授業外でも質問しようと思う生徒は一人としていない。

 生徒達にとって、ユキ・マーリンという教師はとても不人気だった。

 新学期が始まって僅か一月足らず。しかも遅れてきた為にユキが就任してからまだ半月足らず。その短い期間にこれだけ嫌われるというのも素晴らしいだろう。

「そういやコウ先輩達って今年から担当教官決めるんスよね?」

 はぐはぐと大口で口に食べ物を詰め込んでいたナルミが行儀悪く尋ねる。口いっぱいに入れて話しているものだから、周りにいる生徒から食べ物が飛ぶという文句が彼へと向けられているのだが、一向に気にした素振りがない。ゴーイングマイウェイとはこの事か。

 そのナルミを嗜めながら、コウ先輩と呼ばれた少年が「そうだな…」と答えた。

 名をコウ・シーバスといい、三学年に所属する。

 茶色の髪に、この中にいるメンバーの中で一番長身であることが特徴といえるその少年は、見た目通りに穏やかな性格をしている。リイチがそのカリスマでリーダーシップをとるのなら、コウは包容力でリーダーを務めることができる。まだ子どもであるはずなのに、大人顔負けの包容力だと褒めたのは、とある教師の一人である。

「リイチはもう決めたのか?」

「いや。色々迷ってんだよね…。興味的には学園長が教える黒魔法学かもしれないけど。コウ達は?」

「…そうだな。俺としては薬草学や白魔法学がいいかと思っているんだが……」

「俺は断然精霊魔法学だろうな。…天文学にも興味あるけど先生が先生だからよ」

「……確かに」

 渋沢の言う薬草学の教師の名はキヨ・バーナクルで、白魔法学はネイト・ラグワームが教師をしている。

 三上が言う精霊魔法学はマヒロ・スカラップが、天文学はドジっぷりを学園の全員から認められている女教師のカリン・シェルが受け持っている。

天文学は占学なども含まれている為に興味をもつ生徒も少なくないのだが、教師が教師だけに不安は除けなく、専攻するにはどうしても躊躇してしまう。ちなみに本日の失態の一つとして参考にあげるとすれば、天文学で使う水晶を思いっきり床へと落下させて真っ二つに割ったことだろう。咄嗟のことで魔法を使って落下を防ぐことができなかったらしいが、教師がやってしまった失態としては恥ずかしすぎる。

 ちなみに専門の教科に選べるのは必須教科で、学校に通う七年間のうち六年間ずっと習い続ける八教科からである――七学年は卒業研究で専門に選んだ科目のみになるので例外としておく――。八教科というのは、白魔法学、黒魔法学、精霊魔法学、古代魔法学、天文学、薬草学、魔法史学、錬金術学をさす。

「せいぜいじっくり選ぶといいよ」

 淡々と食事を続けていた二学年の黒混じりの緑髪の少年――ルイ・フラウンダーが、一人お先とばかりに食事を終えて手を合わせる。

 ルイ達にとってみればあと一年の猶予がある為にこの悩みは、今は無用といえて本当に人事だとばかりの態度である。

 コウは苦笑をする。

「……いいな、お前らは」

 少々やさぐれ気味に、リイチは小さく呟いた。




 私は与えられた部屋でゆっくりと昼食をとっていた。

 生徒と違い、教師は大食堂で食事をとってもいいし、自分の部屋で取ることも許されている。好き好んで生徒達と顔を合わせる方を選ぶはずもなく、私はこうして自分の部屋で昼食をとっているというわけである。

 自分の部屋ということで眼鏡はテーブルの上に置いていて、視界もすっきりはっきりである。もともと伊達眼鏡の為、ない方が視界はいい。眼鏡という枠があると境目の辺りに見える景色に違和感があるのだ。

 食後のデザートにお手製のフルーツパフェを食べながら、私の顔は幸せとばかりに表情が緩む。それはもう、にまにまという感じに。美味しい物を食べれば人間誰だって一時の幸せに浸れるというものだろう。

