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21.ニホンジンはキマジメでオダヤカ。

 とある神の間は、歴代一番の人口密度を誇っていた。いや、人口ではなく神口と言うべきか……。


 閉じられた変化なき小さな世界を統べる神の間だ。本来であれば神々が集まる事はない。


「オルフェストランス殿。先程の助勢感謝しよう」


 傲然とした態度のまま、言葉だけは丁寧に礼を述べる神の視線の先には、床に伏した一柱がいた。


「ほら、ランス君。せっかくお礼を言ってくださっているんだから、反応くらいしたら?」


 ニッコリと笑んだ女神が床で震える同期に話しかけた。どうやらかなりご機嫌らしく、後光も普段の三割増しだ。


「…………うう。やりたくてやったわけじゃ。と言うか、皆さんチート過ぎませんか? 変質して固定化したモノからリソースを抽出して、大地に還すなんて。それも自分達の力を使う為のエネルギーに変えるなんて、どうやったら出来るんですか。そんなことが出来るなら、僕の世界全体をグェ……」


 恨みがましく呻くオルフェストランスに体重をかけながら女神は笑みを深くした。


「あら、ごめんあそばせ。

 私たち、リサイクルは得意なの。ちなみに省エネ化や魔改造はそれ以上に得意よ。

 いくら同期とはいえ、誇りある最高神がついでに世界を救ってくれなんて言わないわよね?」


「アマテ……」


 ぐりぐりと捻りを加えて踏みにじられながら、神の間の持ち主である最高神は救いを求めるように手を伸ばした。


 だが神々の中で手を取ろうとする神はおらず、一瞬オルフェストランスに視線を向けるだけでまた自分達の議論に戻っていく。


「……であるからして、追加施設として作るべきは、風呂だ!」


「しかし風呂ならば、あの罪人どもに作らせればすぐにでも出来よう。ならばこそ、もっと手に入りにくいモノにすべきだ。ここは農機具を贈るべきであろう! 日の本の国が誇る、高齢者であっても扱える農具たちこそ至高!!」


「何をいっているのかしら。相手は花も恥じらう乙女よ。そんな色気の欠片もない実用品なんて。

 女の子ならオシャレに命をかけるわ。地球産の化粧品一式の方が嬉しいはずよ」


「いやいや、今はまだ生きていくのに精一杯でしょう。ならば、慣れ親しんだ作物の種の方が喜びましょう」


「何を言っているの! 穀物庫に最低限だけど私たちで選定に選定を重ねた種子は贈ったでしょ!!」


「風呂!」


「農具!!」


「化粧品よ!」


「種子一択じゃ!!」


 残ったリソースでは、神々が望む全てを贈ることは出来ない。だからこそ、議論は白熱していた。


「他の物も贈りたいから、住居も家具もランクダウンさせたのよ」


「ああ、本当は古き良き寝殿造りの豪華な物を贈りたかったのだ」


「いや、そのような木製の時代遅れよりも、ツーバイフォー工法の最新住居、エネルギーも自然エネルギーの完全エコ型の住居を贈るべきだった!」


「何を言うか。それならば、何があるか分からぬ危険な土地だ。城を贈ることこそ、正しい選択だ」


「城? 壊れたらどうする! ちぃちゃんでは直せまい!!」


 片や新たに贈るモノの話し合い、片や贈った住居の感想と騒がしい中、静かに世界を見続ける神々もいる。


「あら、アレらは反省してないわね。そう思わない? 妹たちよ」


「……そろそろ因果応報を発動しても怒られないでしょう」


 美しい三姉妹の女神と、豊かな金の髪を無造作に背に流し、冷徹な瞳で地上を見つめる女神の手には剣があった。日本神の中でも似た性質を持つ神々は更に腹に据えかねていたようで、どうしてくれようかと呟きながら、協力して力を練り始めていた。


 そんな上空から俯瞰する視点で世界を監視する神たちは、静かに新たなターゲットを探す。罪なき幼子を害した愚か者ども。神の恩寵を受けると知ってなお、己たちの方が上であると思い込み、乙女を傷つけた愚者を静かに観察する。


「ちぃちゃんや、幼い頃はお姫様に憧れて、ベッドを望んでいたのに。そうか、スプリングを作ることができずに苦肉の策で畳としたけれど、喜んでくれるか」


 ただただ一心に無事を祈り、健やかな生を望む力弱き神々は、安住の地を贈れた事を(ことほ)ぎそれぞれの祝いの舞を舞う。


 剣を持った女神たちは、いまだに踏みつけられている神の元へと進んでいった。


「あらどうされましたか?」


「もう止まらない」


「え? どういうことですか?」


 親指で後ろを指差す女神たちは端的にそう話すと、花が綻ぶように艶然と笑みを浮かべた。


 優しそうな微笑みと絶対零度の視線を受けて、オルフェストランスは飛び起きた。


「や、止めてください!

