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森の娘と獣たち  作者: OWL
森の娘
54/212

2-5 辺境領主の息子の転機と馬上槍試合

ああ、むかつく、むかつく、むかっ腹が立つ。


「あのちびの小娘が!平民の分際で何が姉だ!」

「アルべルド様、そのような事をおっしゃるものではありません」


メッセール!こいつもこいつだ。あいつの肩を持ちおって、勝つ気があるのか。


「経緯はどうあれ誇りにかけて他国の騎士に負けはしません。心配はいりませんよ。が、騎士のように生きたいのでしたら御父上の勧めに従うことですな」


余計な事を!経緯などあの醜い顔の平民の小娘が大袈裟に騒いだだけではないか。

双子の妹と食事に向かう途中、ちょうど父上の騎士や従士達と連れられた娘と鉢合わせになり少し立ち話をし軽く自己紹介をした。騎士達は階下で見張りして待機し、上階には家族と給仕たちのみとなる。

ラリサの城は複数の塔から構成されており、この塔では連結部分より上階は王族専用なのだ。


立ち話のさなかエーヴェリーンに「仲良くしてくださいね、お姉様」と呼ばれた途端、天にも昇りそうな浮き浮きした顔をして身の程知らずにも王族の晩餐に加わろうと階段をついて来たから「お前はこっちではない」といってちょっと肩をついてやったのだ。

そしたらあの娘は大袈裟にのけぞって階段を転げ落ちて行った。

あれは、絶対にわざとだ。私はそんなに強く押していない!!


階段の折り返し地点で振り返って事故が起き、ちょうど警備についたもの達がこちらに背を向け階下の見張りに立ち、他の者は解散した所だった。

そのせいで誰も受け止める者がいなかったという、まあ不幸な事故という奴だ。


無様に目を回している様子に思わず吹き出してしまった。

人間ほんとに泡を吹くものだな。

アルミニウスという父上が旅の間に拾ってきた騎士が私に対し「貴様!」と叫び剣に手をかけた事で辺りは騒然となった。

何を怒るか、身分の違うものとは同じ食卓にはつけん、当たり前ではないか。

父は私にあいつが起き上がれるようになったら詫びて、今後は食卓を共にするようにといったが、そんなことはできませんと断ったら手の甲でぶん殴られた。

尊敬する父上に怒られたからといって、一度口から出た言葉を曲げるわけにはいかん!

大体あんな平民でしかも素性の知れぬ孤児だったというではないか、あんなものを養女とするなど、何を考えていらっしゃるのか。国王陛下の命というなら仕方ないが、それでも遠ざけておくべきだ。父上の為にも私は考えを曲げたりはしない!


私もアルミニウスも譲らなかった為、父が裁決を下した。


「どうしても考えを改めないのであれば仕方ない、皆の要望通り決闘で決めよう。ユリウス、貴様はアルミニウスの槍持ちをやってやれ」

「はっ」


我がバルアレス王国では決闘で決まったことは法に優先される神聖な掟となる。まだ8歳の私には代理人として父上の騎士メッセールが立つことになった。父上の軍務についていかずに留守と私の警護を長年託されていた信頼できる騎士だ。


