2-36 辺境領主の娘の侍女Ⅱ
皆様お久し振りでございます。ハンネです。
お嬢様に貸して頂いた日記文学というものが大変面白うございまして、私も日記をつけるようになりました。
歴史上の偉人、聖人と言われた方々が日記上では些細な事で愚痴を書いていたり意外と小心者であったりこっそり愛人に捧げる詩を書いていたりと実に趣き深いものがありました。まさか後世の人間に読まれた挙句、史料価値があるからと出版までされるとは思わなかったのでしょう。大昔には今みたいな印刷技術なんてありませんでしたからね。
私も念のためいつ読まれてもいいように書いておきましょう。
どこから読まれてもいいように冒頭には必ず挨拶でも書いておいてみましょうか。
まあただの侍女の日記など史料価値もないでしょうけどね。
と思っていたのですが、1,000年以上前の名もない商人の日記から当時の物価や銀行業務について、はたまた病の癒し方など貴重な資料が得られたりもするので1,000年後の人間がどう受け取るかわかりませんね。
しかしまあ恐怖公などと恐れられた方が、部下の夫婦喧嘩に気配りして浮気者の夫に憤慨する奥様をおだてて宥めたり、それを日記で愚痴っていたりなかなか衝撃的です。
お嬢様は本好きですが、特にこういうものを好むようですね。神話でも民間伝承よりの逸話を楽しんでいるようです。
さて、では私もひとつ愚痴など書いてみましょうか。
まずはあの男のことです。
お嬢様を置いて私などを助けに来た愚か者の事です。
あの欲深いご領主様が自領で最大の農園を構えて他領の貴族や大商会からも買い付けが来て納税額最上位の私の実家を敵に回すような事をするとは思えません。私は見張りがいて降りる機会が無かったのでまだ馬車に乗っていただけだというのに。
助けに来たとか寝言をいうので、放って置いていいからお嬢様の所に戻って下さいといったのに今度はご領主様を追いかけようとするので、一人で走ってお嬢様の元へ急ごうとしたら戻ってきて天馬に乗せました。
まったく優柔不断で鈍間な男です。
その後もお嬢様を守ると誓った筈なのに、お嬢様の側を離れて危険に晒しました。あのついてきた騎士もお嬢様の言葉を信じず余計な危険を招きました。この連中は頼りになりません、旦那様にお手紙で助言を求めました。
現地の貴族に正面から対抗するのは益がなく、情報収集を行った上で味方を増やし敵の切り崩しを図るべきとの指示でした。
父親代わりの男が頼りにならないので、ここでもっとも頼りになるのはいったい誰か・・・・・・。お嬢様の侍女になった貴族の女達は年齢ではなく家格で順位が決まっていてお嬢様のお世話をする内容や順番が決まりました。私にはもちろん口出しできません。侍女を続けさせて頂いているだけでも特別扱いです。しばらく観察していて確信しました。お嬢様の為にはこの侍女達は全員追い出す必要があります。お嬢様の事をあの男に覚えめでたくされるための道具くらいにしかこの娘達は考えていません。
あの男ならばこの娘達を追い出すのは容易に可能でしょうが、貴族間で問題になってお嬢様の身に危険が及んでは元も子もありません。自主的に角が立たないよう辞めさせる必要があります。
「ハンネ、ハンネ。ほんとにそんな風にあのひと達を扱ってもいいの?」
「勿論ですよ、お嬢様。彼女達も言っていたでしょう、家格こそが優先されるって。お嬢様は今やお姫様なのですから彼女達はお嬢様に奉仕することがお仕事で全てにおいてお嬢様の命令が優先されるのです」
「でもわたし平民だよ?お作法なんて知らないし」
「エドヴァルド様やその上位の方々が、お城のお姫様にするって決められたのですよね。お嬢様はその方を尊敬していらっしゃるのでしょう?」
「うん、すごく立派な方だったよ。優しくて面白くて、包容力があって、それに凄く強いんだって!」
お嬢様はその方が大変お気に入りのようでした。
「その方々がお嬢様の礼儀作法は完璧だって褒めて下さっていたのでしょう?なら大丈夫ですよ。お嬢様が思うお姫様の振る舞いをして頂ければ問題ありません」
「うん、でもきっと大変だと思うの。みんな今まで貴族のお嬢様だったんだし」
「彼女達は皆姫様に奉仕させて欲しいと、お仕事をさせて頂くのが喜びですとおっしゃっておられたじゃありませんか。彼女達が怠け者でなければすぐに仕事を覚えますよ。レベッカ先生なんて今なお、お仕事に、お勉強に励んでいるじゃありませんか」
「そうだね、わたしも頑張ってお姫様やるよ!」
短編なのでまとめてアップロードします




