八日目 AM エフカリスト!きっとまた戻ってくるぞ!
朝の光にさらされ、僕は老朽ホテルの狭い部屋のベッドで目を覚ました。
ぼんやりとした視界で薄汚れた天井をぼうっと眺めつつ、僕はこれがギリシアで過ごす最後の日なんだということを実感していた。
旅には必ず終わりが待っている…だから旅なんだ。
頭ではわかっていても、この寂しいような…でも心のどこかで『終わった…』とほっとしている複雑な感覚は、これまでの旅でも何度か体験しているのだけど…やはり慣れることはできない。
この旅での起こったことは本当にハードで心身ともに疲労の連続だったけど、それでも振り返った自身の薄っぺらいせい(笑)人生の中で、本当に充実し輝きに満ちていたと思う。
色んな人に出会い、写真でしか見たことの無い色んな風景を見て、失敗し失敗し稀に目の覚めるような成功して…そして数ミリ単位の成長もできたのでは…とも思う。
でもまあ…この成長は、物事の本質や人の心の流れを冷静に、かつ鋭く見るための成長なのだと思う。
物書きを目指している僕にとって、それはとても重要で必要なことではあるのだけど…それが故に見えすぎてしまうことも多々あって、時々それが本当に必要な成長だったのかどうかと迷うことがある。
今まで見えてこなかったものが見えてくると、当然のことながら僕の周囲にいる人達とも見えるものが違ってくるわけで…それは時として大きな軋轢を生み、今まで自分が心地良かった場所がとても息苦しくなって、結局はその場所を失う結果になってしまう…
僕が偉くなったとか、賢くなったとかそういうことでは無くって、決定的に埋めることのできない溝ができてしまう…と言った方が正しいのだろうか。
そうやって一歩、また一歩と孤独になってしまうような気がするのだけど、でも道は前にしかなく…進むしかない。きっとどこかに繋がってるんだと思うのだけど、今のところ何処にも繋がってないような気がする…
果たして今回のギリシアの旅は、僕をこの先どこへ導いてくれるのだろうか…
まあ…いずれ答えは出るだろう。
僕の人生はまだまだ不完全で、本当に『自分』の人生を実感し歩き始めたのは、つい最近のことである。
何が待ってるかはわからないけど、導きに身を任せていれば…いずれ自分の目指している方向に何かの光は見えるはず。
思考が次第にはっきりしてくると、僕はベッドから出る。チェックアウトまでは本当に何もすることがない。
空港にはお昼くらいに着けばいいからそれ程焦る必要もなく、僕はそれから少しの間、硬いベッドのシーツに頬を押し付けていた。
荷物の整理やら、トランジットのチェックを済ませると僕は下のロビーに降りて行き、主人にチェックアウトを告げる。
これまで何千人…いや何万の人を停めてきた主人はそっけなく僕を目で見送ると、読みかけの本に視線を落としていた。
ホテルを出た僕は朝の光の中、ピレウスの駅まで戻っていった。
港の脇を歩きながら、今からエーゲ海の島々に散っていく船を眺め…ミコノスに行く船、サントリーニに行く船の間で迷っていた自分を思い出し、少し楽しい気分になった。
迷ってるときって…本当はすでに心の中に答えはあって、その『決定劇』を演出するために迷うフリをしていうのでは?
そんなことを考えながら、駅近くのファーストフードの店、今回行けずにいたトルコへのチケットを売っていた旅行代理店を通り抜け、僕はピレウスの駅にたどり着いた。
ピレウスから電車の乗り、そこからアテネへと向かう。
約一週間ぶりに乗る電車は、何故だかとても懐かしく…通勤で使ってる電車のように思えた。
来た時と同じ道のりを揺られながらアテネのシンタグマ駅に到着すると、僕は地下鉄を出て空港に行くためのバスに乗るべくバス停に向かう。
ここまではなにも問題は無い、飛行機の時間にも十分時間がある。
今回はトラブルなく帰れそう…そんなことを考えんながらバス停にたどり着いた僕を待っていたのは、旅の最後を飾るに相応しい厄介な事態であった。