「あー幸せ……」

 うっとりとしながらパフェの中のフルーツの一つを口に含む。

 盛り沢山のフルーツ達はクリームの甘さとマッチして、見事なハーモニーを口の中でつくりだしていた。

 甘い物は好きだ。

 私は食事をとる時は必ずといっていいほどデザートを食べるようにしていて、これはもう拘りというよりも習慣と言い切ってもよいほどだ。

 幸せに浸っていた私だったが、この部屋に向かってくる複数の気配を感じ取ってしまい、もぐもぐと口を動かしながらも目を細める。バンッ、と無粋にも勢いよく開かれた扉によってその幸せは妨げられたのはこのすぐ後のこと

 扉に背を向けて座っていたのならばそのまま無視しようとも考えなくはなかったのだが、残念ながら既に入ってきた人物の姿は私の視界に入ってきてしまっている。

 はぁ…っ、とわざとらしく大きな溜息をついて私はデザートタイムを中断した。パフェにのっているアイスに保存魔法をかけるのも忘れはしない。

「………マヒロ、キヨ…。ドアは静かに開けるように。そもそもノックはどうした」

 完全に侵入者的な入出方法は、正直頂けない。

 そんなくらいじゃ壊れるような扉ではないけれど、気配を感じ取れば驚くことはないけれど、だからといってマナーがなってなさすぎる。

「ユキさん、冷たいですよ。久々の再会だっていうのに」

「そうそう。俺なんてユキさんが来るって聞いた時には胸躍らせたんですから!」

「あらそう」

 ぴしゃりと言い放って。

 私は食事を再開する。

 二人が不満の声を上げたが、私は敢えて無視し続けた。私の優先順位は、今はこのパフェを食す以外にありえない。

 結局二人は静かに扉を閉めると、部屋の中の椅子に座って私が食事を終えるのを待っていたようだった。途中、再び何か話しかけたりしていたような気もしていたが、全て無視し続けたので一切

「………それで、何の用?」

 食べ終わり、私は彼らに向かって彼らが待っていただろう言葉を口にした。

 家から持ち込んだふかふかソファに座り、小さめのテーブルを挟んだ向かいのソファ――ちなみにこちらのソファはふかふかとはいえ私が座っているソファほどふかふかではない――に二人を座らせた。

「何の用、じゃないですって。もっとこう、久々に会ったんですから盛り上がるべきじゃないですか」

「いや、別に盛り上がる話題もないし」

「そんな殺生な…」

「……昔っから騒ぐタイプだったけどマヒロって本当に今もまだ五月蝿いのね」

「う゛……」

 ぐさっと、私の言葉が胸に刺さったようでマヒロは胸を抑える。

 マヒロ・スカラップという名の青年――見た目でいうと。実年齢は魔法使いなので押して知るべし、である――は、とにかく体格が良い。騎士と言われても納得するような体の鍛え方に、魔法使いだと名乗れば大抵の人は驚く。趣味が体を動かすことなので、なるようにしてなった成長の仕方だったのかもしれないが、出会った頃はそれはそれは小さな少年だった事を思うと、あんな頃もあったのに…と思わずにはいられない。そんなマヒロと同時に入って来たのはキヨ・バーナクルという名の青年――見た目で、以下略――はマヒロに比べると細身ではあるが、マヒロと一緒に体を動かすことが好きだと昔、豪語していた為に体作りはしっかりされている。もっとも、性格でいうとマヒロが騒がしいタイプであるのに対し、キヨはしっかり者である為、彼らの仲の良さが続くポイントともいえるのかもしれないが。

 と、その時、違う場所から笑い声が聞こえてきた。

 くすくすと堪えるような笑い声。

 ちらりと視線を扉の方へと向ければ、そこには私達以外の人物の姿があった。マヒロ達とは違い、音をたてないように静かに扉を開けたらしい。静かに、というのはよいとしても普通はノックして然るべきものだと思い、私は彼らに向かって言ってのけた。軽く睨みつけるのも忘れない。

