六回避 守って守護月天!
...
昨日の一件で、実はちょっと職員室に呼ばれているらしい。部室で、俺たち3人はまったりと図書室から借りてきた“ダレン・シャン”を読みふけっていた。
「リトルピープルいい奴だな、これ」
「俺もハーキャットが一番好き」
流石と俺は、5巻を読み進めている。有希はもう読破し終えているらしく、“陽はまた昇る”の原書を読んでいる...凄いな。
「有希は誰が一番好きだった?」
「バンチャ元帥」
「あーいいねー。バンチャ元帥も優しいし、強いからなあ」
4時40分を過ぎた頃、実がようやく部室に来た。
「ったく、なんだよあの態度。頭にきますよぉ~」
「おお、大変だったな」
「いや、全く。これが、ん?“ダレン・シャン”読んでんのか。いやーまさか、ダレンとスティーブがMr.タイニーによって造られたなんて、思いもよらなかったぜ」
その瞬間、空気が凍り付いた。
「おーい、何ネタバレしてくれてんだぁ!!」
「実、今すぐ俺の記憶から消せ。さもなくば代わりにお前の頭を消し飛ばしてやろうか?」
「わ、悪い悪い。ホントごめんって。ついうっかり、な」
そのせいで、実は流石が持ってきてくれたモナカで包んだ羊羹を食べられなくなってしまった。
20分ほどして、完全下校時刻まではまだあと1時間ほどあるが、荷物を畳んで近くの公園の塀周りを一周するミニSASUKEをすることにした。
「ちょい待って、ここどうやって行くん?」
最後の難関に阻まれた。
「そこの植え込みからジャンプして、自転車止めのコンクリの円柱を2回踏むんだよ」
「嘘だろ、お前それ出来たの?」
「リズムだよ、リズム」
「よーしなら、ここは部長の俺が一肌脱ぎますか」
実が威勢よくジャンプし、見事渡りきる。それに触発されて、
「あ、実が行けるなら俺も」
「なんだあ、その言い草は」
勢いをつけて走り飛びをすると、難なく超えられた。
「おおー、行けるもんだな」
追って、有希も危なげなく一周を終える。
公園の先にある線路に沿って走り出す。目の粗いコンクリートで出来た四角柱の柵に、錆びた有刺鉄線が張られている。
「うおー、抜かせー」
「何か今日は勝てそうな気がする」
「待ってろキャンパスライフぅ↑」
でもやっぱり、
「ああああ、ダメだー」
「いや、昨日よりは接戦だったぞ」
「たし...かに」
息を整え、汗を拭って正面を向くと、踏切の向こうで煙が上がっていた。
「な、火事か?」
「い、いやあれは」
地上20cmの高さから、炎が上がっているのだ。
「あれって...」
「アルコールランプ」
そう、何処の小中学校にでも置いてある。だがしかし、違うところを上げるとすれば、ガラスの短い手足が生えていること。そして、随分長くのばされた紐と青いエタノールが一切減らずにいることだろうか。こっちと目が合った途端、火炎放射をけしかけてきた。
「あっつ」
全員屈むなり、跳びのくなりしてなんとか回避する。だが、
「やべえ、また来るぞ」
直径1mはあろう火球を放ってくる。赤々と燃え上がるそれを撃ち落とす為、流石が急いで構えるが...
冷凍ビーム
有希が霊丸の様な構えから放った、冷凍光線が火球を貫いた瞬間、それは一瞬で水蒸気と化した。同時に、変なアルコールランプ君すら玉乗り仕込みたくなる様な姿になっていた。
「...おおお、ゆっきー強え!」
「呼び名が変わってる」
「いやだって、お前そんな涼しげに。いや涼しいけど」
「なんだよ、有希までそんな強い能力を...」
「あれま、驚いた。能力もちなのは知ってたけど、まさか有希がそんなに強いとは」
カッチコッチーンになったアルコールランプを見れば、この部が夏のかき氷に困らないことは明白だった。
ふぅ...