1-22 ある一家の主②
「口座ぁ?イルンのか?そりゃまたなんで?大金をやりとりするような人間以外必要ないだろう」
それには答えず逆にレベッカに問うた。
「彼女の知っている薬に関する知識を私に預けてみないか?」
「駄目だ、あれはあいつの財産だ。将来身を立てるのに使えるだろう」
即断で拒否されるが、それでも説得を試みる。
「この東方でかね?さきほどいっていたようにギルドの邪魔が入るのでは?」
「じゃあ代官閣下にはなんとかできる、と?」
「私には西方に伝手がある。あちらでは製法を登録し権利を国や所定機関に預け、登録者には税金を通して高額の報酬が支払われる文化がある。その代わりに製法は広く公開され公開範囲も国が決める」
レベッカはほう、それで銀行かと感心している。
「私は今でもこちらの商業ギルドの所属だが、イルンは西方の商工会に登録させる。ギィエッヒンゲンならば自由都市連盟を通じて可能になる」
別に無理強いする気はないが、話を聞いて商人の血が疼いてしまった。
レベッカもどうやら前向きに確認してみようといってくれたことだし、領主との契約も更新したばかりだが、この契約を終えたら皆を連れてヨハンに西で商売をさせてみようか。
「他に領主様から近隣との社交もしておけ、とご指示があった。貴族との社交もできるように家庭教師と社交服を家族全員分揃えねばならんので、ヨハンナ達もそのつもりでいてくれ。土曜日の朝に出発して向こうには3泊する。ヨハンナ、イルンのことは任せる」
私は解散を宣言してから自室に戻ると家令のコンラートに週末から旅行に出る事、私、ヨハンナ、ヨハン、イルン、レベッカ、加えて買い付けの為に侍女二人と荷物運びに下男を一名連れて行くことを伝えた。
他に館の使用人を入れ替えること、次に教育する際には一家に迎えるイルンにも礼を失することは許さない、とも。
ヨハンナ達はイルンのことをうまく説得してくれ、彼女は家族になることを同意してくれたようだ。医薬品についても効き目は他人によって差があるので薄めたり注意してくれればあとは任せるという。
二日後、イルンは私の所にやってくると早速それらのことを口にした。
「その代わり先生のお給料上げてあげて?」
「彼女は断るだろう、利益は君の口座に入れておくから将来私がこの館を出るときに君がお給料を払って雇うといい」
レベッカは公務員だから私がこの職を離れれば関係は無くなってしまうからね、と説明したが彼女にわかるだろうか。
「さて、そんなことより君の年齢をいくつにしようか、ヨハンナとは春生まれの6歳にしようと話したんだが、構わないかな?」
「いいけど、なんで・・・ですか?」
「7歳になると子供時代の節目として盛大にお祝いをするんだ、私たちには一人娘がいたが、祝ってやれなかった。君を代わりにしてすまないができれば娘の7歳の誕生日を祝ってみたい」
誕生日とは別に7歳、12歳、15歳、18歳にそれぞれ節目として各神殿や公機関が開催する生誕祭があり、昔は15で成人扱いだったが、平均寿命が伸びてきた現代では18が成人とされている。
ギィエッヒンゲンでは来年の春に彼女を祝う為の品も揃えねば。
「ところで、ヨハンとは仲良くやれそうかな」
目下残すところの心配事はそれと、近隣貴族との社交くらいなものだ。
「わたしは別に・・・・・いい」
彼女は目をそらして、必要ならうまくやる、という。
付き合いは短いのだが、どうも彼女は幼くして人生を諦めたような節を感じる。
これはよくない。
「ヨハンは頼れる兄になりたいといっていたよ、子供だから間違うこともあるだろうが、辛抱強く接してもらえないだろうか。ヨハンナ達もそうしたように」
「うん・・・・・・」
素直な子だ、これで少し前向きに接してくれるだろうか。
古代の商取引の記録とか読むの楽しいです。
何千年も前に砂漠を越え、海を渡ったり、苦労して運んだのに詐欺にあって悪態をついていたり
大昔から銀行らしきものが存在していたりと