「ノックをしなさい、ノックを。それが礼儀ってものでしょう、ケイカにネイト? それにソウジも皆より年上なんだから注意くらいしてもいいんじゃない?」

「俺が言ったところで聞くようなたまじゃないだろう?」

「少なくともネイト達ならきいたんじゃないの?」

「はははっ、まあ細かいことは気にするべきじゃないな」

「……全く」

 やれやれと私は肩を竦めて溜息を零す。

 マヒロ達と同じように私の部屋に入って来た三人の名前は、ケイカ・クラブ、ネイト・ラグワーム、ソウジ・カンチといい、彼らも先程入って来たマヒロ達と同じくこの学園の教師である。

三人がぞろぞろとこちらに向かってきたというのに、未だ扉の所には人の気配が残っている。じっと扉の影へと視線を向ければ、その視線を感じ取ったのか、隠れるようにして存在していた影がびくつくように動いた気配があった。

「………で、そこにいるのはカリンってわけね」

「!?」

 驚きに息を飲み込んだ音が聞こえた。

 そしてその後で、見つかっている以上隠れているのは得策ではないと判断したのか、おずおずと縮こまりながらもう一人、カリン・シェルという名の女性が扉の影から姿を現した。やや小柄――とはいえ、私よりは身長がある――な女性もまたこの学園の教師の一人であり、バリバリな目立つ化粧に反してその心は小心者そのものだった。化粧が彼女の鎧のようなものなのかもしれない。

「お…、お久しぶりです、ユキ先生……」

 笑っているのに笑顔になりきっていない。頬のひきつりが半端ない。よほど服芸が苦手らしく、感情がすぐに顔に出ている。

 そういえば昔から彼女は、つかみ所がない私を苦手とするような節があったと思い返す。それならば来なければいいのに、と思わなかったわけではなかったが、彼らに捕まって来るハメになったのだろう。

 私に与えられた部屋は狭くはない。

 寧ろ教室ほどの広さがあるので六人くらいの客人が来たところで害はない。が、狭い広いとの害はなくとも気持ち的には何ともいえない感じである。

 部屋で寛ぎきっている彼らの姿を見て、

「……こうなるとレイも来そうね…」

 と私が呟くのと。

 シュンッ、と空間を切っレイが私の部屋に転移してきたのは、ほぼ同時だった。

「あら、皆揃ってるのね」

 白々しく言うレイだが、絶対に彼女はこの自体を予測していたに違いない。

 その証拠に彼女の足元には何本もの酒瓶が。はっきりいって二人だけで飲むような量ではない。

「…ったく、騒ぐんなら私の部屋以外にしなさいよね……」

 呆れ混じりにそう言った私だったが、顔は知らず知らずのうちに顔には笑みが浮かんでいた。

 どうやら自分ではそうは思っていなかったものの、久々に教え子と会うというのは嬉しいことだったらしい。

 この学園の授業は、全て午前中に組み込まれていて午後からは担当教官をもつ者がその教官のもとに教えを請いにいく以外は自由行動となっている。分からない場所を先生に聞きに行くのもよし、各自で自由研究を進めるのもよし。当然遊び呆けるのもよしである。

 つまるところ、これといった予定はないというわけで。

「さあ、皆今日は思い切り騒ぐわよ」

 威勢のいいレイの一声を開始の声とし、今ここに私の就任を記念しての盛大なパーティー――といっていいのかは謎だけど――が開かれることとなった。

 昼間から酒を飲んでいいのか、と不謹慎に思うかもしれないが魔法使いというものは大層な研究好きが多く、朝昼夜とお構いなしで関係ない生活をおくる者も少なくはない。つまり、私達にとってみれば昼だとか時間を気にする必要――というよりも感覚というのが正しいのかも――はないのだ。

 酒を入れたグラスが全員に行き渡る。

 各々が食べ物を持参してきたようで、それなりに豪華な食べ物がテーブルの上に並べられた。

 昼御飯食べたばかりなのにという心配はいらないだろう。

 きっと、このパーティーは晩餐会のようになるのだろうから。

「では、ユキさんの就任を歓迎して乾杯の音頭を学園長のレイさん、お願いします」

 ケイカが合図をおくる。

 レイはグラスをとり、片手をあげて咳払いを一つして、大きな声で言った。

「乾杯!」

 そして、他の人達も続けて「乾杯!」と喜びの声を上げた。

 一斉に騒がしくなる部屋の中。

 誰もが私に色々と話し掛けてくるのだが、そればかりではなく世間話もあちらこちらで広げられている。

 ……ただ騒ぐ場が欲しかっただけなんじゃないの?