 天照殿、どうか止めて下さい」


 チラリとオルフェストランスを見ただけで、更に攻撃力と陰湿さを増した力の塊に、寒気を覚えた。


「ふふふ」


 笑みひとつで黙殺する女神は、何かに気をとられたように地上を見つめる。


「あら、ランス君。あそこ、危ないわよ」


 ヒョイと指差した土地は千早が住む廃棄地の遥か先だった。地上が崩れ、奈落に崩落しかけている大地を見つけ、慌てて神の力を奮う。


「ああ、だから無理だと。ただでさえ限界を迎えている大地に、地球の方々から贈られた仕込みリソースなど耐えられる訳はないんだ。

 本当に勘弁して下さいよ! 望まないとはいえ、千早さんが住む土地ですよ?! 殺したいんですか?!」


 逆キレするオルフェストランスに、それまで大神の余裕を見せつけ、沈黙を続けていた神が口を開く。


「佐々木の地は滅びぬ」


「子羊の大地は主たる父に祝福されています」


「「「「「「たとえこの世界が亡びても、佐々木千早の地は残る」」」」」」


「それじゃ困るんですよ!!」


 途方に暮れたオルフェストランスはとうとう頭を抱えて丸くなってしまった。


 その姿を見た神々は目配せをし、また沈黙の淵に深く沈み力を練り上げる。少しずつだがその力は静かにオルフェストランスの大地の一部を覆っていった。


「…………うぅ。日本神は生真面目で穏やか。大人しいって評判なのに。間違いだ」


「あら、ランス君、今ご一緒してるのは、同僚だけじゃないもの。他国の方々もご一緒よ」


「それでも地球系星の神は豊かな大地を持つから余裕があるって」


「あのね、ランス君。君の民は少しばかりやり過ぎたのよ。それに私たちだってたまには報復したいじゃない」


 この数年の事を思い出して? 引きこもりの貴方だって噂くらいは聞いているでしょう? そう笑った女神の瞳は怒りを湛えてる。


「勝手に誘拐したくせに、問題があれば私たちに補償を求める厚顔無恥。そりゃ、最初は確かに悪かったなと思って、対応した私たちも悪かったわよ? でもねぇ、それが常態化するなんて誰が思うのよ。最近では、オタク種を喚ぶとおかしなことになるから、責任をとって地球系神々(私たち)がどうにかしろって言ってくる連中もいるのよ?

 お門違いも甚だしいわ。あの停滞思考の他力本願たち」


 吐き捨てるように話した女神は、だからそんな無責任なことは言わないでねと釘を刺した。




 ――――えまーじぇんしー!!


 そんな混沌とした神の間に、切羽詰まった神の声が響く。慌てすぎて本質に戻った姿の下位神達が、宙を舞って「緊急事態!!」と叫び回る。


「今度は何ですか?!」


「いやぁぁぁぁ! ちぃちゃん!!」


「千早ちゃん、何をしているの!!」


「誰か早く対応しろ!!」


 銅鏡や杓文字、石や勾玉が「エマージェンシー」と繰り返す中、千早の土地を視た神々が騒ぎ出す。


「オルフェストランス! 何とかなさい!!」


「……っ?! 何で?! 何やってんだ!!

 神託を下す!!」


 千早の姿を見たオルフェストランスが、力を行使する余波で輝き出す。


「タノカミ!! リソースの使用を許可します!! 何とかなさい!!」


 状況を確認した天照が、鋭く一柱を呼んだ。呼ばれた神は別の神に助けを求める。


「金山毘古神どの」


「承知」


「吾の力も貸そう」


「イザナギ殿、感謝いたします」


「ほれ、九十九神どもも力を貸せぃ」


 思いもよらない千早の行動に、慌てた神々が忙しく動き出していた。



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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃあ日本の神て数多いは他の国なら邪神だとかで消そうとするのを収めるために神に祭り上げるわで神殺しの神もいるからなあ(個人的に加具土命が好き
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