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Magical Garden ~箱庭の少年達と新任?教師~  作者: 夕城ありあ
第1章 出会い編 《It's up to me to begin new my life or not to.》
15/41

15 波乱(?)の金曜日

 かつて三種族の王と契約せし者がいた

 その者こそ世界大戦を終らせし人間

 その者、《誓約者》と呼ばれ


 ――《誓約者》、この世界の王とならん






 ドォン、と鈍い爆音が響き渡る。

 それは音だけではなく、学園中の建物を揺らす大地震だった。

 突然の出来事に、誰もが驚いたに違いない。

 少なくとも私はそれに驚いた。

 爆音と地震だけではない。

 その、同時に感じた魔力の波動の巨大さに私は驚きを隠せなかった。

 それでも頭の中は酷く冷静で、少しでも早く何が起こったのかを理解しようと思考を巡らせる。長年の経験が私をそうさせていたといってもよい。

「何だよ、今のは…?」

 シュリン・ヘリング少年が怪訝そうに眉を潜めながら呟く。

 声に出したのは彼だけだったが、誰もがそう思ったことだろう。

 今は授業中であり、そのような爆音が聞こえるのは考えられない。魔法の実験で失敗したにせよ、それにしてはその爆音と地震の規模は大きすぎた。学園で魔法の実験を行う場所には、防御系の魔法を施してある為に普通に考えればそんな風になるはずがない。

 ……何が起こったの…?

 私は神経を集中させてその爆音の根源を辿り――

「!? 早く非難して…っ!!」

 と、素早く教室にいる生徒に指示を与えた。

 私の指示の意味を掴みかねて、生徒達が不思議そうな顔をする。当然ながら生徒達は、まだ私が感じ取ったそれに気付いていなかった。だからこそ、私がそんな指示を出しても従わない。元々の教師としての不人気さも影響してしまっていた。

 そして一分としない間に学園中に鳴り響いたのは、緊急事態を知らせる鐘の音。これでもかというくらいに五月蝿く鐘が鳴らされた。避難訓練で鐘の音を聞く機会はあったかもしれないが、ここまでけたたましい鐘の音ではなかったに違いない。

 再び揺れる地面。

 何かが崩れ落ちていくような轟音に……―――悲鳴。

 尋常でないその状況に、教室にいた生徒達のほとんどが一瞬にしてパニックを起こす。

 どうしていいのか分からずに教室中を走り回る者もいれば、必死になって机の下に潜り込む者もいて、ぎゃーぎゃーと五月蝿く叫んでいる者もいる。非難しろといった私の言葉も彼らの頭からは消え去っているのだろう。

 全くもって行動に移ろうとしない生徒達を見、私は人知れず舌打ちをした。

 ……今は馬鹿やってる暇はないのに…っ!

「早く非難し…」

「――非難しろっつってんのが分からないわけ、お前ら!?」

 もう一度指示を出そうとした私の言葉を遮って、誰かの罵声が響き渡る。

 誰か、というのは言うまでもない。その口調ぶりからしてそれはリイチ・ハリバット少年以外にありえなかった。

 私の声を聞いていなかった生徒達も、さすがにハリバット少年の言葉には反応できたらしい。

 視線を他へと向ければ、いつの間にか扉の辺りで皆を教室から外に出そうとしているコウ・シーバス少年がいた。

 私の代わりに皆に命令口調バリバリで指示を与えているハリバット少年がいた。

 その彼らの行動の早さに、私は思わず目を瞬かせる。

「……ほら、何ぼーっとしてんだよ」

「ヘリング少年…」

 いつの間にか隣りにいたのはヘリング少年で。

 彼らも未熟ながらも大きすぎる魔力の波動を感じ取ったらしい。その表情は真剣そのものだ。額からは冷や汗が滴り落ちている。魔力の波動に若干中てられた部分もあったのか、その手が少しだけ震えていたことに気づいた。

