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土下座その5

 幻聴だったのだろうか?

 耳を澄まして集中しても、もう声は聞こえない。

 いったいなんだったのか……。

「うしゅしゅしゅしゅ。サアサア、カオ、アゲロ」

 相変わらず土蜘蛛様はうしゅしゅうしゅしゅと催促してくるばかりだ。バカの一つ覚えみたいにうしゅしゅしゅと繰り返す土蜘蛛様に嫌気がさしてきた……ん?

 ――催促してくるばかり?

 何かおかしくないか? どうして、すぐに襲ってこないんだ? 土蜘蛛様は腹を空かしている。角ありの亜人も「土蜘蛛様のエサになってくれ」と言っていた。土蜘蛛様の目的は十中八九、俺を食べることのはずだ。

 それなのに、なぜ、エサを目の前に、顔をあげろと催促うしゅしゅばかりしているんだ? 腹を空かしているのだから、すぐにでも食べてしまえばいいじゃないか。俺はウジ虫のようにうずくまっているだけなのだから、造作もないはずだ。なぜ食べない?

 ――食べられない理由があるのか?

 俺を食べるためには、まず俺の顔をあげさせる必要があるのか? だからしきりに「顔をあげろ」と催促しているのか? 顔をあげるまでは直接手を下すことができないのか?

 瞬間、ある仮説が思い浮かんだ。

 ――土下座って、最強じゃね?

 そうだ! そうなのだ! 土下座は最強のフォームだったのだ! なんで土蜘蛛様が襲ってこないのかは全くわからないが、結局、土☆下☆座☆最☆強! ということだったのだ! 土下座の姿勢でいる限り俺は無敵だ! いやっほーい!

「ぷぅ~」

 土下座の素晴らしさに興奮していた俺は、思わず屁をこいてしまった。

 それがどうやら、土蜘蛛様の堪忍袋の緒を切ってしまったらしい。

 土下座をしている時、相手の『怒りメーター』を感知することが重要になる。

 たいてい、最初は怒りのメーターがMAXになっている(もしくは振り切って限界突破している)。そこから、土下座を長時間続けることで、少しずつ、怒りのメーターは下がっていく。

 土下座とはつまり、相手の怒りの熱が冷めるまで、ただひたすら待つ行為と云えるだろう。

 たとえ偉い人に「もう顔をあげてもいいぞ」と言われても、怒りのメーターが下がりきっていない状況で顔をあげてしまうと、許して貰えない。それは孔明の罠であり、罠にひっかかると怒りのメーターは再び上がってしまう。最初から土下座をやり直さなければいけなくなる。

 だから、相手の『怒りの度合い』を感知する能力は、土下座人にとって重要なスキルの一つだ。

 我々土下座人は、声色や口調の強さやの長さやその場の雰囲気を鋭敏に察知して、相手の怒りの度合いを常に推測している。

 そして今、俺の怒り感知能力は、警告を発している。

「うしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゃー!」

 奇声を上げて土蜘蛛様が怒り狂っている様子が容易に思い浮かぶ。

 俺は全速力の土下座匍匐前進で、ケツに火が付いた豚のように、逃げ出した。

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