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Magical Garden ~箱庭の少年達と新任?教師~  作者: 夕城ありあ
第2章 テスト編 《Who is victor to get reward in summer vacation?》
27/41

+α 夏休み 《How am I going to spend my summer vacation?》

 やってきました夏休み

 自宅でゆっくりまったりとした休日を過ごそうというのが私の予定

 ……なのに耳に聞こえてくるのは

 五月蝿いともいえる弾けた声ばかり






「青い海、白い雲。なんて素敵なバケーションなのかしら」

 うっとりしながら。

 大きなパラソルの下、サマーベッドの上に寝転んで。

 優雅にドリンクを口にする者が一人。

 そんなエフェクト魔法等使っていないはずなのに、何故か彼女の周りにはキラキラと輝かしい光達によって包まれて、眩い光景のように見えるのは気のせいなのか。

「うおー、海だー、海だー!!」

「競争だ、競争だ。あそこがゴールな」

「負けるか!」

 ばしゃばしゃと勢いよく水をはねて。

 遠方へと向かって泳いでいく者が二人。

 君達の年齢は幾つだったかと思い浮かべようとし………さらに精神的に疲れてしまうような気がして、それを止めた。

 ………うん。いつまでも子どもの心を忘れないのはいいことよね。………多分。

「うーん…。やっぱりこういった所では食べ物も美味しく思えますねぇ」

「そうだな。…デザートだけじゃなくて焼きイカとかも用意するか。あいつら好きだしなぁ」

 ほのぼのとした雰囲気。

 麦藁帽子を被り、しゃりしゃりとカキ氷を食べている者が二人。

 食べ終わって早々に鉄板などの準備をし始める。

 彼らの姿は先程はしゃいでいた面々の保護者にしかみえない。

 この落ち着きっぷりをわけてあげられればいいのに、と心の中で思う。

「あ、ユキさん。どうです、何か飲みます?」

 きらりと歯を輝かせて。

 私の存在にいち早く気づいた者が笑顔で声をかける。

 その秀麗な容姿も加わり、こちらも無駄なキラキラエフェクトが見えるのは目の錯覚だろうか。白い歯も眩しすぎる。

「………」

「おすすめはトロピカルジュースなんですけど。…あ、でも今からイカとか焼くみたいなので、そっちの方がいいですか?」

「………」

「ユキさん?」

 もはやこの時、私には話しかけられても答える気力がなかった。

 ……ああ、なんというか。

 いや、既に恒例といえば恒例の出来事なんだけど。

 大きな溜息を零して、暫く私はそのまま額に手を当てて俯く。

 そんな私の様子を見ながらも、彼はてきぱきと動いて焼きたてのイカを早速受け取りに行ってしまう。

「……………あー…ちょっと、聞いてもいいかしら?」

「何ですか?」

 笑顔で首を少しだけ傾げる相手。

 その右手にトロピカルジュースが入っているグラス、左手に焼きたての焼きイカ。

 何だかとてもアンバランスな気がすると思いつつ、私は言葉を続けた。

 頭痛がするわけではないが思わず頭を抑えずにはいられない。

 ……いや、頭を自然に抑えようとする時点で頭痛がしている証拠なのかもしれないけれど。

「………………ここ、どこだと思ってる?」

「ユキさんの家に決まってますよ」

「………」

「それ以外にないじゃないですか」

 ははははっ、と爽やかに微笑む。

 私も爽やかに微笑んでみようかと―――思うはずもなく。

 俯いていったん瞳を閉じる。

 ……本気で頭痛がする気がする…。

 そんな私の様子を気にすることもせず、楽しそうに口を揃える面々。

「ここを知ると他の場所でバカンスなんてできないわよねぇ」

「そうそう。他に邪魔な奴いなくて自由だし」

「なんといっても水も空気も綺麗だしなぁ」

「時間とかも気にする必要もないのも魅力的だな」

 とんとん拍子で各々好き勝手なことを口にする。

 勿論、顔に笑顔は浮かべたまま。

「…………………そう」

 ……頭痛がする。

 とりあえず私は涼しい所で休みたい気分になり、それ以上彼らに何を言うこともせずにその場を後にした。

「ユキさんー。一緒に寛がないんですかー?」

 声が背中から掛けられる。

 だがそれら一切を無視し、私はすたすたと歩くスピードを少しだけ上げた。





「おや、お嬢はあいつらといっしょにいねぇのかい?」

 家に入るなり早々、声を掛けられた。

 とはいえ気配で中に誰がいるかは分かっていたので驚くことはない。

「……ああ、おやっさんも本当に来たのね」

「そりゃあ折角の機会だからなぁ…。カリンちゃんは体調崩したみてぇだけどなぁ…。本当にタイミングの悪い子だ…」

 言われて、そういえばカリンの姿を見かけなかったと思い返す。

 ………昔から、どちらかといえば彼女は運が良い方ではなかった為、イベントになると体調を崩したりトラブルに巻き込まれて参加できないという事が多々あった。百年以上生きていてそれが続いている以上、彼女はきっとそういった星の元に生まれてきたのだろう。

 家の中にいたのはおやっさん。

 私よりもかなり若いはずなのに、おやっさんが私のことを「お嬢」と呼び、私が彼のことを「おやっさん」と呼ぶようになったのは、少しばかり理由がある。

 ―――お嬢は誰よりも年上だがな、この恰好であれば見た目は年上だし、甘えれるんじゃねぇかい?