 彼らは、私が指示を与えることを求めていない。

 彼らが求めているのは……。

「ここは俺達に任せて早く行けよ」

「………ありがとう。頼んだわよ」

「任せとけって」

 この場をヘリング少年達に任せて、私は一気に空間転移した。その、根源の場所へと。

 立ち去った私は知らないが、この後の教室は彼ら三人によってしきられることとなったらしい。

「……行ったのか」

「ああ。俺達も早く非難して様子を見に行こうぜ」

「だね。そうと決まったらここを脱出しないとね」

 少年達は三人で顔を見合わせて頷きあう。

 的確な指示をクラスメイト達に与え、早く非難できるように彼らは皆を先導し避難をし始めたのだった。




 嫌な予感がした。

 本当に嫌な予感がした。

 できるなら思い違いであってほしかったが、現状は嫌な予感のその通りでしかなかった。

 一気に空間転移したその場所は、酷く禍々しい《気》が満ち満ちていた。

 そこは、魔法の実践場であった場所。……というのも、見るも無残な状態になっていた為に実践場の面影は一切残っておらず、荒地と称した方が似合っていたからだ。

 もうもうと上がる煙の中、鼻にくる嫌な臭いは忘れようにも忘れられない生臭い血の臭い。

 実践場に隣り合わせになっていた塔の一部分が破壊され、瓦礫となって辺り一帯に散らばっている。先ほど教室で感じた大地震はこれが原因で、一角が崩れ落ちたことで塔自体がバランスを崩してしまったのだろう。

 それは、まるで戦場か何かであるかのような酷い惨状。

 散り散りに飛ばされた生徒達は大怪我をしている者から軽症の者まで様々だったが、誰一人として無事な者はいないようだった。

 私よりも少し遅れてマヒロ達もこの場所へと転移してくる。半数の教師がいないのは、非難した生徒達に指示を与えているからに違いない。不安に思う生徒だけにすることはできない。

「ユキさん…っ! これは一体…」

「まずは手当てが先よ。ネイト以外にも、白魔法が多少使える人は怪我をしている生徒達を非難させて治療を」

「はい…っ!」

 私の指示を受けて、教師達は素早く行動に移る。

 私は煙で悪くなった視界の中で必死に目を凝らして、《気》を感じ取り続けた。

 実践場の中心と思われる場所に感じたのは弱々しい人の気配。

 咄嗟にその場所へと駆けだすと、私はそこに一人の生徒を発見した。

「ユイト君じゃないか…っ」

 ネイトが慌ててその生徒へと駆け寄る。

 そこに倒れていたのは、ユイト・ローチ少年。

 全身に酷い怪我をしているのか、酷い血塗れの状態になっている。幸いなことにまだ意識はあった。しかしよく見て見ると、傷の箇所と血は多かったものの怪我自体に酷いものは一切見られず、その全てが浅い傷だった。

「何があったんだ…!?」

 ネイトが白魔法をかけながら問い掛ける。

 意識が虚ろになっているローチ少年だったが、ネイトに白魔法をかけられて少し意識を持ち直したのか、何とかその口から言葉を紡いだ。

「……シュリ…ン……プ…先生が……俺を庇っ…て……」

「庇う…?」

 何から?

 と、尋ねようとしたその時、私の耳に届いたのは気味の悪い耳をつくような雄叫びと、必死にレイの名前を呼ぶリク・アルフォンシーノ少年の声。

「アルフォンシーノ少年、そこにいるの?」

「!? マーリン先生……ッ! シュリンプ先生が、シュリンプ先生が……ッ!!」

 ローチ少年が倒れていた場所から少し離れた場所に、アルフォンシーノ少年はいた。彼もまた、他の生徒と同じように少なからず傷をおっていて、額から血を流している。

 が、それよりも私の目をひいたのが二つ。

 一つが、アルフォンシーノ少年がいる場所を中心としてクレーターのような穴ができていたこと。

 そしてもう一つが……

「レイ!?」

 ――アルフォンシーノ少年の傍に倒れているレイの存在。

 私は慌ててレイの傍へ駆け寄る。

「レイ…、レイ……!?」

 名前を呼ぶが返事はない。

 ローチ少年の怪我など目ではないくらいに、レイの怪我は酷いもので。

 身体の正面をざっくりと刻まれて体中の血という血がそこから流れ出している。全身のあちこちが酷い火傷をおっていて、いつもの白い彼女の肌は見る影もなく、痛々しいというレベルでは既になかった。

