三日目 AM 出会いは突然に?
船のゲートが開くと僕は、エーゲ海の宝石箱、ミコノスの地を踏みしめる。
島全体が僕達を歓迎しているようで…足取りも軽い。
僕はとりあえず町の中心部(歩いてすぐの距離だが)に向かうべく歩きだした。
すると…同じ船に乗っていただろう人々の中に、日本人の女性の姿を発見した。
声をかけるべきか否か…僕は彼女の姿を視界に入れながらも微妙な距離を保つ。
彼女が日本人であるか否か…それがイマイチわからなかったからだ(汗)。
海外で出会う東洋人は、本当にどこの国の人だかわからない…
『あ、日本人!』と思って声をかけたら韓国や中国の人だったり…中々見極めが難しいのだ。
同じ東洋人同士でもわからないのに、現地の海外の人から見たらもっとわからないだろう…と思う。
同じ事を彼女も考えていたのか…どちらからともなく暗黙の了解で、距離を詰めた僕達は笑顔で会釈する。
『日本人?』一番の疑問に彼女は頷いて答えると僕の隣に立ち、久しぶりであろう母国の言葉で話し出す。
『同じフェリー乗ってたよね?』
『うん…どこから来たの?』
『あたしはね…』
彼女の話によると、彼女は日本からスイスの農業大学に留学している学生さんで、春休みを利用してスイスからドイツ、イタリア…と言う風に下ってきたそうだ。
『どれくらいいるの?』
『とりあえずは3日くらいは居ようかと思って…』
『宿は…まだだよね?』
僕の問いかけに彼女が頷いたその時、現地の女性が僕達に声をかけてきた。
どうやら…港に到着した観光客を相手にする客引きみたいで、女性は今夜の宿の事を聞いていた。
共に宿を決めてない僕達は、さっそく値段交渉に入る。
オフシーズンのために観光客が少ないので、思っていたより安めの値段の交渉から始まった。
『二人はカップル?』
女性は僕達を交互に指差し微笑む。
僕達が慌てて首を振ると『じゃあ別々の部屋を…』と提案し、個別に部屋の交渉を行うが、中々上手くまとまらない。
『二人部屋なら安くできるんだけど…』女性の申し出に、どちらからともなく『二人部屋ならいくら?』と聞いていた。
男女の間柄…よりも安さ…を重視してしまうのは、貧乏旅行者(失礼)のさだめであろうか…(汗)。
結局、一軒の空き家を二人で借りると言う事で話はまとまった。
僕がとりあえず一日、彼女が3日と言う事になり…僕達は女性…エレナさんと共に車に乗り、宿へと向かった。
客引きのエレナさんはまだ20代半ばでスタイルが良く、とても色が白く美しかった。
こんな映画に出てきそうな女性が、普通に宿屋にいるなんて…ヨーロッパって凄い所だな…
もろヨーロッパ…ラテン系の女性が不変の憧れの僕は、しばし彼女の向日葵のような笑顔に見惚れていた。
エレナさんはとても明るく、道中の僕達に流暢な英語で話しかけてくれたが、お互いに半分も理解出来ず、曖昧な微笑みしか返せなかった。
エレナさんの車で数分かな…町の中心部から少し北側の家、それが僕達の宿だった。
密集する真っ白な建物達に囲まれ…小さな路地を見下ろすその家に案内された僕達はエレナさんにお金を渡すと一息つく。
二階建ての普通の家で、二階のベランダは広く…そこからすぐ向かいに見えるのは、小さな小学校だった。
お互いに荷物を片付けると、長旅の疲れをしばし癒す。
日本の女性…サカキさん名乗る女性は、どちらかというとガッシリしたタイプ(笑)の人で、一人でスイスに留学するくらいだから、結構しっかりした人である。でも、どことなく可愛らしい面もあったりして、僕と気が合う…最低限合わない人ではないと思った。
同じ日本人と言う恩恵もあって、すぐに色んな話に花を咲かせた。
お互いの事、彼女のスイスでの生活、ここに来た経路…その他もろもろの他愛もない話。
どれくらい話したのか…時間の経過がわからなかったが、僕は街に出て散策をする事にし、まだ『用事があるから』と言う彼女を残して、ミコノスの町を歩く事にした。
日本とは色彩が全く異なる世界を一人歩く僕…眼に映るものすべてが新鮮で、歩いているだけでワクワクする、
足取りも軽く、真っ白な迷路のような街の中をしばらく歩くと、あの絵葉書で見た幻想的な風景の中に足を踏み入れている自分に気がついた…