2-28 辺境領主の地方統一
農奴達は先行して百人程度は引き渡されたが、それも何度も適当な言い訳で引き伸ばされ続けてようやくの結果だ。
エールエイデ伯が東方行政区長官に提出した契約書に不備があり再提出を求められ未だ手続きは完了していない。
そんな中、メッセールが過去にアルミニウスに馬上槍試合で負けた事を侮辱された為にエールエイデ伯の騎士と決闘になり、やはり槍試合を行って一人で三人抜きをした。うち一人は落馬の怪我で亡くなったらしい。
領主会議での決定が反故にされている事についてエールエイデ伯を非難すると、あちらも馬上槍試合で相手を殺したことを非難してきた。
ここに至りお互い戦力を集め始め、不穏な気配が広がってきている。
あの夜、娘にはこれから君に軽蔑されるような事をするかもしれない、と断ったが気にせずやるべきと信じた事をやって欲しいと、それで軽蔑するようなことはしないと保証してくれた。
子供達を見捨てた事がある、と悔いて泣いていたがいつの話だろうか。
本当に秘密の多い娘だ。傷を舐めあう様で、何も言わなかったが、私のしでかした事に比べれば幼い娘が他の子供達を助けられなかった事が何ほどのことだろうか。彼女こそ救われるべき対象なのに。
私は最初の成人の儀を迎えようかという時に母を見捨て、狂気に突き落とし、その結果あの呪われた病は進行しあのありさまとなった。母が正気の間はあそこまで酷くなかった、だがある日会ってはいけないといわれていたにも関わらず、無理を通して会いに行き・・・私は実の母を『化け物』と呼んで忌み嫌い、逃げ出した。
気丈にもあの病と戦っていた母は、夫からもただ一人の息子からも見捨てられ、ついに正気を失った・・・。
帝都で優秀な成績を収め、東方の誉れだのなどと呼ばれて帝国騎士に任じられても心が晴れる事は無かった。私を慰めてくれた妻を失い、より深い絶望に囚われ、忘れ形見の事をまるで考えもせず、むしろ戦いのさなかに死んでしまいたかった。
そんな恥多き騎士にもようやく居場所が出来た。再び正道に戻る機会を得た。
どんな手段を使ってでもラリサと子供達を守る。エールエイデ伯も親族も全て叩き潰す。
と、決意した所で、王国直轄で敵対するものがいなかったラリサにはほとんど兵力が無い。
着任してから城下町や城の兵士も増やし200ほどは集めたが、エールエイデ伯は縁戚関係にある貴族も含めれば数千は集められる。
まずはその切り崩しをしなければ勝ち目は薄い。
私の味方をするものもいるだろうが、本当に戦場に出てくるものがいるかどうか。
戦場で信頼できる味方になるかどうか。
エールエイデ伯の味方になりそうな貴族の牽制に使った方がよいだろう。
「で、あたしは殿下が兵を上げたら、奴の親族の領地とその隣接領に手当たり次第火をつけて回ればいいのかい?」
「ええ、その通りです。でも本当によろしいのですか?ミリアム殿達は政治的中立を保つのではなかったのですか?」
「ふん、そんなことを宣言した覚えはないよ」
「そうありたかったのですが、ラリサが落とされてはイルンスール様をお守りできませんからな」
イーデンディオス老とミリアム殿が私に協力を申し出てきた。オルプタ殿はイルンスール様の守りにつきますといって城に残る事にしたらしい。
「ミリアム殿にはできれば母上の側にいて欲しかったのですがな」
「あたしが居てもできることはないよ」
「呪術に一番詳しいのは貴方でしょう?」
「あれは姫さんが祓ってる、あたしゃ何もわからんかった」
「いったい誰があんなおぞましいものを・・・・・・」
「ひっひっひ、迷信に少しでも真実があるのなら、今頃呪った本人に返ってるかもしれないねえ、姫さんにはいわないほうがいいよ。下手したら呪った本人まで助けかねない」
「さすがにそこまではしないでしょう。あれは優しい娘ですが、博愛主義者とは違います。さて、参戦して頂くからには指揮下に入り、命令は聞いて頂きますよ」
「あいよ」「承知しております」
武官たちを集め、行動計画を固めていく。
ある武官が質問を放ってきた。
「閣下、もう少し強気で命令すれば近隣領主達は兵力を提供するのではありませんか?」
「かもしれん、だが私はエールエイデ伯が確実に挑んでくるようにしたい、あの一族を始末しない限りこの地方を確保したとはいえんからだ」
そして参戦しなかった者どもからも領地を取り上げる。歴史が長いだけあって、必要以上に貴族が多すぎると思っていたのだ。
「そして開戦したら二週間以内に奴の首級を上げる、皆もそのつもりでいるように」
どよめきが走るが、私とアルヴェラグス達なら十分に可能だ。できれば奴が野戦に出てくればいいのだが。
「何故そこまで急ぐのですか?」
「王都から制止命令が出て来る前に始末をつける必要がある、そうでなければうやむやにされて禍根を残す」
戦の準備を進めていく中、エールエイデ伯の娘達が夜陰に紛れ密告にやってきた。
夜の雨に紛れて奴の城を抜け出してきたらしい。
「では、奴は開戦次第農奴に紛れ込ませていた密偵に命じて城下町だけでなく、エルセイデ大森林に火を放つ、と?」
「はい、火に対する備えは十分しているでしょうし、魔術師達を多く抱えるエドヴァルド様には町への放火だけでは効果が薄いだろうと」
ふむ、聖なる森まで焼かれては兵たちも心が乱れ士気を保てなくなるか。
「何故、そんなことを私に話に来た?君たちになんの利益がある」
「利益など・・・エドヴァルド様に逆らうなどとんでもないと思っただけに御座います」
「私を欺こうなど思うなよ、本当の事を言え」
「い・・・いえ、本当の事です。騎士達はエドヴァルド様と一戦交えてみたいと盛り上がっておりますが、私ども女達は武勲狂いの騎士達に巻き込まれるなど御免蒙りたいのです。それに雷を自在に操るイルンスール様がそちらにお味方なのでしょう?とても勝ち目があるとは思えません」
確かにこの国の騎士達は武勲や名声を追い求める名誉欲に狂い頻繁に決闘を繰り返すのが悪い癖だ。それにしてもこの娘達は前に城にいた侍女か・・・あれはただの自然現象でイルンスールは関係ないと僅かな目撃者にも言い含めおいたはずだが、やはり人の口に戸は立てられぬか。
「そうか・・・まぁよい。君らの言うことが事実かどうか密偵を捜させてみよう。事実であれば君らはエールエイデ伯の親類の家にでも養女として預ける事を約束しよう」
奴の親類にも目端の利くものがいるらしく、与力を約束してきた。
嘘でも事実でも構わんがな。
「閣下、もし情報が事実であればどう致しましょうか?」
「どう、とは?」
武官達に調査を指示するとそんなことをいってきた。逮捕するに決まっているではないか。
「予めわかっているならば火を消す事は難しくありませんし動揺も少なくすみます。あえて大森林に火をつけさせてから逮捕すれば貴族達はこちらに寝返り勝利は確実となるでしょう。そして一度敵に回れば閣下の望み通り後で処分することも可能では?」
むう・・・それはそうだが。
「いや・・・、止めておこう。逮捕したら即座に領主達に触れを出すだけでよい」
狩りにも森の守護者呼ばれたエッセネ公の名を受け継いだわけだしな、公爵がかつて神殿に残したと思われるものにも世話になっているし。
ここで森をわざと燃やすとイルンスールのお天気ポイントが下がります




