五日目 AM もの言わぬ遺跡に咲くのは…
世界遺産、デロス島の船着き場に船が付くと、僕はその一歩を踏み出した。
お客さんの数も数えるほどで、各自船着き場から移籍乗る場所へと散らばって行った。
次に船が迎えに来るのが2時間後…島の広さから言って、全部回り切るのにそう時間はかからないだろう。
僕は船着き場から広い遺跡跡に足を進める。
まずは島のシンボルでもある8体のライオンの像を抜けて、もっとも広い遺跡跡へ向かう。
遠い過去に貿易の主流として栄えたデロス島の街並みであったが今はその面影は全くなく、広大な敷地とそこにあるギリシア風の石の柱、家の基礎が見渡す限りに続いていた。
通りを歩きながら目を閉じると、僕は遠い昔に貿易の中心地として賑わった街並み、そこで暮らす人々の事を想像していた。
イタリア、エジプトと言った様々な国の船が毎日のように訪れ、オリーブやワインといった名産物を売り買い、肌の色や言葉の違う人々が通りを行きかい声を張り上げる…そんな光景を思い浮かべながら僕は通りの中を歩いていた。どんな文明にも終りがあり、栄えた国や街も永遠では無い…
今までに見てきたイタリアのポンペイ、ペルーのマチュピチュと言った、かつて栄えた遺跡跡を見た時に感じた切ない思いを抱きながら歩いていると、道端に咲く色鮮やかな花達が目に入る。
文明の灯消え、人々も消え生命の通わない街並みに咲く花…主のいなくなった場所を守るように、その花達は精いっぱい命の輝きに満ちていた。
今は生命の通わない街並みと、今を一生懸命に生きている花達のコントラストと言うか…そう言うものがとても美しく思え、僕はエーゲ海の太陽を浴び鮮やかに色づく花達の写真を何枚も撮り続けていた。
アポロンの像の跡を抜け敷地を出ると、僕はこの島の一番高い場所…キントス山を登り始めた。
観光の順路がそうなっていたせいか、僕は迷いも無く石段を昇りキントス山を頂上を目指すが、これが想像(見た目)より距離があって、途中で何度か挫折しそうになる(汗)。
登っても登っても新たな道が出てきて、その度に『引き返そうか…』と躊躇するが、息を切らしながら何とか頂上まで辿り着くと…言葉に出来ないくらいの絶景が僕を待っていた。
頂上からは島の全てが一望する事が出来、その向こうには終わる事の無いエメラルドの海…とても美しく広大で、今にもかつての人々を乗せた船がやってくるのでは…と思うほどだった。
山を登り切った達成感も重なってか、僕は少しの間言葉を無くしたようにその景色を見下ろすと『かつてこの島に住んでいた人達も、同じ景色を見ていたのかな…』と、そんな事を考えていた。
『この景色を忘れない…』いや、いつかこの街に住んでいた人々の物語を書いてみたい…と、小説家の真似ごとをしている僕は心に誓うと、来た時の道を通って下山した。
山を降り切ると道が二股に分かれていて、僕は通っていない方に進路を取って船着き場へ向かった。
僕が通った道はどうやら、かつての人々の住居の集まりみたいな所で、崩れ落ちた小さな家の敷地が続いていた。
船の出発時間にまだ余裕があったので、やや狭苦しい(汗)通りを歩きまわり、何度も道に迷いながら船着き場に戻ると、ギリシア語で『輝き』を意味する島に別れを告げ、ミコノスに戻る船に乗り込んだ。