六日目 AM 心の帰る場所
夜中に何度か目を覚ましたみたいだけど、あまり記憶が無い。
ミコノス最後の夜、いや一日をほぼ睡眠に費やしてしまった僕は、朝の光で目を覚ます。
静まり返った部屋で時計を見ると、8時か9時くらいだっただろうか…僕は起きると、リュックの中に入れてあったパンをかじった。
何だかとてももったいない時間の過ごし方をしてしまったなぁ、と反省しつつ身なりを整えると、ふらっと外の空気を吸いに出た。
青い空の下、まだ人通りの少ない路地を歩くと、マーケットの近くに住んでいるネロ君のところへ向かう。
マーケットの前の公園のところにネロ君がいたので、僕は店で缶詰を買ってネロ君のところへ近づいた。
ネロ君は僕に気がつくと、ゆっくりとひと伸びしてから頬をすり寄せてくる。
「今日でお別れだからね。元気にたくましくやっていくんだよ」
僕はネロ君の頭を撫でながらそう言い聞かすと、缶詰を開けて差し出した。
猫は嬉しげにひと鳴きすると、缶詰にむしゃぶりついた。
その豪快な食べっぷりを微笑ましく眺めながら、ふと僕は…またここに戻ってくることを考えていた。
いつになるのか…そんなことは全く考えていなかったけど、そんな予感みたいなものが僕の心に中に湧き上がる。
「その時には、また会えるよね」
僕は食事中のネロ君の頭を撫でながらそう呟くと、彼の邪魔をしないように、フェードアウトするように宿へと戻った。
いつになってもいいから、またこの地に来よう。
その感情は、今まで訪れた国や土地に感じていたものと、全く違うものだった。
これまでに訪れたピラミッドやマチュピチュ、サンピエトロ寺院は偉大であり壮大であり、その時代を生きた人々の考えや力が見える場所であった。
そこにもう一度訪れたいと言う思いは、また何かしらの新しい刺激を受けたい…という目的であったが、このミコノスにはそんなものは無く、ただ純粋にそこに身を置きたい…というものだった。
自分の人生観を変える光景や、新しい導きではなく、純粋に心が帰る『故郷』みたいなものかな。
異国の地で故郷というのは、少し変な話だけど…そう表現するのが一番近いと思う。
これから先の人生で、色んなことがあり、いろんな経験をするだろうけど…最後にはここに帰ってきて、自分の歩んできた人生をぼんやりと振り返りたい。
僕自身、まだ数えるほどしか異国の地を踏みしめていないけど…ここはきっと僕が求めていた『自分が一番好きな自分でいれらる場所』なのだろう。
心の中で再びこの島を訪れると誓うと、僕は再び重いリュックを担ぐ。
3日間泊まった宿と、サカキさんとの微かに甘い?思い出と、陽気なエレナさんに別れを告げると、僕はリュックからウゾを取り出し、乾杯とばかりに口をつけた。
「やっぱ美味しくないな」
捨てるのももったいないので…はやくこのお酒を空にして、リュックを軽くしよう。
僕は宿を出て路地を歩くと、見納めとばかりに真っ白な街並みを名残惜しそうに…目に焼き付けるように眺めながら、すれ違う人に一人一人に、心の中で手を振りながら港へ向かった。
次の目的地はサントリーニ島。エーゲ海でもっとも有名で壮大な景色が見れる場所だ。
でも、オフシーズンの船の都合で僕の乗る船は直接サントリーニ行くのではなく、シロス島う名前も聞いたことの無い島に行くとのこと。
しかも、そのシロス島で6時間も次の船を待たなければいけない…(汗)。
何度か海外に旅を重ねたお陰で、待つ事にはすっかり慣れていたが…6時間にはちょっとうんざりする。
何をして時間をつぶすか? ここ(ミコノス)と違って、きっと観光的なものは何もない島だろうし…
そんなことを考えているうちに港についた僕は、そこで待っていたフェリーに乗り込んだ。