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夢の墓場

作者: 木漏れ日

 どこまでいっても、私の両親は両親の目線でしか話せない。しかも姉が就活に失敗続きだから、就職に対して余計に疑心暗鬼になっている。


 私の勉学の全盛期は、高校受験に合格したあの日に終了したのだ。後は記憶力低下曲線のように、ゆっくりと下降の日々を送るだけである。


 それなのに、両親はちっとも私の言い分を聞いてくれない。「今からでも間に合う」「浪人もいい経験になる」と口を揃えて言う。一体どこまで医学部という壁を甘く見ているのか、心底うんざりする。


 私の両親にとって、資格が全てである。資格のない仕事は、つまり安定性のない仕事と見なされ、信用をしてもらえない。ならば世界はどうやって回っているのか、彼らに小一時間問い詰めたい。


 浪人美学を息子にも押し付けてくるのはやめていただきたい。確かに精神的に成長はするかもしれないが、先に述べた通り、私の全盛期は既に終わったのだ。このまま浪人に突入したところで、より腐っていくのみである。


 しかし私の両親は、私に謎の期待を寄せている。高校三年間を遊び倒した私に対して、盲目の信頼を持っている。


 その期待に、応えてやりたいとは思う。しかし、頭がついてこないのだ。加えて医者はなりたい仕事でもないので、やる気すら湧いてこない。


 私には姉が二人いる。しかしどちらも、センター試験を受けていない。一人は私立の美術大学、一人は推薦で通ったからだ。しかもどちらも、対して努力をしていない。なぜ理系の私が、経済学部の姉に経済学を教えなければならないのだろうか。


 私は、小説が好きだ。

 だからこそ、小説家になりたい。

 しかし私の親のような資格人間が、小説家という不安定な仕事を許してくれるはずがない。

 そもそも小説で食っていける人など、一握りどころかひとつまみである。


 しかし私は、それでもいいのだ。

 貧乏でも、小説を書いて応募し続ける人生を歩みたい。夢を追い続けたい。現実を見た方がいいという意見は百の承知である。しかし、高校生なのだから、それぐらいの夢を見てもよいではないか。


 結局私は、医学部の受験を受けることになるのだろう。しかしながら、なりたくもない仕事で、なんとなく医者になった人に、診てもらいたい人がいるのだろうか。親は、最初は全員そんなもんだと言うが、本当にそうなのなら、医者は全員守銭奴なのだろうか。安定な仕事を求めていたから医者にしましたという者が九割の世界なのなら、私はますます入りたくない。


 恐らく現実は、もっと高尚な理念を持った人がたくさんいるのだろう。過程は様々にあれど、人の命を扱う仕事に就きたいと思うことは、普通の人間にはできないことだ。いい例に、私がいる。私は人の命を扱えるほど出来た人間ではないし、どちらかといえば、人の命の重さで潰れるような人である。


 医学部に入ったところで、高尚な人間の眩い光で私の存在がかき消されることは容易に想像できる。


 どうすればよいのだろうと思っていた時、私の目にはゴミ捨て場に置いてあった小説の束が映った。


 今この瞬間、私の近くにいる人も、夢を諦めたのだろうか。


 私は乾いた笑いをして、ゴミ捨て場を後にした。

 本棚の小説を全てゴミ箱に突っ込み、私はそれを見て、さながら夢の墓場だなと思いながら、そのゴミ箱に火を付けた。


 後に残ったのは、真っ白な夢の遺灰。

 風に吹かれて庭に舞い飛んだその遺灰は、庭の緑をことごとく枯らした。

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