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森の娘と獣たち  作者: OWL
森の獣
42/212

1-42 ある魔術師の願い②

むう、エドヴァルドの部下か驚かせおって。

こやつらも天馬と幻獣に乗っている。幻獣の方は狐の類のようじゃが。

イルン嬢の奇跡に気を取られて注意散漫になっておった。

後ろでは今も大神達への祈りが続く。


「これはいったい・・・」


むうエドヴァルドの部下にまで見られたとなると口封じは難しいか?

どうにか人を生かそうとする聖女と、どうにか皆殺しを企む邪悪な魔術師か。

くく、何の因果か。


「先生?いつまで寝てるの?もう起きる時間だよ、いつまでも寝てるとエイメナースお姉様にうんと叱られちゃうんだから、優しいけど、おっかないんだよ。でもいつもわたしが弱ってる時はこうして元気にしてくれるの・・・・・・」


ぬっ。

慌ててイルン嬢に振り替える。急速に彼女のマナが吸い出されていくのが見える。


「ばっ馬鹿者、そんな力の使い方は止せ、といったじゃろう!」

「もうすぐ目覚めるの、邪魔しないで。邪魔するなら今度は容赦しない」


まさか、あの時魔術を止めたのは力尽きたからではなかったのか?

イルン嬢から生気が抜けていくのと同時に、レベッカの頬に赤みが差していく。


嘘じゃろう?


しかし、このままではイルン嬢までもが死んでしまう。

もう邪魔をする気はなかったが、皆殺しにする為に集めていたマナを彼女らの周りに集束させた。


「ぐっ、何という勢いか」


集めたマナは一瞬で消費された、そのまま儂のマナまで吸い出される。

老体にはこの消耗はきついものがある。生命力が消え失せていくかのようじゃ。

じゃが、儂以上に力を吸い出されておるじゃろうに、イルン嬢は平然としておる。

どういうことじゃ。


「有難う、お爺さん、あともう少しだよ。・・・・・・ほら!」


ごほっとレベッカがむせ返り始めた。


嘘じゃろう!


奇跡どころではない。

歴史上知る限り復活の奇跡など成し遂げた者はいない。

癒せぬ病は無く、あらゆる傷を塞ぐといわれたかつての聖女アリシア・アンドールでさえ成功したことはなかった。


「まさか、生き返ったのか?私は確実に致命傷を与えた筈・・・」


エドヴァルドに最初に槍で腕を吹き飛ばされた後、衝撃で倒れていた騎士が視界に入ってくる。

そういえば騎士もまだ一人生き残っていたか。

こやつと従士共だけは確実に殺す。

限界以上に魔力を消耗してしまったが、改めてマナを集めねばならぬ!


「イルン・・・もういい。あたしは平気だ、もう十分回復した」


驚いた事にレベッカは喋れるほどに回復している。起き上がれはしないようだが。


そう?と首を傾げ安定状態らしいことを確認してからイルン嬢はこちらを振り向いて、取り囲まれているのを見て目をしばたたかせた。


「まあ、酷い傷。貴方もほら、その腕?拾わないと」


よいしょ、と右手でどうにか千切れ飛んだ腕の残骸、手首程度しか残っておらんそれを拾い、騎士の腕の切り口に近づける。


「水の大神ドゥローレメ、慈愛の女神ウェルスティアよ。戦いを収めて下さった事に感謝します。どうか遍く大地に恵みの雨を降り注ぐように慈悲を与え給え。傷を癒し、清め給え、祓い給え」


彼女の祈りに応え、辺りに白と黒の不思議な光が広がる。

広がりと共に、儂の集めたマナも殺意まで浄化されるように霧散していってしまう。

生き残りの従士達の傷がすべからく癒えていき、騎士の腕も元の腕の形をかたどる様に光が覆っている。


「父なる神、太陽神モレス。軍神にして火の大神オーティウムよ。忠実なる戦士に再び力を与えたまえ。どうかその手から御身の祝福が零れる事のないように加護を与え給え」


まさか、な。

驚き疲れてこのままぽっくり逝きそうじゃ。


光が収まると騎士の腕は再生されていた。


騎士は確かめるように、自分の手を何度も握り開く事を繰り返し茫然と自分の指が思い通りに動くのを確認している。

咎めるわけでなく、ただ驚きでイルン嬢に呟いたつもりじゃった。


「何をしておる、こやつらはお主の敵じゃぞ。いったい何をしておるんじゃ!」

「敵って・・・もう戦わないでしょ?騎士様言ったもの。これ以上戦わないって降参したでしょう?騎士様は嘘ついたりしないでしょう?」


それなら、もういいじゃないと不安げにイルン嬢は答えた。

騎士も跪いて誓約した。


「勿論です、聖女様。決して二度と危害を加えませぬ」


良かった、とイルン嬢は胸をなでおろす。


違う!こやつ等は敵じゃ!!油断してはならぬ、騙されてはならぬ!!!

もう一度殺意を呼び起こそうとするが、果たせない。

完全に闘争心が萎えてしまっている、これも水の女神達の力か。


イルンはレベッカを殺した、といってもよい騎士が憎くはないのか。

儂にはまったく理解できぬ。

だが、この子は何処かに隠して守るか、どうにかせねば。

焦る儂をよそに安心したイルン嬢はレベッカに抱きついて、ぐすぐすと泣き始めた。

ようやく年相応の顔を見せ始めたか。

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