二回避 超高速は練りケシ弾?
本来矢澤は
あの一件から二週間、特別等の補修工事も終わり、学校は平穏を取り戻す。と同時に、俺は退屈にさいなまれていた。あんなテロリストがいつ襲ってきてもいいように、修行を続けたというのに。回避に使われる体力を増やすためにランニング、いかなる体制からも避けられるようにストレッチ、そして攻撃力を高めるために腕立て伏せをしたりと準備は万全だった。
「な~のに、こりゃねーよなー」
何よりびっくりなのは、あんな回避が出来るのに、倒立前転は出来ないのである。まあ倒れたとしても絶対に反射で怪我はしないのだけれど。
「八理、お前逆立ちもできねえのかよ。ブフォッ」
「い、いんだよ、別に。人間なんだから足が頭より下にあるのが当然なんだ」
とか言いつつ本心は、スーパープレーで活躍できなくて非常に落ち込んでいた。
~翌日 6限~
退屈な全校集会、パイプ椅子の上でうつらうつらしていると、体育教諭に頭をはたかれそうになったため避けた。しまった、と思ったが教員の方は案の定驚いた表情をしていた。
「いや、すみません。寝ていたわけじゃないんです。教頭先生のお話に感服して、頷いていただけで...」
「...お前は随分メトロノームみたいに相槌を打つんだな」
「う、ほら、拍動に合わせて相槌を打つといいって言うじゃないですか」
「たった今教頭先生が話を聞くときには適度に頷けとおっしゃっていたとこだが」
「あら、」
「ちゃんと聞けッ」
パコ、とプリントボードではたかれる。
「はぁ」
でもほんと、避けられないものばっかりで、退屈。
帰りは友達と荷物をガサゴソやりながら喋っていたせいで教室を出るのが遅くなってしまった。いそいそと二階へ降りる。と、
「おい、ちょっと待て」
「ん?」
「2年3組35番 八理 過身長155cm~160cmで小柄 散髪に失敗したような亀頭ヘアー お前だな」
「え、ええ?ちょっと待って。君と喋ったことあったっけ?」
「俺と勝負しろ」
「なんていうか、なにその必ず面接で落とされるような喋り方。ああ、あと訂正しとくと俺の名前は秋葉で、この髪型はマッシュルームカットだから、そこんとこよろしく」
「咄嗟についた嘘が出席番号が最初の人間。焦ったな」
なんだあいつ、生徒会の副会長のくせに。確か5組の奴だっけな。未だに厨二罹患者とか、いやいいのか。
「おい、待て帰ろうとするな。探したぞ、この間のテロリストを倒したのはお前だってな」
「あ、それ太田です」
「俺の方が強い。だから勝負しろ、命がけで」
駄目だコイツ、早く何とかしないと。
矢澤が右手の中指にケシカスを挟み親指にあて、デコピンの構えをとる。
「何やってんの?あれかな、格闘漫画のデコピンで倒す的な...」
ん、アイツの指に白い光が灯ったぞ!?まさか、
練りケシ弾
超高速のケシカス玉が飛んでくる。それを何とか避け、バックステップで間合いをとる。前のめりになり、開いたカバンからゴーグルを取り出し、装着する。
「凄い反応だ。そうでなくちゃなあ」
「お前、」
「俺は毎日ケシカスを練り、飛ばしてきた。そのせいで俺の指には悪魔が宿った。その名はデコピンショット高エネルギーを放出し、ケシカスを射出できるなぁ!」
「...いいぜ、俺の名はエスケープマン。お前は俺にあてられない。お前の指が腱鞘炎になるまで、俺は避け続ける!」
カバンを投げつけ、距離をとる。それを矢澤は蹴りで弾き、走り迫ってくる。そして、今更気づいたが制服のズボンのベルトに下げたウェストポーチ。それをボタンをパチンと弾き開き中からネリケシを10数個宙へ上げる。それらをキャッチし両手の指にあてる。
