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森の娘と獣たち  作者: OWL
森の獣
14/212

1-14 転機②

わたしは檻の中で高熱で苦しんでゲーゲー吐いていた。

毒蛇に噛まれ、手首を脱臼し、頬をはたかれ、さんざんお腹に暴行を受けて骨にヒビでも入っている気がする。

うんうん唸って苦しんでいても檻の隙間から棒で黙れ、と小突き回される。

どこかの道を馬車で移動中らしいけれど、幌をかぶされて周りからは見れないし、どうせ正規の奴隷契約書を結ばされたからもう誰も助けられないんだって、さ。


周りの子供達も無表情でこちらを見ないし、誰も助けてくれない。

私語は禁止でしゃべれば棒が突き出される。

食事は必要最低限、糞尿処理が面倒だから。

こんな環境では体調も回復しない、奴隷商人もわたしが死んでも構わないんだろう。


・・・恨んでやる、・・・呪ってやる、・・・祟ってやる・・・・・・


檻の鉄棒を掴んで隙間から時折見える男たちの顔を見て、道中小さく呟き続けた。


檻の中で苦しんで吐いては楽になって気絶して、気が付いてしばらくしたらまた苦しくなってきて吐いて、気絶してを繰り返していたので何日かけて移動しているのかまったくわからないけれど、幸か不幸か衰弱死はせず、すこしづつ熱は引いてきた。栄養状態が最悪なので動ける気はしないけれど。

ある日なんだか空気に変な匂いが混じってきたことに気づいた。

住んでいたところでは一度も嗅いだことのない生臭いような匂い。日がたつにつれどんどん強くなる。なんの匂いだろう。


その日はどこか大きな街についたらしく、周囲の物音がいままでより大きく話し声も活発だ、隙間から除く外の様子もずいぶん発展した街であることが伺える。

ただ、誰も奴隷を運んでいる馬車になんか注意を払っていない。

馬車が停止した先で檻ごと降ろされ、幌も外される、どこかの倉庫内のようだ。


「・・・着いたの?わたしたちはこれからどうなるの?」


男たちはどこかにいってしまったが、見張りが一人だけ残っていてそいつに聞いてみた。


「黙ってろ」


そっけない。


「おじさんだって一人じゃ退屈でしょ。何かしゃべってよ、フィオ達のいるところに売られるの?」


どうせ売られるならフィオ達のいるところがいいけど、恨まれてるかな、他の所の方がいいか・・・・・・。


「フィオ?誰だそりゃ」


やっぱり一人で見張りするのは嫌だったらしい、黙れといった割にはあっさり会話に応じる。


「麓の村の子、冬の間に間引かれたって」


フィオ達の行方を知りたくて聞いてみたが、馬鹿にしたような答えが返ってきた。


「はっ、冬に間引かれたってことは、もう手遅れだ。あんなところに冬の間に寄る商人なんかいない、わざわざ移動するだけで赤字だ。村の人間が処分したんだろう」


びしり、檻の鉄棒を握りしめた手に力を込めた。

・・・そう、まあそんな気はしてたよ。

驚きはしない、恨みを込めた眼をよりいっそう強くして男に向ける。

幌の隙間からも時々見えていた顔だ。


「お、・・・おい変なことは考えるなよ。お前の名前は奴隷契約書に刻んだんだ。反抗したらまた酷い目に遭うぞ」


不気味なものをみるような目でこっちを見ている。

何を怯えているんだろう、大きな体をした男がみっともない。

フィオや村の子供が知っている名前は適当に名乗った名前だし、元の名前もマリーナが適当につけた名前だ。そんな契約書に意味があるかな、内心でせせら笑う。

こんな奴らにお姉様につけて頂いた名前を教えてやることはない。


見張りの男は気味が悪そうにこっちを見ていたけれど、そのうちここにいるのが嫌になったのかどこかにいってしまった。

見張りなのにね、まあ檻に閉じ込められた子供には何もできないと考えたんだろう。


少し待ってみたが戻ってこない、小水に行ったわけでもないらしい。

ぐい、と檻の鉄棒を引っ張って外す。

掴んでいたところからあっさり崩れるようにして引き抜かれた。

いつから使っているのか知らないけれど、腐食して脆くなっていたようだ。

糞尿塗れの手で掴んでずっと握りしめていたら、段々この鉄棒が見た目ほど頑丈じゃないことに気づいていたのだ。いつか機会が来たら壊せないか試してみようと思っていたけど、ようやくその時が来た。

のそのそと這いだしてから、檻の中の子供達を一瞥し、わたしは独りで倉庫の外へ飛び出した。


辺りは暗い。夜だ。

誰にも見つからないように物陰伝いに隠れながら、急いで離れる。

本来なら日常的に山歩きをしていたわたしには十分な体力がある筈だけれど、今の栄養状態じゃたいして移動できない内に力尽きてしまう。

・・・はあ、ちくしょう。あいつら絶対いつか恨み晴らしてやる。。。

二の姉様に聞かれたらおしりひっぱたかれそうな言葉遣いで、男たちを呪った。


ある程度離れたら、食べ物手に入れてどこかに隠れなきゃ。

あいつらが諦めるくらいたくさん隠れられるものがあるところがいい。

大きな街だけあって、夜でもあちこちに灯りが付いているけれど、遠くて人が起こす物音はしない。

聞こえるのは、虫の声と、耳障りな聞きなれない音。

水音?


ぜいぜい息を切らせて、いくつも柵をすり抜けて歩き続け、途中の水瓶に頭を突っ込んでぐびぐび飲み、ようやく隠れるのに適したたくさんの大きな籠が並んでいる所に辿り着いた。

近くの木箱を台にしてよじ登り籠のふたを開けて中に入り込んだ。

とにかく隠れて休みたくてその中に入ったけれど、幸運な事にその籠には小さな木の実がみっしり詰まっていた。

ああ、よかった。

籠の中でそのままぽりぽり食べて、体を大量の木の実の中に深く沈めて眠り込んだ。

イルンスールが汚い言葉使うと反省させられてました

教えたエーゲリーエももちろんあとでこってり絞られます

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