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六日目 PM 時は金なり・・・

日本ではおそらく見ることができないだろう真っ青な空と眩しい太陽の下、僕は石段に座りぼんやりと教会を眺めていた。

教会のそばでは、小さな女の子達が何か楽しそうに話をしている。その風景がとても自然に日常の中に溶け込んでいるように見えた。

ギリシア人にとっての信仰はキリスト教の改訂版?であるギリシア正教がほぼ全てである(…と思う)。

ミコノスやサントリーニにある鮮やかな青い屋根の教会がギリシア正教のそれで、教会はミコノス島だけでも百を超える数があるらしい。

馬小屋みたいに小さな教会も含めての話ではあるが…


これまでにいくつかのキリスト教の国を訪れ、そこで感じたことは、僕達日本人が想像出来ないほど信仰が生活に深く根づいていると言うことである。

僕は日本に生まれ、殆どの人がそうであるように、特定の宗教を信仰すること無く育ってきた。

正月に初詣で手を合わせることはあっても、それは単なる儀式のひとつであって神様を信じているわけではない。

どちらかというと宗教には胡散臭いものを感じている。神様はいないと思っているし、神様を信じている人は心の弱い人なのだと思っている。

実際に日本では、そう言う心の弱い人達に漬け込む悪い宗教団体も存在するのも事実である。

だから日本で宗教をしている人を見ると、どことなく馬鹿にした目で見ている自分がいた。そんなものを信じるなら、もっと自分のことを信じろ…と。


僕自身の考え方としては、神様の正体っていうのは、自分の中に存在するものだと思っている。

最大限に活性化された脳が自分にもたらす最良の選択や導きが、神の正体なのだと。

信仰を通して脳を活性化させるのも、とことんまで自分を追い詰め脳を活性化させるのも、結果的には同じなのだ、と僕は思う。

ただ、両社ともに大切なのは、神様であれ自分自身であれ強く『信じること』である。

信じること、諦めないことよってによって脳は自然と自分に最適な答えを教えてくれるのだと。

だったら、僕は何かに頼るよりも自分自身でその答えを見つけたい。

誰かに答えを求めるなら、自分自身の中に答えを求めようと…いや、正確に言うならば、その答えを求めるために、こうやって旅をしているのかもしれない。


日本の悪い宗教? のせいか、そういう概念が出来上がっている僕であったが、ここギリシア…他のヨーロッパ諸国で見る人々の宗教観は、そういうものとは少し違って見えた。

水や空気のように、自然とそこにあるものと言ったらいいのか…とても生活や日常の中に溶け込んでいて違和感が全く感じられなかった。

当たり前のように神様を信じ、当たり前のように教会に足を運ぶ…それが生活の一部であるかのように。

教会も当たり前のように街の中心部に建てられ、それを中心に街が栄えていく…彼らにとって信仰は、生きていく上で必要な『太陽』みたいな純粋な存在なのだろうか。


小さな子供達の笑顔を見ながらそんなことを考え、僕はしばらくその教会のそばで行き来する人を眺めていたが、太陽の日差しが強くなってきたので腰をあげ、再び町の中へと足を踏み入れた。

通りにある店先にいる、ふくよかな猫としばし遊び、再び港の方までやってくると、僕はなるべく流行ってなさそうなカフェを探す。

もうこの島で歩きまわって時間をつぶすのは無理だ…というより、歩くことに疲れた。もう一歩もあてもなく動きたくない。

なら、船が出るあと4時間余りをカフェに立てこもり、読書でもして過ごそうではないか。

日差しも防げるし寝たけりゃ眠れるし…でも、そうなったらなるべく静かで、居座っていても迷惑がかからない店にしなきゃ…

というわけで、僕は港のそばにある薄暗い、お客さんで賑わっていないカフェ(笑)に目をつけ、そこに入った。


なるべく切り詰めた旅なので、豪華に昼食というわけにはいかない。

僕はメニューの中で一番安いコーヒーを注文すると、そそくさ店員の目の届かない一番奥の席にこっそりと座った。

店員もあまり関心が無いのか、この手の客が多いのか…コーヒーを持ってきた女性が、僕が本を片手に無言のアピールをしているのを見ると、了解とばかりにコーヒーをテーブルに置き、黙って去っていってくれた。

でもまさか、夕方までの時間をつぶすとは思ってないだろうな…

そんなことを考えながら僕は温かいコーヒーに口をつけ、ほっと一息つくと、リュックに残っているパンを取り出しかじりついた。

カフェの奥に陣取った僕は、たった一杯のコーヒーで買い取った自分の領域で、とても申し訳ない気持ちをいっぱいに…それから何時間もかけて一冊の本を読んだ。


本を読み終えると、船が出る夕方6時が近づいていたので、僕は最大の感謝の笑みというか複雑な表情を女性の店員に向け店を出た。

船会社のオフィスでリュックを受け取ると、僕はようやく港に現れたサントリーニ行きの船に乗り込んだ。

旅をしていると、何で無いこともすべて意味のあることだと思えるのだけど…さすがにこのシロス島は、何も印象に残る事が無かった(汗)。

印象の残ったのは、椅子の上で僕と遊んでくれた二匹の猫くらいだろうか。とても可愛くって愛嬌があったなぁ。

まあでも、こんなことが無ければ間違いなくこの島を訪れることは無かったわけで…そういう意味では旅の見聞が広がったというところでしょう。


夕刻で少しづつ太陽が黄昏の光を帯び始める海をデッキから眺めながら、僕はシロス島に別れをつける。

そして、この旅の最後を締めくくるに相応しい場所であろうサントリーニ島へと向かった。

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