 なんてことをちょっと思ってしまった私だった。

 折角お祝いしてくれているのだから楽しまなきゃ損だろうと思い、私もぐびぐびと酒を飲み始める。

「そういえばユキ、早速生徒達から嫌われてるみたいじゃない?」

 レイに話し掛けられて、ひとまずグラス内の酒を飲み干してから私は話す為に口を開いた。

「……そう? …ってことは私の思う通りに進んでるってことよね」

 あまり生徒達を気に掛けていないのでどう思われているのかまでは知らなかったが、確かに気に入られているような雰囲気はない。

 どうやら私の都合のいいように事は進んでいるらしい。思わずにやりと口端が緩む。

「今年もユキさんを教官に選ぶ人はいないんでしょうかね…?」

 ネイトの言葉に、マヒロが「まだ分からないだろ」と否定的な言葉を告げる。

「俺達だって初めはユキさんのこと良く思ってなかったわけだし」

「……まあ、確かにそうだよな…。初対面の時はなんだコイツは、って思ってたくらいだから」

「そうそう」

 昔のことを思い出しているのか、マヒロとキヨが顔を合わせて笑い合う。

 この部屋にいるメンバー、つまりはこの学園の教師は前にも言ったように全て私の教え子達である。つまり、私が過去担当教官として受け持った生徒ということ――魔法学校は何処も同じ仕組みになっている――。

 彼らも私のその授業のやり方と無愛想さに、初めは印象を良く思っていなかったのである。色々あって彼らは私を担当教官に希望したのだが。

「ユキさんが過去受け持った生徒の数ってどれくらいでしたっけ?」

 ケイカが面白しろそうに訪ねられ、私はきっぱりと答えた。

「十数人くらいかしらね」

 どっ、と。

 部屋中に笑いが起こる。

 ……うん、確かに自分でも素晴らしい数だと思うしね。

 これでも魔法学校を卒業してからある時までずっと教師を続けてきたのだからそれなりの年月は過ぎているわけで、その年月の仲で十数名というのは何分の一になるのか考えると笑えるかもしれない。

 一番の古株さんは通称おやっさんと呼ばれている男性で、一番新しい教え子はここにいるケイカとカリンである。

 ちなみにいうならばマヒロとキヨは同級生、レイとネイトも同級生で先生メンバーの中で考えればソウジが一番古株となる。まあ、ケイカとソウジに至っては百年くらいの差があったりもするんだけど、見た目の年齢で考えればそういうのはあまり気にするものでもないだろう。

「でもユキ、気をつけた方がいいわよ」

「何がよ?」

「だってこの学園の学園長は私だもの。早々変な子は入学させていないわ」

「……何が言いたいわけ?」

「――つまり」


 ――ユキの思い通りにはいかない確率は大ってことよ。


 レイが楽しそうに、そう言った。

「あ、そう。でも今の状態では何ともいえないしね」

 淡々とした言葉を返しながら、私は少しだけ眉を顰めていた。

 もし、万が一レイ達のような物好きが現れたら私の平穏がなくなってしまう。担当教官になるということは、言い方は悪いが生徒達のお守りをするようなものだから。

 仕事が増えれば責任も大きくなる。

 面倒なことはしたくないと考える私にとって、少々避けたいと思うことである。

 ……とりあえず。

 学校にいる時は何が起こるか分からないから、身だしなみには気をつけようか。

 眼鏡は常にはめておいた方がいいのかも。

 頭の中でそんな事を考えながら、私は二杯目のお酒をグラスへと注いで一気のみした。

 まだ昼も昼中。

 私達のパーティー兼晩餐会の終わりはみえそうにない。


キャラが多く出てきていますが、生徒や先生で騒いでるなーと、さらっと読んで頂ければ十分かと。

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