1-5 家出娘
ひょっとしたら、と期待しながら目を開けると案の定エーゲリーエお姉様がいらっしゃった。
心配そうな顔をしているのが申し訳ない。
「た、・・・ただいま」
「もう、何処に行ってたの、皆心配してたんだから」
怒りつつも嬉しそうにわたしを抱き上げて、また大樹のあるところへ連れて行く。
一の姉エイメナース様が、以前と変わらぬ様子で佇んでいる。今日は前に携えていた小枝ではなく優雅な扇で口もとを隠している。その周囲では相変わらずひと際清浄な気配がする。
「戻れたようですね、では前に話した通りエーゲリーエに任せます」
一の姉様に挨拶だけ済ませると、次は二の姉様と順々に挨拶して回る。
皆いろいろ聞きたそうだったけれども、一番懐いているエーゲリーエ姉様に任せることになったそうだ。姉妹たちは普段は別々の場所を住居にしているらしい。
最後にエーゲリーエ姉様の家に着いて、二人で話すことになった、意外と質素な家かな?
「ね、最初に教えて欲しいんだけど、キミは外の世界で生まれたの?」
うーん、自分が厳密にいつ何処で生まれたのかなんて教えてくれなきゃわからないんじゃない?うまく言葉に出来ないけれども、なんとかよくわからないこと伝えてみる。
わたしのつたない表現でも、辛抱強くエーゲリーエ姉様は聞いてくれて、話しやすい砕けた表現を使ってくれる。
わたしにあわせて話し方を変えているのかと思ったけれども、こちらが素でお姉様方と話すときだけとりつくろってるみたい。
「それもそっかー、ま、わからないんじゃ考えても仕方ない。じゃあ次の質問、この森の外の世界に誰か教えてくれるひとはいる?ここにいない時はどんな事してた?」
外の世界?も森だけれども自分の表現力で伝えられる事を精一杯伝えてみた。
「なるほどねー、キミがいなくなってからいろいろ話あってみたんだけど、一の姉様がおっしゃるにはあなたは長時間ここに留まれないみたい。でも、もしまた来れるような事があれば今後はもっと来やすくなるだろうって」
来る方法は自分で色々試してみなさいってさ、と言われてしまった。
奥宮の方々は俗世と関わっちゃいけないらしいから、仕方ないか。
でも思ったより冷たい感じがして悲しくなってしまった。
「ほら、そんな泣きそうな顔しないで、皆心配してるっていったでしょ。でも探しに行けなくて辛かったんだよ?皆もしまた会えたら自分が面倒見るっていってたけど、私に任せる約束だったからね!」
そっか、良かった。
捨てられたみたいな気分になってしまったけれど、また会いたいと思われてたんだ。
「さて、じゃまずはご飯にしようか、お腹減ってたんだよね?」
ご飯にしようといっても、エーゲリーエ姉が作るわけでもなく、四の姉様の所にたかりにいこうというのだ。なんでも最初に出会った時にエーゲリーエ姉の次に力を貸してくれたそうで随分心配していたらしい。姉妹の中でも特に料理が得意で火の扱いに長けているそうだ。
四の姉様はエーゲリーエ姉の言う通り大層料理好きだったらしく、突然の訪問でも嫌な顔ひとつせずご馳走してくれた。そして、わたしは食事の後眠くなってそのままうとうと眠ってしまった。
目が覚めると柔らかい草の上に肌触りの良い布を掛けられて寝かされていた。凄く暖かくて寝心地が良かったけれど、今寒い季節じゃなかったっけ。そういえばここに来てから一度も寒さを感じた事はなかったような。うーん、不思議、キゾクがいる世界は凄い!
四の姉様の所から森の泉の側にあるエーゲリーエ姉の家まで戻った所で、さ、何して遊ぼうか、今までどんな遊びしてた?と聞かれる。あれ、わたしのこと教育するんじゃなかったっけ。
「そんなの大きくなってからでいいからさ、キミにはもっと会話したり遊んだりすることの方が大切なのだよ」
隠そうとしたのだけれど、今まで話している内にエーゲリーエ姉には巫女達の会話を盗み聞きしている内に言葉を覚えたのがばれてしまった。まともに言葉を教えて貰ったこともないし、読み書きも出来ないし、みんなに比べてわたしがものを知らなくて馬鹿にされてしまうのも仕方ない。
巫女長様のいいつけも破ってばかりの悪い子なので、居心地しそうにしてるわたしに、エーゲリーエ姉はそんなの気にしないでいいよ、とにっこり明るい笑みで安心させ外に連れ出してくれた。
結局その日は抱きかかえられて木の板に乗って斜面を下ったり、花かんむりの作り方を教えてもらったりした。
エーゲリーエ姉は結構面倒見いいよね?
ところで今の時期は山小屋の近所には花なんて咲いてないのにね。またまた不思議!
遊び疲れてきた頃、また石壇まで連れていってもらって家に戻った。
末妹だったエーゲリーエが出合い頭に自分の妹認定したのでいろいろややこしいことに・・・