 脈をとると、弱々しいながらもまだ脈はあった。

 私は素早く詠唱を口にすると、レイに白魔法をかけ始める。

 治療を始めながら、現状把握の為に軽傷のアルフォンシーノ少年へ問う。

「一体何があったの?」

「それ…が……。今日の授業は黒魔法の実践だったんですが……、ユイトの番が回ってきた時、…失敗したみたいで、魔法が…暴走して………。咄嗟にユイトを…、僕達を庇おうとシュリンプ先生がして………」

「暴走…?」

 どんな、とは聞くまでもなかった。

 直後に聞こえてきたのは、人ではない存在の雄叫び。

 地鳴り。

 莫大な禍々しい魔力の広がりで。

「………ひ…っ!?」

 アルフォンシーノ少年が体を恐怖に奮わせる。

 私は少年とレイを自分の後ろへと庇うと、正面を真っ直ぐに見据えた。

 爆発の白いもやが徐々に晴れる。

 その隙間から、とてつもなく大きな何かの姿がちらちらと窺え始めた。

「な…、何だよこいつ…ッ!?」

 その姿が明らかになった時、生徒の誰かが声を上げる。それは悲鳴のような、発狂するような声色をしていた。

 無理もない。

 何故ならば―――現れたソレは、彼らには見た事もないような存在だったのだから。

 私達人の何倍かある体躯。

 ねじくれた四肢に、闇色の翼。

 背が裂けてそこから黒いぼろ布のような四枚の翼が生えている。

 ソレから漂ってきているのだろう。鼻につくどころではないような異臭が充満する。

「……レッサー・デーモン」

 ―――魔族。

 この世界に住んでいるのは人と精霊であり、魔族と神族は別世界に生きる種族である。それは、気の遠くなるような大昔からの決め事なので、それ以来こちらの世界に魔族と神族が現れる方法があるとすれば、人がこちらから干渉――召喚するしかない。

 だが、召喚するというのは容易ではない。

 召喚魔法――それこそが古代魔法なのだから。

 普通の魔法使いには使えない、使えるはずがない魔法。

 今の一般的に広まる黒魔法や白魔法、精霊魔法はそれぞれの種族の力を借りてそれを一つの《力》として放つものであるのに対し、古代魔法はその種族そのものを召喚して《力》とする魔法である。

召喚するのに必要なのは《誓約》。そしてその《誓約》をする為にはその種族とのコンタクトが必要であり、下手をすればコンタクトする時に命を奪われてしまう恐れもある。だからこそ、古代魔法を使う者は今の世の中には既に消え去ってしまった。