 魔力ピークの姿を止めて歳をとった姿になった後で、おやっさんは私にそう言って笑った。

 何とも豪快はその笑顔に呆れるやら、嬉しいやら、複雑な気分になった事は今も忘れていない。それ以降、私達の呼び方は変わり、他のメンバーにとって親父的存在だったおやっさんは、ある意味私にとってもそんな存在となった。

 私はおやっさんの顔から手元へを視線を移す。

 その手には何やら色々材料やら料理道具が握られている。今から何をしに行くのかなど簡単に想像できてしまう。

「折角の機会って……。おやっさんもあっちに混ざるの?」

「そうだな。料理に関してはあいつらに任せておけんしな」

「ふふっ。それもそうね。おやっさんの腕が一番だもの」

 長く生きている私が、料理の腕が一番だと思っているのは他でもない、おやっさんである。おやっさんの料理を知ってしまうと、他の人の料理が物足りなくなってしまう。

「で、お嬢はここにいるのかい?」

「もう歳だし、年寄りは年寄りらしく家の中でまったりしてることにするわ」

 見かけは十六歳。

 しかしその実態の年齢は年寄りも年寄りという年齢。

 ……とはいえ世の年寄りみたいに体にがたがきているというわけでもないのだけど。何といっても永遠の十六歳なのだから。

 体にがたがきていないとはいえ、物の考え方とかは年寄り臭いと自分が一番よく分かっている。

 こういう時、彼女達と一緒に遊ぶだけの元気は私には持ち合わせていない。

 ……ああ、でもレイ達ももう十分年寄りになるのかしら?

「そうか。…でもお嬢も何か食べるだろ?」

「……そうね。折角だから後で適当に何か持ってきてくれる?」

「分かった。一番美味しいの持ってこさせるとするさ」

 持ってこさせる――という時点で足に使われる人がいるというわけで。

 何となくそれが誰であるのか想像するに容易くて、私とおやっさんは顔を見合わせて小さく笑いあった。

「でも本当に皆、元気よね」

 自分にはとても無理だ。

 そんな意味合いを含めて私は少し肩を竦める。

 すると、おやっさんは再び少しだけ笑みを零した後に言った。

「皆嬉しいんだろうよ」

 皆、という中におやっさん自身も含まれているのだろう。その笑みがそれを語っている。

「嬉しいって…?」

「こうやってまた恒例のように過ごせるのは久し振りだからだろう」

 ………ああ、そういえばそうかもしれない。

 言われるまで気づかなかった。

 先程の光景は既に見慣れてしまった恒例のことである。

 とはいえここずっと見なかった光景でもある。

「確かに毎年毎年こうやって皆で集まってはいたが……あの時以来、皆お嬢の所に遊びに来ることはしていなかっただろう?」

「…そういえばそうだったわね」

「まあ、レイちゃんは別だったみたいだけどなぁ」

 あの時、あの事件以来、私はひっそりと自分の家、この場所に一人で篭り続けた。

 人付き合いが面倒になったとか、面倒なことに巻き込まれたくなかったとか、色々思うことはあるけれど、とりあえず一人でひっそりとした隠遁生活を送り続けていた。

「それにな」

「?」

「……お嬢がまた笑顔を見せてくれるのが嬉しいのさ」

「え?」

 一瞬、言われた言葉が理解できなかった。

 ……笑顔?

 ……………また?

 過去を思い出してみる。そして現在と比べてみる。が、自分ではよく分からない。

「……私、そんなに暗い隠遁生活おくってた?」

「いや、そんなことはねぇさ。だが、ほとんど笑うことはなかったからな…」

「……そうだったの」

「だからこの件に関しては坊主達に感謝するべきなのかもしれねぇな」

 がははは、と大きく笑うおやっさん。

 そして遠くから聞こえてくる声に呼ばれるように、おやっさんは皆が居る場所へと向かって歩いて行った。

 その後ろ姿が見えなくなるまで見送った後、私は家の中の大きなソファに身を委ねる。

「………なんだかんだと私、皆に気を使わせていたのね」

 自分の方が遥かに年上で、過去、彼らを受け持つ教師だったはずなのに。

 教え子である彼らに気を使わせていたのだという事実を改めて受け止めさせられる。

「……感謝、すべきなのかもね?」

 いつもはうるさいうるさいと思っている少年達に。

 なんだかんだ思っても、こうしてまた教師をやっていられるということは私にとって幸せということなのだろう。

 面倒だという気持ちを消すことは無理だろうけど、まあ、とりあえずは。

「学園生活明けの休みを満喫することにしようかしら」

 そんな事を思いながら、私はゆっくりと瞼を落とした。

 もう少ししたら美味しい食べ物を持ってやって来るだろう人物を待つ間の、束の間の休息をとるために。

 外程ではないが、まぶしい光が窓から差し込む。

 さらさらと。

 微かに入ってくる風を心地よく思いながら、私は眠気に身を任せることにした。


おやっさん以外名前を出していないので、セリフで誰が誰か伝わるといいのですが…。(汗)


これにて二章終了。

次章は文化祭編となります。

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