五日目 AM ~ゼウスが浮気相手に子供を産ませた島~
安物の青春映画並みに僕は眠れぬ夜を過ごした。
まあ、色々あったけどサカキさんとは今日が最後、彼女がピレウスに帰る船に乗ってしまえばもう二度と合う事は無い…と思う。
良くも悪くもこれが『旅』であり、彼女自身もこれまでの旅先で出会った人達と同じく思い出の人となる。
旅に行くと例外なく日本人と出会い、その人達と一瞬の同じ時間を共有し、またそれぞれの人生へ戻っていくという事に慣れっこになっているが、別れる時はやはり寂しいものがあり、これだけはこれから先も慣れる事は無いだろう。
朝起きると、何事も無かったように笑顔で挨拶を交わす僕と彼女。
朝食を食べ、これからデロス島に行く事を伝える。
デロス島へは朝一で行き、お昼ごろには帰る予定なので、彼女がここを発つ船の時間には間に合うはずだ。
『またあとで見送り行くよ』と言い残すと僕は宿を出て、浜辺にある船着き場へと向かった。
船着き場でチケットを買い船に乗り込む。
船は2~30人ほどが乗れるであろう大きさだが、今デッキにいるのは僕とあと、白人の親子くらいだった。
お父さんと娘さんらしき人物は二人ともサングラスをかけ、談笑を交えながら2Fデッキから海を眺めていた。
話は飛ぶけど…白人の人ってどうも紫外線に弱いというか、太陽の感じ方(見え方)が違うみたいです。
僕たち日本人より太陽が眩しく見えるのか、旅先で見た白人系の人、晴れの日はほぼ例外なくサングラスをかけています。
『そんな眩しくもないだろう』と言う感じでも、彼らには耐えられない眩しさのようです。
あと、体感温度も違うみたいで、僕らがお風呂に入る時の温度(例えば40度前後)くらいでも、まるで50度くらいのお湯につかるような険しい形相で入っています。
以前ペルーのチバイと言う所の温泉に入っている時、後から来た白人のおじさん、死にそうな顔でプールに入ってました(たぶん38度くらいのぬるま湯)。
『そんなに熱くないだろう』と言う感じでも、彼らには耐えられない熱さのようです。
出発時間が来て来て、船はアポロンとアルテミスが生まれた場所、デロス島へと向かった。
紀元前480年前後、ペルシアとの戦いで勝利したギリシアは、ポリス諸国を集めてこのデロス島で同盟を結んだ。
その後中心となったアテネが勢力をどんどん増して、他のポリスを制圧し始め、その辺りから少しづつエーゲ海の文明が綻び始めるのだが、その話はまた機会がある時にでも…
遠ざかるミコノス島の景色はとても美しかった。
エメラルドの中に浮かぶ白い建物…美しい絵画の一枚を見ているようで、眼に映った風景がそのままの状態で記録される事は無いと知りながらも、僕はカメラのシャッターを切っていた。
デロス島までは約20分ほど…外のデッキにいる僕は肌寒くなったので、船の中に入りソファに腰掛ける。
少し眠気に襲われながらも船窓の外を眺めていると、船の進む先に茶色(岩肌ですね)の島が見えてきた。
船の速度が落ちている事でそれがデロス島だと悟った僕は、再び船の外へ出て、デッキからその島の姿を一望した。