最近上空の大気の状態が不安定で雲の間を雷が走っているのが見かけられたが、幸い今日は嵐が来ずに済み、屋外で武芸大会を開くのにいい天気だ。


城外にある野外劇場に観衆が集う。

近隣の町や村々にまで大々的に触れ回ったせいだ。

神聖な決闘だが、騎士や庶民達の娯楽でもある。決闘の前に関係ない騎士や従卒達、遍歴の騎士や、腕自慢の戦士や狩人が身分に関わらず剣や弓、乗馬の腕を競い合う。

もともと父上の帰還を祝う予定もあり、この時期は他の地方に比べると遅めの収穫祭もあった為かつて見た事のない規模に膨れ上がり商人たちも多数訪れている。

このエッセネ地方についに正式な太守が帰還したのだ。


戦士達と魔獣の命がけの勝負、神々に捧げる犠牲式が終わった後に劇場の中心に綱が張られ祝祭演出家が劇場で最も高い貴賓席の真下に用意された司会席に立つ。


「さあ、紳士淑女の皆さまお待たせしました!改めて我らが主君をご紹介致しましょう!!」


一度間を置いて大袈裟な手ぶりと共に観客に歓声を煽る。


「我らが主君は齢十八にして帝国騎士に任じられ、白の街道を巡回に旅立ち北方では、蛮族との紛争に助力を申し出られて参戦し、オスニングの森で蛮族の騙し討ちに会い潰走する帝国軍の殿を務め、一騎打ちで次々と蛮族の族長を打ち破りついに蛮族の連合軍に撤収を認めさせました。大人になったばかりのたった十八歳の騎士が帝国三個軍団を全滅の危機から救ったのです!!」


何度も聞いた話だが、観衆はおおおお!と大歓声を上げている。

私も何度聞いても誇らしい気分になる。父は本当に優れた騎士なのだ。


「この大殊勲に北方方面軍の視察に訪れていた皇帝陛下は重傷を負った騎士を見舞われ直々にエランド・ノリッティン勲章を授けられました。これは東方選帝侯が受勲されて以来25年振りという非常に稀なる大陸最高の栄誉ですぞ!!」


演出家が煽るまでも無く、また観衆が地面を踏み鳴らし激しい地響きを起こす。

観客席が崩れたりしないだろうな・・・と心配になるぞ、これは。

ちなみにその東方選帝侯が十五で同じ勲章を受勲した史上最年少の騎士である。婚約者の父が野戦に倒れ、敵兵がその国に充満し危機に陥ると家臣の反対を押し切って単身敵中を突破し、姫を自国に連れ帰り次は軍を率いて敵を駆逐し国を取り戻した上で改めて婚儀を上げ同君連合下に置いて二つの国の王座に就いた。

帝国は勲章を与えて称賛しその戦いに終止符を打った。


その後、帝国からも二重王国の即位を認められ統治者、政治家、戦士としても稀な才能を示し、その名声により東方諸侯会議で満場一致により大君主として認められた。これは次期皇帝の選抜にさえ口出しを出来る特権だ。

東方の騎士と乙女達の憧れの的である。

そんな方に我が父は匹敵するのだ。

いずれ間違いなく。


その後も西や南での活躍を語ろうとする演出家に、控えていたパラムンが咳ばらいをして話が長すぎる事を牽制した。


「これは失礼。あまりにも我らの主君の業績が多大過ぎるのであります。では最後にもう一つだけこの東方で上げた業績をご紹介いたしましょう。旅の終わりに悪辣な貴族と強欲な商人につけ狙われたか弱い乙女を激しい戦いの末救い出したのであります。かの乙女を守る為東方選帝侯よりご承認を頂き、慈悲深くもご自分の娘とされました」


王のご命令と聞いたが、私の聞いた話とは少し違うな。

観衆も初めて聞く話に黙って聞いている。


「殿下はその強さ、勇敢さだけでなく、優れた騎士として必要な徳である誠実さ、慈悲深さ、乙女への優しさも示されました。さあ、ご紹介申し上げましょう。神々に祝福された栄えある騎士と幸運な娘。バルアレス王国の第四王子、約束された神々の栄誉、森羅万象を統べるものと呼ばれたエッセネ公を再興せしもの、長年閉ざされていた時と道を紡ぎ、古代の栄耀栄華を今ここに!!当代随一の騎士エドヴァルド様とその娘イルンスール姫に皆様の祝福を!!」


祝祭演出家が再び大仰な手振りで両手で天の神々を迎えるかのように上段の父達を指し示し、派手な花火を魔術で魅せ、貴賓席を彩る。

また、大歓声だ、もはや絶叫となっている。

貧しいこの土地が再び伝説のような脚光を浴び栄える事を民たちは望んでいる。

父も観衆に応え、娘も帽子を被ったまま小さく手を振る。


ふん、屋根が付いた貴賓席で帽子など不要だろうに。

お淑やかぶっても私は騙されぬ!!

もう頭の怪我は治っているのは知っているのだ、昨日までは仰々しく包帯など巻いていたが。斜めに曲がった帽子を目深にかぶりおって。

そんなに醜い顔を隠したいか!

偏見だけど鋭いアルベルドくんでした

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