 ただ、それにも例外があった。……そう、今のように魔法が暴走してしまった場合、誤って召喚してしまうことがあるというものだ。

 神族なら良い。が、魔族は危険が高い。なぜならば、彼らの存在の多くは人の負の感情を糧とするものだから。

 言うまでもなく、今目の前にいるレッサー・デーモンもまたその典型的な魔族である。

 ただ、一ついえることがあるとすればレッサー・デーモンは下級の魔族といえた。魔力と防御力は計り知れないものはあるものの知性が豊かとはいえない。

 しかし逆をいえば、知性がない下級の魔族だから暴走し易く厄介な存在であるともいえるわけで。

 私は白魔法を使いながら、瀕死のレイを見遣る。

 その後で、大小問わず、怪我を負って教師達に治療されている生徒達を見遣る。

 ……そして、その視線を目の前のレッサー・レーモンへと向けた。

 その、鋭い爪に付着しているのは紛れもない血。

 ……ぐ…ぐろるるるる………

巨獣の唸りを漏らすレッサ―・デーモンがその大きな口を開く。

 刹那、数十条の炎の槍が解き放たれた。

「うわ……ッ!?」

 私の後ろで、アルフォンシーノ少年は恐怖から咄嗟に閉じる。

「マーリン先生……ッ!!?」

 遠くの方で、生徒の誰か――多分声からしてカズキ・マッカレル少年だと思われる――が悲鳴じみた声で名を呼ぶ。

 私は真っ直ぐにレッサ―・デーモンを見据えながら、レイに白魔法をかけている手とは逆の手を目の前に差し出した。

 口の中で唱えたのは、神名デヴァイン・ネーム

 神名は鍵。

 魔法の扉を開く為の鍵。

 物理的な力ではなく、もっとも原始的な力で――もっとも純度の高い《理の力》。

 それは、《誓約》に必要なもの。

 ひゅどどどどど…っ!

 炎の槍が私のいる場所へと降りかかる。

 物凄い爆音をたてて、辺り一帯が火の海へと一瞬にして変わった。

 周りにいた人達は悲鳴を上げる。

 アルフォンシーノ少年も悲鳴を上げて身を縮こませ、自分に降りかかるはずの衝撃と熱を覚悟し――そして、いつになっても降りかからないそれに気付き、恐る恐る閉じていた瞳を開いて前を見た。

「……マーリン…先生…?」

 少年とレイを庇うように立っているのは私。

 私もまた、アルフォンシーノ少年と同じように衝撃と熱など一切浴びてなどいない。

 現状が理解できず、アルフォンシーノ少年は目をぱちくりさせて、そこでようやく私の手にある存在に気付いたらしい。

 前に差し出した私の手に掴まれているのは、一振りの杖。

 私の背よりも大きい。

 片端に宝玉があるだけで見た目はみすぼらしい。

 だが、少しでも魔法に携わっているものならば、その杖に秘められたとてつもない《力》を感じ取ることができるだろう。

 宝玉が薄く白色に輝く。

 その杖が、私達に降りかかった炎の全てを打ち払っていた。

 私達のいる場所だけは炎に包まれていない。三百六十度全てが炎に囲まれてもなお、私達のいる場所だけは無事で、熱すらも感じることはなかった。

 小さな呼気とともに、私は手に持つ杖を振り翳し――

 宝玉が再び淡い光を放つとともに、私達の周りを覆っていた炎が霞のごとく散り、消え去った。

 一瞬にして視界が広がる。

 消え去った炎の中から傷一つ負わずに現れた私達を見、その場にいた誰もが息を飲む。まさか無事だとは思わなかった、という感情が無事で良かったという感情の中で見え隠れしていた。

 目の前に、レッサー・デーモンの姿。

 私は口端に笑みを浮かべてそれに向き直った。

「………ちょっとおいたがすぎたんじゃない?」

 声をかける私。

 言うまでもなく、目の前にいるレッサー・デーモンに向かってだ。

「知らないわけではないでしょう、この世界にあんた達は干渉してはいけないっていう理があるってことを」

 レッサー・デーモンは知性がない為に話すことはできない。だが、それでもある程度の言葉を理解するだけのことはできるはずだ。

 私のその言葉を肯定するように、レッサー・デーモンは唸り声を上げる。

「………知っててこんな事をするなんて馬鹿ね、あんた。しかも私がいるこの場所でってのが特に、ね」

「……マーリン先生…?」

 私の言葉の意味を掴みかねて、アルフォンシーノ少年が小さく尋ねる。

「大丈夫だよ」

 と、いつの間にか私達の傍までやってきたネイトがアルフォンシーノ少年の肩をぽんっと軽く叩きながら声を掛けた。

「でも…、あんな魔族をどうこうできるなんて思えない……」

 人は弱い。唯一《力》を持たない存在で。

 たとえ魔法が使えたとしても、その魔法の源が他の種族であるが故に、実際には他の種族と戦えるだけの《力》などないに等しいのだ。

「ユキさんなら、大丈夫なんだよ」

「…? それはどういう……?」

 アルフォンシーノ少年の問いに、ネイトは力強い笑みを返した。

「ネイト、ちょっと離れてて」

「分かりました」

 言って、ネイトはアルフォンシーノ少年の手を引き、未だ気絶したままのレイを負ぶさって私から離れる。

 私はそれを見守って彼らが私から離れたことを確認してから、口を開く。

「三界の王よ! 我の声を聞け!」

 簡略化した『混沌の言葉』の呼びかけに、杖の宝玉に《力》が集まる。

 その後で、神名を唱え――声高らかに告げた。

「神族の王よ! 我が声聞こえているならば我らに慈悲の力を!」

 杖の宝玉が白色に光る。


 こうっ!


