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七日目 PM See You Late!

結果的に言うと、僕はそのことを彼に聞くことが出来なかった。

僕が中国人である彼に何を聞きたかったかと言うと『日本』に対する感情であった。


前年だったっけ…僕はテレビでとてもセンセーショナルな光景を目にしていた。

それはサッカーのアジア選手権で、日本代表チームは中国の重慶という地域のサッカー場でアジア勢を相手に試合をしていた。


僕は当然のごとく日本代表に声援を送っていたのだけど、テレビから聞こえる声はスタジアムいっぱいに響き渡る日本代表へのブーイング…最初は気のせい?かと思ったけど、それは間違いなく明らかな意志を持って日本代表に浴びせかけられていた。


聞けば、第二次世界大戦中に日本帝国軍が重慶に対して大規模な爆撃を行って多数の死傷者を出したのこと…らしい。それ以来ずっと反日の感情を抱き続けていて、それがブーイングという形となって表れたとのことであったが…僕にはその光景がとても異様なものと思えた。


僕自身は戦争を教科書でしか知らない。

中国に対して酷いことを行ったという知識はあるけど、それは過去の人たちの誤ちであって、現代の僕たちは何も知らない…

少し無責任な言い方かもしれないけど、戦争を知らない僕たちの世代にとって戦争は遠い過去であり、それを現実として感じることなんて映画やドラマの中でしかない。


もう少し補足するなら…僕達日本人だってアメリカとの戦争で多くの国民が命を落としているし、実験のため(だと僕は思う)の原爆で何十万の罪の無い市民が犠牲になっている。でも僕自身はそれを行ったアメリカに対して何の敵意も感じない(自分の肉親が犠牲になっていたらどうかはわからないけど)。


僕にとっては…いや、戦争を知らない世代にとっての戦争は過去であり、非現実的なお伽噺みたいなものだと思う。


でも、彼達にとって戦争は過去のものではなかった…

中国の取っている反日政策もあるのだろうけど、日本に対する敵意は凄まじいもので、日本の選手がボールを持つたびに観客全員が心を一つにして怒声を浴びせかけていた。

(サントスは違うだろう…と思いながら)。


でも、目の前にいる青年からはそんなオーラは微塵も感じられなかった。

むしろ僕達日本人に対してとても親しみを持っているように思えた。


早くから多くの外国の人と接し視野が広いせいか、自国の中国という国を一度外に出てから見ているせいか…

とにかく僕が思う中国の人のイメージと大きくかけ離れていた。

いや、ひょっとして僕自身が抱いている中国の人へのイメージも先入観なのかもしれない…


そういった思考を英語に構築する作業と、その場の空気が気まずくなるのでは? との懸念から僕はその質問を最後まで彼にぶつけることができなかった。


それからしばらく彼と話し、お互いの住所の交換をしあった。

「日本に来たら是非遊びに来て。それまでに英語上手くなっておくから」

話す話題に尽き沈黙が訪れたので、僕は自然とテーブルに突っ伏して寝てしまった。


それから少しして船は中継の島(たぶんシロス島)到着した。

船の挙動の変化で目を覚ました僕は、テーブルに落ちたよだれを拭きながら沈平さんに「おはよう」を言う。

「ここでお別れだね」

「うん…」

沈平さんと頷き合うと僕は彼とともに席を立った。

なんだかここで別れるのが少し寂しかったので、彼を港まで見送ろうと思ったのだ。

彼にそれを伝えると快く了承してくれたので、僕達二人は共に食堂から出てタラップを降りる。


沈平さんとしっかり握手をすると笑顔でお互いに「さよなら」と言い合った。

リュックを担いだ彼の背中に手を振って船内に戻ると船が出港する。

再びひとりになった僕は、本当にすることが無くなったので再び眠りの世界の扉を叩いていた。

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