七日目 AM 二度目の出会い
長い船旅のせいか、一晩中全く起きることなく朝を迎えた。
窓から差し込んでくる陽光に目を開けると、少しの間自分がどこにいて、何をしているのかわからなくなる。そうそう、今はサントリーニにいるんだっけ。部屋をゆっくり見まわし体を起こすと、ベッド脇に置いてある腕時計に目を通した。
まだ七時を回ったくらいだったので、もうひと眠りしようかと思ったけど、良く考えたら昼過ぎにはこの島を経たなければいけないんだった。
僕は勢いのままベッドから出ると、ジーパンをはき外に出る。ホテルは古風でお洒落な小さなホテル…白とレンガ色の壁がとても奇麗に見えた。他に泊まっている客はいるのだろうか? そんなことを考えながら通りに出ると、ホテル近辺の散策を始める。
このホテルがあるのは、どうやら島の中心部フィラから少し外れた場所らしい。イアに行くバスターミナルがあるフィラまではかなり遠いみたいだ。ならバスに乗って行こう。僕は小さなお店のおばさんにバス停の場所を聞くと、大通りにあるバス停で時間を調べようとした。
その時、バス停から出発するバスの姿が見えた。
「まさか…」と思ってバス停の時刻表を見たら、案の定今行ったバスがフィラ行きだった…じゃあ、次のバスはと見ると約二時間後…
さてどうしよう。サントリーニいられる時間は限られている。バスを待っている時間がもったいない。なら歩いて行こうか…でも、地図で見る限りは二キロほど歩かなくてはならない。
さんざん迷った挙句、僕は歩いてフィラを目指すことにした。待っている時間がもったいないのと、飲み物を買いに入った店のおばさんの「全然歩けるよ」の心強い後押しがあっての決断で、僕は宿に帰るとさっと身支度を整え再び外に出ると、大通りを歩き出した。
見渡す限り何もない大通りを歩く。
行き交う車を羨望の眼差しで眺めながら僕はひたすら足を動かし続ける。
額に汗がにじみだし、その旅に手にしたペットボトルから水を飲む。
夏のシーズンじゃなくって良かった…真夏の太陽の下なら確実に干物になれる。いや、その前に歩いていこうなどとは思わなかっただろう。
ただひたすら歩く行為を続けようやくフィラに到着する。
町自体は小さな町で、もちろんビルなんて存在しない。
いかにも田舎の観光地といった風情で、小さなバスターミナルの周りにお土産屋や飲食店が並んでいるといった感じである。
僕はバスターミナルでイア(絶壁の町がある場所)行きのバスの時間を調べる。あと一時間以上余裕であったので、少し腹ごしらえとばかりに街の中を歩き始めた。
バス停の裏側くらいに、比較的安いレストラン…ファーストフード的なお店があり、値段もそこそこだったので僕はそこに入った。
この旅でまた食べていないギリシア料理といえば…ムサカと山羊のチーズ、フェタ。ウインドウのメニューで二つともあるのを確認する。両方頼んでも10ユーロ以下だったので、少し贅沢(貧乏旅行なのです)とばかりに注文する。
席について間もなく料理が現れる。まずはフェタ…フォークでフェタの塊を取ると恐る恐る口の中に入れる。普段日本で食べるチーズと違って、一言でいえば『臭みのある』味だった。より醗酵の度合いが強いというか、ぬか? みたいというか…
それはそれでクセになる味、食感だったのでサラダとともに美味しく食べた。
次はムサカ…これはソテーしたジャガイモやナスをパイ生地のようなもので何重にもサンドイッチしたような感じかな。ギリシア、トルコなんかでも比較的ポピュラーな料理である。これは予想通りラテン系? の味がした。ラザニアっぽいと言えばいいのかな…旬の野菜がとてもジューシーに口の中に広がり、その美味しさのためにしばらく僕のフィークは休むことは無かった(笑)。
空腹も満たされた僕は、しばらくターミナルの周りのお店をうろついた後、もう一度時間確認をしようと再びバス停の時刻表の場所に向かう。
バス停でイア行きの時刻表を見上げて、時間に間違えが無いことを確認し、さあまた散策でもしようと思ったその時、僕の目の前に一人の女の子が立っていた。