1-9 麓の村
ゆさゆさ揺られて、跳ね起き手に持った棒を構えようとするけれど、目の前にいるのは見覚えのある女の子。
あ、フィオだっけ。思い出した。
目が覚めて周囲をよく見ると焚火をしたのは自分の背丈よりもずっと太い樹やその倒木に囲まれている、少し開けた所だったみたい。
彼女に手持ちの果実を分けてあげて、食べてから山を二人で降りることにした。
わたしは降りる必要ないんだけど、フィオはまだ足が痛むみたいで引きずっているので麓の村まで送っていこう。
並んで歩くとフィオの方が少しだけ大きい。
わたしの方が痩せている気がする、まあ今までろくに食べ物無かったからね!
紆余曲折の末、どうにか村が視界に入るところまで連れてこれた。
近くで遊んでいたのか薪にする枯れ枝を拾っていたのか、目ざとい子供たちがこちらに気づく。
これ以上関わるのは不味いかなぁ・・・、フィオにさよならを伝えて帰る事にした。
家まで連れて行って何かお礼をといったけど、これから山小屋まで戻らないと行けないし、
あんまり時間が無いので断った。
さすがにこんな強行軍は初めてだ。
道なき道を通ったので小屋に戻った頃にはもう日暮れ前だった。危ない危ない。
ちょっと疲れが溜まっていたようで次の日は熱が出てしまったので、お社に行き、二の姉様に診てもらい、三の姉様にお薬を頂いて、一の姉様に抱っこされたままゆっくり休んだ。
二の姉様からはわたしは熱に弱い体質だから三の姉様からよく効く薬草について学んでおくよう指示された。久しぶりに体調崩してちょっと不安になっていたけれど、次の日にはすっかり元気に戻った。
しばらく放置してしまったので、三の姉様に教わって食べられる山菜を春のうちから集めて栽培していた自家菜園が水不足で枯れそうになっていた。
空地に密集栽培させるとこんなに枯れやすくなるのか・・・。
水をやるとびっくりするくらいの速度でしゃきん、と葉が張った。
うーん、活きがいいね?
三の姉様に少し間引いて起きなさい、と忠告された。
たくさん植えても共倒れしてしまうのだとか。
お姉様達とは比べるべくもないので、最初から自分の事は気にしてなかったんだけど、同年代の女の子に会うと自分のばっちさ加減が少し恥ずかしくなって見栄を張りたくなった。
そんなわけで家事全般が得意な四の姉様に相談すると、自分で作れる石鹸の作り方を教えてもらった。素材調達は三の姉様から、二の姉様からはちょうどいいと健康、医療、美容、食事の繋がりを講義して頂いた。
道具も腕力も無いし罠猟は無理と最初から諦めていたけど、紐やら籠やら、昔誰かが使っていたらしい兎用の罠に使えそうな道具があったので五の姉様に相談して小動物用の罠をいくつか設置してみた。
山の中の活動範囲が広がると、麓の村への近道ルートを発見し結構時間短縮できるようになったのでフィオの様子を探りに近くまで行ってみた。
山での収穫は禁止といっていたけど、焚き木用の枝拾いは子供達の仕事で許容範囲らしくうろうろしているうちにあっさり見つかった。
厳密に禁止と言い渡されているわけではないけど、巫女長が怒りそうなので、大人たちには私の事を内緒にしてもらう約束をしてからお互い自己紹介した。
「オレはエルバン!子供たちの引率役だ、フィオを助けてくれてありがとう。ノラ」
頭ひとつ抜きんでて大きく体格も立派な少年がお礼をいう。
他にはエルバンのずっと下の弟エルバス、兄に栄養取られてるんじゃないかというくらいひ弱そう。
フィオの兄のレオ、女の子達のリーダーのアイシャ、次々と子供たちが名乗り私も名乗り返して子供たちのグループに入れて貰い、枝拾いを手伝った。
山の上に住んでいて、子供にも男の子に会うのも生まれて初めて、というと吃驚していた。
その後もちょくちょく収穫ついでに麓近くまで行った時、子供たちの遊びを教えて貰った。
あーでも男の子の遊びはおっかなくて無理。
フリだけじゃなく木の棒で本気で打ち合ってるんだもの。凄く痛そう。
女の子達との会話で裁縫が出来ないっていうと年長者の女の子に凄く哀れまれてしまった。
針とか糸とか持ってないし。
女の子らしいことが分からないっていうと、村の近くの野原で秋の花々で冠を作ってお互いに贈り合い、冬はここまで降りてこられないので春になったら、今度は春の花でまた作ろうね、とフィオと約束して分かれた。
あー同年代のお友達っていいね。同じ視点で足りないところ教えてくれるなんて、感激!
お姉様達は優しくて大好きだけど、どうしても遠慮してしまうし。
この秋はお魚もお肉も獲れたし、果実や野菜も採れた。
初めてのお友達も出来たしとっても充実してる、もうマリーナなんか必要ないね!
巫女様達が収穫祭の為に慌ただしくする頃になると、わたしの冬支度も本格化して忙しくなる。
余った果実やお肉は出来るだけ干してみたけど、長い冬を乗り越えるにはまだ足りない。
巫女長の援助も今年は期待できないかもしれないので出来るだけの準備はしておかないと。
隙間だらけの板に粘土に灰を混ぜたものを押し込んで塞ぐ。
風は防げても雨が降ったらダメになりそう。まあ隙間風が減ればとりあえずいいや。
二の姉様は陶器づくりが趣味でよい土を知っているから三の姉様は肥料や良質の土を譲ってもらっているそうだ。相談してみれば何かいい案が出てくるかもしれない。
意外と大変だったのは木の実を乾燥させて磨り潰して粉状にすることだった。
石で磨り潰して袋に貯めるのは時間がかかる。
お社の向こうの道具持ち帰れたらなあ・・・・・・。
手ごろな道具が欲しい。
仕方ない二の姉様の所に行こう。頼りになるけど課題も出されて大変なので敬遠していたけれど背に腹は代えられない。
「姉様姉様、エイファーナお姉様、相談したい事があります」
「何ですかイルンスール、藪から棒に」
家に隙間風が入って寒くて去年は凍えていたので、家をなんとかしたいけれど、わたしに大規模改修は無理だし雨や雪が降っても大丈夫なように補強をしたいと伝えた。
ついでにお皿や磨り潰す道具も欲しい。
「なるほど、確かにあなたでは木を切り倒して木材を得るのは難しいでしょう。石灰や近い物質、樹脂が入手できれば貴方でも何とかなるかもしれません」
それから材料を提供してもらって一緒に作って指南して頂いた。
ひらひらした服を好む二の姉様もこの時ばかりは作業着になった。
でも全然似合ってないので吹き出してしまう。
でも、意外に陶器づくりが趣味なのだそうな。
お勉強の方は十分よく進んでいるので、課題の代わりに自分の為に舞を披露して欲しいとお願いされた。随分気に入って頂けたみたい。
ちょっと照れながら喜んで舞った。
二の姉様は姉馬鹿、教育ママ