1-11 ある日ある村で
最近村の大人たちが深刻そうな顔で相談している所を何度か見かける。
立ち止まって見ていると子供はあっちに行きなさい、と追い払われてしまう。
村の重い雰囲気を紛らわすかのようにお父さんが、今日は仕事がないので一緒に遊ぼうと山まで連れて行ってくれた。
途中の野原で花を摘んで、お父さんの頭に挿して上げると泣きそうなくらい嬉しそうにしてくれた。
そこまで感激してくれるなんてちょっとびっくり、いたずら半分だったのに。
大分日も傾いてきたけど、いいの?と聞くと今日はお父さんも一緒だからいいんだ、そうな。
お父さんの子供の頃の自慢の秘密基地でかくれんぼしたいんだって。
そろそろ帰りたくなってきたけど、村の男の子達も気に入ってくれる筈だから、今度教えてあげるといい、というのでもうちょっとだけつきあおう。
エルバンや、レオはそういうの好きそうだし、ね。
しんどい思いをして、歩き続け大きな木の倒木や洞がある所に着いた、目的地だって。
ここは確かに凄いね。隠れるところもたくさんありそう。
でも、ちょっとどころじゃなく暗くなってきてるよ?不安な気持ちでそう伝えると、灯りを付ければ平気、お父さんは隠れるからいい子に待ってて、と言われて大人しくじっと待つ。
あっという間に真っ暗闇になった。
お父さんの名前を呼んでも出てこない、周りに何かいるんじゃないかって怖くなって声も出なくなってしまった。
その後はもう何が何だか、大きな狼に囲まれ噛まれ食い殺されてしまうんじゃないかって、泣き叫んだら同じくらいの年ごろの女の子が飛び出してきてとても偉そうな聞いたこともない言葉で狼達を追い払った。
あの瞬間、周囲の温度が急上昇して落ち葉に火がつき始めるんじゃないかってくらい。
髪が真っ赤に燃えるように見えたけど、朝になって見たら汚れてるけど普通の黒髪だった、なんだったのかな。火の玉見たいな子だったね。
助けに来てくれたのかと思ったら、こっちを無視して手慣れた様子で焚火を起こし始めた。
何なのこの子。
でもぶっきら棒なだけで凄く優しくて狼に襲われた傷を治療してくれて、貴重な食べ物を分けてくれた。山を降りるときも急ぎ過ぎないように気を使って段差のある所では手伝ってくれた。
凄く人見知りするみたいで他の子たちに見つかると、さよならっていってすぐにいなくなっちゃった。
最初は物語の主人公みたいに思ったけど、明るい所でみると寒村の貧民よりもみすぼらしい恰好でろくに顔や髪を洗ったこともないみたい。
変な子だった。
家に帰ると、お父さんが先に帰っててとても狼狽していた。
ノラちゃんのおかげで何とも無かったけど、酷い!
お父さんの秘密基地は皆に公開しちゃうんだからね!
次にノラちゃんに会った時は顔も髪も凄く綺麗になっててびっくり。
男の子達が気を引こうとして強い所みせようとしてたけど、逆に引かれちゃってたね。
勇ましいのは別に好きじゃなかったみたい。
男の子の人気をさらわれたアイシャが妬んで、お裁縫が出来ないって聞くと馬鹿にしてたのが感じ悪かった。
秋が深まって冬が近づくと、どんどん家で出される食べ物が減ってきたけど、ノラちゃんが時々食べ物を分けてくれた。
山の偉い人からちゃんと許可取ってるんだって、凄いね!
お陰で私もレオも飢えずに済んで助かっちゃった。前に悪いこといっちゃったな。
雪がちらついてきたので春まで会えないっていってたけど、ほんとに山の上に住んでるんだねぇ。あぁ早く春が来ないかなぁ。
空いたお腹さすりながら、春を楽しみに寝付けないでいると、夜中にお父さんにすいっと抱き上げられる。
どうしたの?と聞くと、レオが起きるからしっと言われた。
凄く怖い顔をしてるので、身をすくめてしがみついた。
同じく怖い顔をしたお母さんが家の外で松明を持って待っていて、お父さんは私を抱えなおして松明を受け取り、そのまま村の外れに歩いていった。
目的地は川むこうにある村外れの小屋だったみたいで、そこにはエルバン兄弟のお父さんがいた。
うちのお父さんはそっと私を降ろすとドアを閉めて黙って出ていってしまった。
私はゆっくり近づいてくる近所のおじさんを不思議そうな面持ちで見上げる。




