二日目 AM α'
クノッソス宮殿に向かうバスの中には、僕と後数人しか客は乗っていなかった。
日本では想像がつかないくたびれたバスに揺られること約三十分、土産物屋が二件ほど並ぶ寂しい場所に僕は降ろされた。
かなり殺風景な所である…宮殿が無ければ、間違い無く訪れない場所だった。
僕はそこから土産物屋さんの人に道を聞き、クノッソス宮殿に向かう。
クノッソス宮殿のエントランスにたどり着いた僕は、そこでチケットを買おうとするが、この日(日曜日)は、無料の日らしく、フリーでゲートを通過する。
宮殿の敷地内に入り看板の表示に従い歩いて行くと、目の前に大きな宮殿跡が現れた。
ギリシア文明は、このクレタ島のミノア文明が発祥の地だとされている。
そのミノア文明の王、ミノスが牛の化け物ミノタウロスを閉じ込めるために作られたのがこのクノッソス宮殿(迷宮)らしいのだが、これが迷宮とは程遠い簡単な作り…
果たしてこれで誰が迷うのだろうか?と思っていると、宮殿完成当時の絵があり、それを見てようやく納得…は出来なかった、正直に言って…(汗)。
宮殿が何の目的で作られたかは別として、その美しさは目を見張るものがあり、僕は敷地内を何度も歩きまわり、美しい壁画、朱塗りの柱を見て回った。
そこから感じるものは、とても平和でのどかなミノアの人々の様子…自然と動物、人々との調和であった。
自然を愛し、オリーブや麦を収穫し、海上貿易で栄えたミノア文明は、実際に争い事が無く平和であったようで、クレタ島で見つかった宮殿には『城壁』が存在しない。
アテネの遺跡とは違う『優しさ』を感じながら、僕は時間の許す限り宮殿を見て回った。
敷地内の芝生の上で腰を下ろし、木々の間からのぞく太陽を見ながら僕は、当時の人達は、ここでどんな事を思い、暮らしていたのか…と考えながら時間を潰した。
子供の頃、レイ・ブラッドベリの古典SF小説『火星年代記』の映画を見た事がある。
今みたいにCGが無い時代の映画で、とってもチャチな特撮(懐かしい)映像であったが、セットで作られた『火星人の都』だけは、お金がかかっていて、豪華だった。
この野外に作られたセット(石造りの宮殿的な)が結構この宮殿と似ていて(雰囲気が…ね)、そこに住んでいた火星人(死滅した)の思想、考え方が、どことなくここに住んでいたミノス文明の人達と重なり合っているような気がした
(平和で自然を愛し、今と言う時間を一生懸命に生きる…みたいな)。
クノッソス宮殿で二時間ほど過ごした僕は、やる事も無くなったのでそこを後にし、バスに乗って再びイラクリオンに戻った。