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七日目 AM 多国籍パーティ結成!

明らかに旅行者のいでたちの彼女は僕と目が合うと、小さく笑みをこぼす。

その笑みの中には「日本人?」っという意味合いも含まれていたので、僕はそれに答えるように先に「日本人?」と彼女に問いかけた。


緊張が解けたように彼女が人懐っこい表情になると「うん」と小さく頷く。

背はかなり小さく、髪の毛もショートだったので、女の子というよりは、少年を連想させた。

かなり旅慣れしている風情で、こういった旅に不必要? な繊細さ…女の子らしさはあまりなく、どちらかというと逞しい部類に入るのかな。


彼女の放つオープンなオーラが僕に緊張を忘れさせたのか、僕は彼女に近づくと、どこから来たのか…とか、日本では何をしている人? とか、当たり障りのない話をし始める。


名前…と言うのは、きっかけがないとお互いに聞き合わない。

特に旅先で出会う人達は『一期一会』という、線でなく点での触れ合いを求めているように思う。

だからお互いの名前には何の意味もないのかもしれない。一日以上一緒に行動する場合は、呼ぶ時に不便なので名前を聞くようにしているが、今回は長くても数時間だろうと思った僕は、あえて名前を聞かなかった。


彼女は日本で看護師をしていて、そこを退職して一人旅をしているという。

イタリアからフェリーに乗ってギリシアに来たとのこと(二十時間くらいかかるらしい…)。


英語は殆ど話せないみたいで…人懐っこい笑顔とゼスチャーでずっとヨーロッパを回ってきたらしい。

でも、これってとても凄いことで…決して簡単にできることだはなかったりする。


日本語が通じない世界で宿をとり食事をし、電車や船の切符を手配するというのは至難のワザである。

僕自身も片言の英語で何とか奮闘しているが、それでも何かしらの手違いが起こってしまう。


タイでトゥクトゥクの運転手に『ハードロックカフェに行って』とお願いしたら、ストリップ劇場に連れて行かれたり…まあこれは、かなり悪意というか確信犯なんだけどね(結局ストリップに入ってしまったが…)。

あとはイタリアのレストランで、頼んでもいない豪華な料理が出てきたり(そのぶんきっちりお金は払わされた…詐欺? 喧嘩になりかけたよ)。


まあ最終的には自分の『~したい!』という強い思いが言葉の壁を乗り越え、自然と道が開けてくるのですが…


そんな苦労を知っている僕が、しっかりしてる人だな…と関心していると。

「…でも、わたしイタリアでATMでお金おろした後、カード抜き忘れちゃったんだ」

と、まるでハンカチでも忘れたようにアッサリ言ってのけたので、僕は「大丈夫だったの?」と慌てて問う。

「日本に電話をして、カード止めてもらったからなんとか…でも、お金がおろせなくなったのでちょっと旅の計画が変更になったの」

と、悪戯っぽく微笑んだ。

まあ、ある意味逞しいというか…旅にはもってこいの性格かもしれない。

「イアに行くんだよね?」

「そうだよ。まだバスまで少し時間があるけど…」

「じゃあ一緒に行きましょう」

「そうだね」

断る理由が無かったので僕は快く了承する。


僕たち二人がバスターミナルで待っていると、イア行きのバスが現れる。

それと同時に、一人の男性が僕たちのところへ歩いてくると看護士さんに手を振った。

看護師さんもそれに笑顔で応えるように笑顔で手を振る。

「一緒の宿に泊ってる中国の人なの」

彼女からそう説明を受けた僕はその男性に会釈する。

とても好印象な彼もイアに行くらしく「これでいいの?」と言うようにバスに指をさすと、僕は「そうだよ」とうなずく。

中国の彼を加え、少しくたびれたバスに乗り込んだ僕たちは、僕と看護士さんが隣合わせ、その前の席に中国の彼という席に座った。

まばらに客を乗せたバスがターミナルを出発する。

イアまでは30分~40分くらいで着くみたいで、急きょにパーティーを組んだアジアントリオが、英語、日本語の混ぜ合わせの会話に花を咲かせた。

彼の名前は沈平…イギリスのBBCラジオに努めているみたいで、その休暇を利用してギリシアに来たとのこと。

中国から世界に飛び出して働いているということは、結構いいところの育ちで、家はちょっとしたお金持ちなのかな…

彼の仕草や僕たちへの接し方にどことなく「お坊ちゃん」的なものを感じていた僕は、何となく納得する。

僕が抱いていた中国の人のイメージ? とは違って、人一倍気を使い、どこまでもジェントルマンな彼の人柄に、僕はとても心地良くなる。

僕や彼女のたどたどしい英語に根気よく付き合ってくれたお陰で、いい意味でのアジアの輪が繋がり、バスの中に小さな共和国ができはじめたその時…

「日本人の方ですか?」

新たな共和国への加入申請の声が上がっていた。

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