2-44 目覚め②
「え、どうして、そんな・・・?」
いきなりあのお爺さんが亡くなったと知らされても・・・。
イーデンディオスおじいさまよりよほど若く元気そうだったのに。といってもあのご老人とはそんなに長く行動を共にしてないし、大分便宜を図ってもらったのは分かってるけど、迷惑もかけられたので正直複雑だ。お世話になった人たちの恩人らしいから敬意は払うつもりだけど。
「魔術評議会からイーデンディオス老に内密に使い魔で連絡があった。死因は老衰だそうだ。既にイーデンディオス老は帝都に向かったが君にも遺言があるので私と共に受け取りにいってもらいたい」
「あの・・・もともといつかはいくつもりだったので構いませんが、遺言を聞きに行くだけでわざわざ帝都へ?」
「うむ、帝国では厳格に遺言と相続の執行を望む人間の遺言状は法の神エミスと契約の神アウラを祀る大神殿に預けられる習慣でな」
「相続も、ですか」
起き抜けだからか、いまひとつ話が呑み込めていない。
「魔術師としての遺産はイーデンディオス老が受け継ぎ、世俗のものは君に残す意向を事前に紋章院に伝えていたそうでな。私もそれ以上の事は遺言状を見てみないとわからん。それで、君に提案があるのだが、帝都に行ったらいっそそのまま帝都の学院に通ってみないか?君の友人も通っているといっていた所だ」
いろいろとわたしの為に研究してきてくれたものはイーデンディオス老が引き継いで研究してくれるらしい。
「あの・・・お父様。それはもちろん彼女に会いたいですし、行ってみたいと思いますが、いろいろと唐突でなかなか理解が追い付かなくて・・・・・・」
それに少しまた寒くなってきた・・・。それを見てお父様がマントの内側にいれて暖めてくれる。
「済まない、だがまだ人払いをして話さなければならないことがあるのだ。このまま聞いて欲しい、大切な話だ。体調は平気か?」
「ええ、こうしていてくれれば暖かいので平気です。話とはなんでしょうか」
もうこうして甘やかしてくれるのはハンネとお父様だけになっちゃったなあ・・・。
さすがにそろそろ自立しないと駄目か・・・、最近ちょっとやさぐれてたし真人間にならないとね。あの状態から立ち直ったスーリヤ様をみて考えを改めようとしてた所だったし。
「話とは母上のことでな」
おやまあ、随分なタイミングで。
「母上はもともとヴァルカの姫だったのを惚れ込んだ父が強引に貰い受けた。そして病になるや捨てて顧みず、国内の大貴族の娘カトリーナに寵愛を戻し正妃にしてしまった。その母の病が癒えまだ十分に若く美しい事が公になれば国内の政治情勢が乱れる。小国とはいえヴァルカからも抗議があるだろう。実際には母上の両親とはもう連絡は取れているが、公にしない事で一致した。そして老師の件だ。私の後ろ楯となっていた方が亡くなられては私の立場も当然危うくなる」
ええと、スーリヤ様のご両親は王座を息子に譲り渡して隠居されていて、スーリヤ様の回復だけ知らされて再会を希望していると。お父様はお爺さんの死が公になった時に備えて私を逃がしておきたいらしい。
「でもせっかくここも暮らしやすくなってきましたのに、残念です」
「すまん・・・。だが今後の政治情勢が不透明になってきた。帝都へは母も連れて行きそこで君と暮らしてもらいたい。来年にはできればエーヴェリーン達も帝都で学ばせたいのだが・・・」
つまりまた借金したいと。
「君を入学させる予定のマグナウラ院の講義期間は夏と秋だけだから、情勢が落ち着けばまた戻れる。それに帝都ならオイゲンやその妻達と会うのに何の不都合もない」
「行くっ、行きます!」
即答した。
「君は本当に彼らが好きだな、私とも大分親しくなってきてくれたかと思ったのに」
お父様は少し哀しそうだ。自分が勧めたくせに。
「こほん、わかりました。急で吃驚しましたが、そろそろ真面目に勉強したかったので構いません。最近ちょっと神々への感謝を忘れて不真面目だったと反省していた所だったのです」
ちょっと態度を改めてお父様へ配慮することにした。
「君がこれまでやってきてくれた事を思えば、神々への感謝を忘れていたり、不真面目だったとは思えないが・・・自分に厳しすぎるのではないか?」
「いえ、本当に恥ずかしく思っていたところですので環境を変えるのもいいでしょう。この森の神殿から離れなければならないのは心残りですね。せっかくこの神殿を中心に世界を樹海に沈めようと決意した所でしたのに」
「そんな物騒な決意は捨ててくれ!燃やし過ぎた森林はきっと回復させる!!」
「あ、いえ。世界を樹々で満たそうといいたかったのです」
「同じ意味ではないか!」
ちぇっ、大木を紋章としているここの公爵になったお父様ならわかってくれると思ったのに。
その後次々エーヴェリーンやスーリヤ様もやってきた為、内緒話は終了して情報交換することにした。せっかく暖まってきたのに、今日はあっさり解放されてしまった、残念無念。




