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森の娘と獣たち  作者: OWL
森の獣
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1-1 プロローグ 森の獣

「聞いているのですかっ!」


鋭い叱責の声にびくり、とする。

眉間に皺を寄せて叱りつけているのは、白髪が混じった老女。

背筋をしゃんと伸ばしわたしをまっすぐ睨みつけている。


「ご・・・ごめん・・・・・・」なさい、と最後までいうことが出来ず、言葉使いがなってないとまた叱られる。

自分の倍以上もある大きさの大人たちが怒りを漲らせながら囲んでいて、怯えて声がうまく出ないのです。

ちゃんとしつけているのか、と後ろに控えているマリーナにも怒りを飛ばしている。

ああ、ごめんなさい、いいつけを守らなかったわたしが悪い子なのはわかったからマリーナにまで当たるのはやめてください、後の事を想像すると恐ろしくなる。


「いくらいっても聞かないのです」


マリーナがこの子が物覚えが悪いだけだ、と開き直る。


「そのようですね、また舞殿の近くで見かけたと巫女達が噂しておりました」


巫女様達には近づくとしっしっと追い払われるけど、彼女達が舞を舞っている姿は美しく、音楽が聞こえ始めるとつい見に行ってしまう。

薄汚れたボロ切れのツギハギを着ているわたしと違って衣装は色鮮やかで、手に持つ扇は色を幾十にも塗られその濃淡の鮮やかさ艶の美しさはこの世のものとも思えぬほど。


「何度も言いましたが、舞殿にも奥宮にも巫女達にも近づいてはなりません」

「で・・・でもおかーさんが・・・・・・」


きっとまなじりが吊り上がった後、気を落ち着けるようにはっと息を吐いて肩を下げ冷たく宣告する。


「貴方に母はいません、ここにいるのは姉だけです。それも守れないようなら皆には貴方を森に棲む獣として扱う様申し付けます、下がりなさい」


それからマリーナにも言葉や礼儀くらいしっかり教えるようにとお小言を付け加える。


マリーナに連れられて部屋を出る、その際部屋を出るとき、廊下に出るときにいちいち小声で神に浄化の祈りを捧げるよう巫女長様から教えられ早速実践させられる。

神殿の暮らしは何もかも儀式に結びついている。

神は万物に宿り、常に側で行いを見ている、と何をするにしても何処へいくにしても神々にお断りし不浄を持ち運ばないようご加護を祈らなければならないという。

マリーナに山の中を連れられて小屋に戻った。

ここにはわたしひとりだ。

神殿に戻る前にマリーナは最後に声をかけてくる。


「いい?あんたのせいで私まで叱られたんだからね、余計な仕事が増えちゃったじゃない。いいつけを守れないようならご飯減らすわよ」


あれ以上どうやって減らすのだろうか。

わたしの分のご飯までマリーナが食べてしまっているのを知っている。仕方ないので水や木の実や葉っぱを食べてみたけれどお腹を下してしまった。幸い当時の巫女長様がたまたま様子をみに来てお粥を作ってくれたけれども。

優しかったその巫女長様はもう亡くなってしまった、山小屋の近くに実っている甘くて酸っぱい木の果実が無ければわたしも今頃あとを追っていただろう。山と森の恵みに感謝を。


その後も結局収穫祭の準備に勤しみ舞の稽古をする巫女様達や立ち話しているところに近づいたりして何度も怒られマリーナも処置無し、と食事もどんどん雑で少なくなって頻度も稀になっていった。巫女長様は取れるうちに森の果実を取って干して蓄えなさい、という。


懲りずに神殿付近へ忍び込んで盗み聞いた話を集めると、わたしのおかーさんはやっぱり奥宮というところにいるらしい。いつも重たい門で閉じられていて、舞殿の裏手を少し登った岩山の側にある。

奥宮には巫女様達とは違う人たちが閉じ込められていて、外に出ることは許されない、不思議な力が使えるキゾクという人たちらしい。


そのうちとうとう森の獣として扱うことになったようで、皆から近づくと穢れが移る、あっちお行き、と石を投げられる。

慌てて逃げ出すと、四つん這いになって逃げて行くわ、獣みたいだわ、と嘲りの言葉が後ろから聞こえてくる。

人とも獣としても扱わず空気として冷たく無視する人もいる。


収穫祭も終わって、賑わいも減り、空からふわふわとした白い物が降り始めた。

雪だ。

山の中の冬は厳しい、マリーナも雪の中ではわざわざ来てくれない。

夜の寒さは凍えるほどで、今年は火をつけてお湯を沸かし、抱いてわたしをあっためてくれた巫女長様もいない。去年あった防寒具はマリーナに持っていかれてしまった。

体がだるく、あちこちが痛み熱を帯びる日が増えてきた。


むしろを巻いて必死に暖を取ろうとするけど、隙間風が体温を奪う。

恐ろしい光がみすぼらしい屋内を何度も照らし雷鳴が轟く。

その度に命の灯が掻き消えていくようだ。

今日はまた雪が降り始めたようで、いっそう寒さが厳しくなる。

歯の根があわずがちがちと鳴り、手が震える。


「暗いよぅ・・・怖いよぅ・・・寂しいよぅ・・・・・・」


あれほど熱かった体温が下がってきて、あぁ、もう駄目なんだなとなんとなく悟る。


痛む体をなんとか起こし、よろよろと山小屋の外に出て体を引きずるように出ていく。

夜が近づき薄暗くなってきた中、石段を登り、奥宮の近くまで辿り着いたけれど、そこで力尽きて歩けなくなってしまった。

岩の陰に隠れるようにあった窪みに這って身を隠しそこの小さなお社のようなものに軽く、さほどもない体重を預ける。

雪が積もる前にここまでこれて良かった。


「最期にせめて一目だけ・・・、せめて少しでも近くで・・・・・・」


おかーさんに一目会ってみたかった。


体から力が抜けていく・・・。


とうとう力尽きて崩れ落ちる様に倒れ伏した。


・・・あれ、何かにもたれかかっていたはずだけれども、もう考える気力もない。

眩い光の中から誰かが近づいてくる気配がする。おかあさんかな?だったらいいな。


「私はエーゲリーエ、貴方は?」




2018/06/15


久しぶりに見直してみましたが、誤字だらけでしたね・・・

読んでくださっていた方申し訳ない。

何度も推敲していた筈なのですが節穴でした。

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