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森の娘と獣たち  作者: OWL
森の娘
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2-8 貧乏貴族の侍女② ~姫様は傍若無人です~

姫様は侍女が減り、遠回しに行動を制限する人間が少なくなったのをいいことに段々好き勝手出歩くようになってきました。妹や弟には近づきたがらないようで王族の塔へは行きませんが、自分に割り当てられた東の塔に最初のうちは引き籠ってました。


ある日、塔の連結廊下で急に立ち止まって外を向いて何やら祈り始めた所、アルべルド様に「そんな所で立ち止まるな、邪魔だ。祈りたければ礼拝堂にでも行け」といわれ「まあご親切に有難う」と返し道を聞いてそそくさと礼拝堂に行ってしまいました。

城内には神官もおらず、誰も訪れるものもいないので埃を被っていましたが、掃除して毎朝そこで祈るのが日課になりました。

掃除したのは私達ですが。


引き籠っているよりあちこち出歩くようになったのはいいのですが、驚くほど体力が無く、しょっちゅう突然魔力の切れた魔術装具のようにぷちんと倒れて眠ってしまいます。

何かの病気なんですかね?残った侍女達も気味悪がってさらに辞めていきました。

まぁまだまだ侍女のなりてはたくさんいるので、新しく次の犠牲者が連れてこられるのですけど。


礼拝堂を占領した後は、自分の部屋から近い物置部屋のものを他所へ運ばせ機織り機などを御用商人に持ち込ませ専属の職人達の職場にしました。

これで誰かしら使用人が涙を呑んで地下住みか城外からの通いに移った事でしょう。見張りをしている兵士の邪魔になっても構わず屋上に祭壇を設置したりやりたい放題です。

次から次へと私物が増えて場所がいくらあっても足りません。


エドヴァルド様やアルヴェラグス様の天馬がいる御殿場から羽毛を集めさせてご自分のマントや枕にお布団まで作らせました。

エドヴァルド様の実子達でさえ、ここまで贅沢な暮らしはしていませんよ・・・・・・。

いったい何がどうなっているんですかね。

どうやらかなり訳アリのようですが、私の様な下級貴族にはこうも我儘なお嬢さんをエドヴァルド様の養女として受け入れて好きにさせている事情を教えて頂けません。


城内を次々と占拠した後は、研究棟に併設された浴場を自分用に改造させ、菜園を拡大し購入した苗をあれこれ植えて魔術師に循環水路をひかせたり、なんで魔術師達も大人しくいうことを聞くんですかね?

研究棟の扉まで重い!と文句をつけて改造させてしまいました。


「そういえば、グリセルダは魔術を使えないのかしら?」

「小さい時に判定したらしいですが、実用的な水準には達しないだろうということでした」


物心つくか、つかないかの頃なのであまり覚えてません。

判別依頼にもお金がかかるうえ父も母もせいぜい薪に火をつけるか、洗濯物を回転させて汚れを落とすくらいしかできません。。私も父母にちょっと習ってすぐ辞めました。

魔術で掃除しようとしても小物は壊れる、丁寧には拭けない、料理しようにも野菜も斬れない。細かい制御ができないし、無から何かを作る事もできない、平民の職人を雇うなり道具を買った方がマシなのです。小さな火を起こすくらいなら出来ますが相当集中して長い時間がかかるのではっきりいって適当なおかくず集めて火打石使った方が早いです。


「姫様はお得意なのですか?」

「いえ、わたしも才能は無かったらしく使うのは止めた方がよいと言われました。自分で扱えれば腕力不要で畑を耕したり、水を集められるのでしょうけど残念ですね。あ、でも他人の魔術を邪魔するのは得意ですよ」


奇抜な特技をお持ちのようですが、平民の生まれではまあそんなものでしょうね。

古代なら貴族の特権みたいな力でしたが大陸中で混血や没落貴族が出たり貴族制度が崩壊した国もあるので、古代から数百年だか数千年を経た現代では平民にもそれなりに魔術が使えるものがいます。とはいえ血統を守り続ける一部の貴族の家系はやはり大魔術師が多く誕生していますので差はありますが。

魔術師にしか出来ない事など現代ではわずかしかありませんし、平民たちが財力も武力も得た現代ではそこらの貴族などただの大地主です。ごく一部の大魔術師ではもはや世の中の流れを変える事はできないのです。


「ハンネさんは使えますか?」

「私は習ったこともありませんよ、そんな不可思議な力感じた事もありません」


まあ、そんなものでしょうね。

私達は森を散策中です。

この城の裏手は聖なる森で立ち入り禁止ではありませんでしたか、と聞いてみましたが研究者達も多少は採集で入ると聞いてついていく事にしています。

私も城の中でお仕事をしているより、外を散歩する方が気分が良いですし。


ここに来るときはレベッカ医師か騎士アルミニウスが同行します。

さすがに城から離れますのでね。

アルミニウス様はともかく、このレベッカ医師という方に初めてお会いした時は随分と驚いたものです。

姫様が体があまり大きくならない事にお悩みだったので、呆れて私がそんなに好き嫌いばかりするし、たくさん食べないから大きくなれないんですよ、とお小言めいた事をいってしまった所、随分とショックを受けたようで


「美味しい空気とお水にお日さまを適度に浴びれば大きくなれるのではなかったのですか」


と、のたまわったのです。


「健康的な生活には必要不可欠ですが、体を大きくするにはまずお肉です」


食事は体を動かす最低限の栄養が取れればいいと思っていたらしいです、

それじゃほとんどただの植物じゃないですか、いや植物にだって中には自走する危険な捕食植物がいるくらいですよ、まったくもう。

試しにちょっと用意して下さる?というので厨房頭に食材が余ってないか確認して料理長に適当なものを作って頂きました。

それなら、ジュディッタ様が用意してくださった猪肉を食べれば良かったのに。

厨房は戦場なのですよ。

彼らにも予定、段取りというものがあるのです。


料理長に作って頂いたものを、無理して食べたせいか夜遅くにゲレゲレと吐いてしまいレベッカ医師が呼ばれたのでした。


「何だってそんなに食べたんだい?」

「早く大きくなりたくて・・・」

「急に食生活変えたら内臓がびっくりする、少しずつ食べられるものを増やせばいい。それにしてもどんな食べ物を用意すればいいかはオイゲンが手紙を書いて整理していた筈なんだがなあ」


随分と親し気です。

私が毒を盛ったと疑われるんじゃないかとびくびくしてたのが馬鹿みたいです。


「心配ない。昔からよくあるんだ、だが初めて食べるものは少量にして試した方がいい。ここ2年くらいあまり成長してなかったから食生活も改めるべきかもな」


随分前からのつきあいみたいですね。


そんなわけで拳士のような大柄の主治医の勧めで食生活を改善し、運動量も増やそうとされている姫様なのでした。運動場を確保する為にまた人をどかせようとしてましたが。


森を散歩する方がいいですね。

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