 と、蒼穹がかがやく。

水面に波紋が広がるように、光の波紋が学園の全土に広がり、その中心から純白の光が舞い降りて柱となって私達に降りかかる。

 何者にも犯されないその純白の光は、神族の力。即ち白魔法の根源となりしもの。

「傷が……っ!?」

「痛みが…、消えていくぞ……」

 驚愕の声があちこちで上がった。

「精霊の王よ! 我が声が聞こえているならば炎を消し去りたまえ!」

 杖の宝玉が青色に光る。


 ざあっ!


 と、物凄い強風とともに雨が降り注ぎ、学園の至るところを燃やし続けていた炎が瞬時にして消える。

 同時に荒地と化したこの場所の大地から、通常の何倍もの速さで緑が生まれてもとあった通りの綺麗な大地を作り出した。

「魔族の王よ! 我が声聞こえているならば愚者に制裁を…っ!」

 杖の宝玉が赤色に光る。


 う゛ぉぅん…っ!


 と、空間が唸りをあげて黒い何かが発生する。

 禍々しい《力》はレッサー・デーモンの《力》などものともしないような大きさで。

 黒い何かはレッサー・デーモンの身体を飲み込み、収束し――

るぎぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ…!

 絶叫すら呑み込んで、虚無へと向かって圧縮される。

 そして……音もなく―――弾けた。

 静寂が広がる。

 そこに、レッサー・デーモンの姿はなかった。

 残ったのは、耳に残った絶叫のみ。

 私達に降り注いでいた白色の光もゆっくりと消えていく。

「………」

 私は何も言わず、レッサー・デーモンが今さっきまでいたその空間を見つめていた。

 レッサー・デーモンは、私にとってしてはいけないことをしてしまった。

 世界の理から外れようとしたことと――私の教え子に怪我を負わせたこと。

 特に後者。

 大きすぎる《力》は危険で、私は滅多なことではその《力》を使うことはしない。だが、私が許せないと思うことをしでかした場合、問答無用でその《力》を振るう。その為ならこの《力》を使うことは厭わないと思っているからこそ。

「……マーリン先生…」

 貴方は一体何者なのか?

 その疑問が、アルフォンシーノ少年が呼んだ名の中に含まれる。

「! まさ…か………」

 はっ、と何かに気付いたのはルイ・フラウンダー少年。

 その後すぐに、いつの間にか非難した場所からこの場所へと来ていたハリバット少年達もまたそれに気付いた。


 ――かつて、三種族の王と誓約せし者がいた


 私は杖で軽く地面を叩く。

 杖の宝玉が黒色に光り、空間に歪みが発生した。

 歪みは塔を飲み込み、そして数秒の耳鳴りの後に歪みは消えた。……崩れる前の状態の塔を残して。


 ――その者こそ世界大戦を終らせし人間


「……精霊の加護を受けて大戦を終らせた…王……」

 シーバス少年が、信じられないという表情で呟く。

 誰もが驚愕し、私を見ていた。


 ――その者、この世界の王とならん


 私は全てが元通りに戻ったのを確認し、小さく息を吐いた。

 そしてゆっくりと皆がいる方を振り返り――


「違うわ。私はただの一介の教師であり、魔法使いよ」


 言った。

 びしっ、と。

 先ほどのシーバス少年の言葉を否定するように。

 直後、生徒達から「そんなわけあるかー!」との非難の声が上がった。

 そして教師達は口元を手で抑えるようにして苦笑を零していた。


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