プロローグ:隼人の頭脳
世界は不平等で理不尽で。
そして幼稚園生の幼き手ではその理不尽を覆すことも出来はしないということを隼人が知ったのは、齢わずか4つの時だった。
この世界で力を得るには努力が必要なこと。そして、その努力が実るのは一部の人間だけだということを理解したのもまた、4歳の時だった。
力
一番手っ取り早く、ある程度の物を手に入れるには、暴力が有効だった。
何よりも、鍛えれば鍛えるほど力が強くなり、努力を最も裏切らない。
逆に、手に入れるまで時間がかかるが、広範囲のものを手中に収めるには、権力が有効だった。
しかし、これはハイリスクハイリターンの賭け。
努力が確実に実を結ぶとは限らず、仮に実ったとして、どの程度までの権力が得られるのかも不透明なため、時間をかけて手に入れるには少々危険が伴いすぎる。
しかし、隼人が幸運だったのは、このどちらにも及ばないほどの広範囲、言ってしまえば全てのものを手に入れることが可能な単純明快すぎる「力」を知れたことだった。
名を、「財力」。
古今東西、老若男女問わず、全ての物は金で回ってきた。
当然、金があればすべてのものが買えるし、金が普及してから「金が全て」となるのもある種必然とすら言える。
そのことを知れたことが最も幸運な事だったのだろう。
金
最もスピーディーに入手するには、残念なことに暴力が必要だ。
上記と同じように、権力もまた、莫大に金が入手できる。
やるべきことは変わらず…、となるところで、またしても隼人は幸運な男だった。
金を最も手に入れるのに最短となるルートを、国が極秘に提出してきたのだ。
いや、最短ルートに引きずり込まれた、と言ったほうがいいだろうか?
なんにせよ、その時の記憶を隼人は今でも鮮明に覚えている。
「えっ、と…君がはやと君かな?」
コクリ。
頷く少年の前にはスーツの男女が書類を抱えて立っていた。
おそらくただ事ではないその状況を、隼人は子供ながらに察知していた。
「私は政府の、ってわかんないか、私は真澄、偉い人よ!ますみんって呼んでね☆」
これが真澄さんとの出会いだった。
後に知ることになるのだが、真澄さんは、地図に明記されていない島の管理を任されている日本の重要人物なのだ。
(言ってる意味は後にわかる)
きれいなロングの黒髪を耳に掛け、整った顔立ちで微笑むその女性は、おそらく家族と話したあとなのだろう。
もうほとんど終わって、仕上げ段階、といった雰囲気を醸し出している。
「ちょっと、真澄さん、それだとわけわかんないですよ…」
「まあまあ、早まるな童貞よ、ちゃんと私が説明するから!」
「その童貞ってのやめてくれません??」
「ん?気が立ってるのかな?それともあそこが勃っ」
「子供の前ですって…」
「話を戻していいかな?」
「俺が悪いんですか…」
そんな談笑とは一転し、幼き隼人には荷が重すぎる重大な報告が告げられた。
曰く、
「さて、はやと君。君は今からある場所に引っ越していただきます。私達はそのお話をしに来たの」
幼き隼人にはわけもわからず…。ではなかった。
実は隼人は世界が認める天才児。
その頭脳を使って何やら企んだ政府の人間に連れて行かれる事になったのだ。
ふむ。
と少年は考える素振りを見せた。
なんとこの天才児は今の一言で背景事情を読み取ろうとしてるのだ。
(なるほど。引っ越してくれない?ではなく、引っ越していただきます。ということは恐らく拒否権はない。一個人の力でそんな事はできるのか?となると、これも推測にはなるけど国の命令で僕のことを捕まえに来たということになるな。つまり、このまま実験施設に放り込まれてモルモットになるか、国の所有物として何らかの行動を強制されるはず…。引っ越ししなければならないということは、実験施設の可能性が高いが、ならばまず研究者の一人でも連れてきている。この二人にそういった僕を観察する視線も雰囲気も感じない…。幼稚園に人が出入りしてたことも無くはないが、観察されていたことは無かった。となるともう一つの方か。スパイでもやれってことか?それともお偉いさんの頭脳にでも?どうでもいいってことはないが、今重要なのはここで逃げると、抵抗の意志があるとみなされ、法外措置を取られる危険性が非常に高いことだ。ここは従っておこう)
コクリ。
不用意に喋るのはまずい。
とは、隼人の考えだが、暗に間違ったものでもない。
特に、国家の犬の前では尚更だ。
「………。驚いたわね。一体どこまで理解したのかしら?」
無闇矢鱈に喋るのは気が引けたので、簡潔に答えることにした。
「これから僕が何らかの形で行動を制限され、その拒否権がなく、抵抗も不可能なこと。そしてそれらは国の命令であることまで」
「……。凄いですね、この子」
「ええ。正直私もここまでのは初めてよ。…。まあ、そこまで理解してるなら話は早いわ。今から車に乗ってもらえるかしら?荷物は後でまとめて届けてもらうわ」
戦慄。だった。
すでに数十人の天才児に話をしている真澄達ですら、動揺を隠しえない。
政府の人間であること。引っ越してもらうこと。
これを伝えただけで自分の置かれている状況を完璧に把握するのは難しい。
頭が良ければいい程、人権を無視される可能性を度外視している場合が多い。
さらに、抵抗が不可能。と言っているということは、こちらの取ろうとしている行動をある程度理解した上で、反逆した者への処分を想定している…。
恐らく拒否権がないと理解していることから、これが世界の裏側のお話というのも理解してしまったのだろう。
今までのどの子供も、精々引っ越して国会議員の手駒になる。程度にしか考えていなかった。
末恐ろしい子供だ。
「あ、先輩」
「わかってるわ。それからね、家族は」
「付いてこない?」
「……。そうね」
当然のことだ。これから隼人は国の実験台。もしくは国の機密に関わるかもしれないのだ。ポンポン連れてこれるわけがなかった。
「もうほとんど把握してるんじゃないかしら。説明いる?」
「当たり前ですよ…。先輩ただでさえ回りくどいんだから」
「ま、それはあっちについてからでいいでしょう」
隼人はこれからどうなるのか想定して車に乗ったわけだが、いかな天才児でも想定できはしないその世界に迷い込むその一瞬まで、何も聞かされはしなかった。
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いやー、最近の世の中はやっぱりゲスくないと。
ねえ?
特に我が家では猫を飼ってるんですけど、臭いのよ。かと言って放置するわけにもいかんから、ゲスい俺は一緒に臭くなって臭いを調和してやりましたわ。(ゲスとは)
この小説を書くに当たって?
んー。そーだなぁ。ゲームやってたらなんか書きたくなった。
今食べたいもの?
えっとね、寿司かな。
最後に?
次話も見てね!