「少し距離をとりすぎたな」
「え?」
しまった、必要以上に逃げてしまったせいで、後ろは非常通路用のアルミ扉だった。
「避ける空間がなきゃあ、そりゃあそうだよなあッ!」
「やべ)ry」
散弾!グミ撃ち
僕の身体が通る隙間がないほど均一にネリケシ弾が飛んでくる。しかし間一髪非常扉を回して防ぐ。ドア越しにほっとすると、
赤ペン先制
「うわぁ」
扉を突き破って、向かいの壁に赤ペンがたたきつけられて顔料が飛び散る。
「ちょっと待った待った!」
急いで非常階段を駆け下りようとすると、
迫撃!ホッチキス
カランカランと非常階段の手すりに着弾し、錆を落としていく。バック宙で躱し手すりに手をかける。その勢いでターザンジャンプの様に地面へ着地する。追って矢澤が飛び込んでくる。散弾網側転で躱し、飛び上がる。
「ヒーローッ、ドライブ!」
渾身の回し蹴りを繰り出す。しかし空中ですっと受け流される。
そのまま着地し、もつれ込む。
「残念だったな、俺は実家が古武術の道場を開いている」
「え?ボブ術の道場?」
「ミュージカル仕様に聞き取るんじゃねえ!」
後ろ飛びでネリケシ弾を避け続け、再び校舎に玄関から入る。ネリケシ弾は1.2cmほどコンクリートにめり込んだ。
「見誤ったな、エスケープマン。俺は常日頃から1万発のネリケシを飛ばしている。一時間戦ったとしても先に尽きるのは、お前だぜ!」
散弾が飛びかう。
「なら、戦って、撃破する!」
「の、割には及び腰だなあ!」
階段を猛スピードで駆け上がる。矢澤のデコピンショットは所詮10本の指から放たれる。なら、撃たせ切った後がチャンス。
「俺のショットは見きれない。それはお前が逃げ続ける限り」
散弾攻撃。ロンダートで回避する。手を床から放す瞬間入れ替わりでケシカスが床にめり込んでいく。両足を揃えてタンッと踏み込み、ダッシュで接近する。渾身の力で蹴りを繰り出すべく歩幅を延ばす。
「もらったあああああ!」
しかし、ニヤリと笑う。
「尾を握られて弱いのは、努力を怠った者だけだ」
「な!?」
マガジンマークを錬成すると同時に、第六感で咄嗟に感じた。
零式デコピンショット
空砲である。ただの運動エネルギーが空気の波となって伝わるだけの。しかし、しゃがみ込んで回避したものの、後ろの窓ガラスは木っ端微塵に砕け散った。
「弟なのか性学の恥なのか、はっきりしろぉー!」
空砲をジャンプで躱し、天井を蹴って宙返りしながら回り込む。
「決めるッ」
空撃連射
高速、広がりながら迫る空砲それを首をそらし、身体を捻り間合いを詰める。矢澤が踏み込み威力を強める。
「いいぜ...」
「必殺!!」
矢澤の渾身の両手同時撃ちを、懐へ潜り込み躱しながら...
10倍カウンター
フルスイングの右ストレートがゼロ距離で、かつノーガードに、顔面へ、めり込んだ。
3mほど吹っ飛んで、割れた窓から矢澤は転落した。2階。
「やったか?」
「あっ」
いや、この場合はこれで正しかった。このS級蘇生魔法を詠嘆したことで俺は前科持ちにならずに済んだ。
~翌朝~
挨拶週間だから生徒会の面々が各校門に並んでいた。俺はアニメを観ていたせいで出欠分前になってしまった。急いで西門を抜けようとすると、
「君、ちょっと遅いんじゃないかな」
「あ、すみません。あの、ん?」
そこにはギプスに包まれた右腕を吊って、車いすに乗った矢澤 流石がいた。
「あ、その件では、ども。へへっ あー、その怪我は...交通事故にでも遭いました?」
「ふん、ケシカスを床に落とすなよ」
転落して、半身不随にする予定でしたが可哀そうなので辞めました。