最終話
――天狗騒動の後日談になる。
俺たちは街に戻った。俺に殴られて大ケガをした村正教授を病院に送りがてら、カマキリじいさんの見舞いに行った。
カマキリじいさんは手に包帯を巻いていたが、相変わらず元気だった。最初はぎこちない様子でクルミさんと話していたが、すぐに元の雰囲気に戻った。
クルミさんは「告白されたくらいで態度が変わる私じゃありませんよ」と言って笑っていた。
カマキリじいさんはもう一日様子を見るために入院するということで、家の鍵を俺に渡してくれた。「どうせいくところなどないのだろう。好きに使え」とぶっきらぼうに言いながら。
俺はありがたく鍵を受け取った。
どうやら、カマキリじいさんに家に住み着く許可はいただけたようだ。これで、この世界でのたれ死ぬことはないだろう。
ただ、俺はもとの世界に戻れるのだろうか? と、ふと思う。
まあ、最悪戻れなくても、いいのかもしれない。俺がいなくても、きっと世界は平和に回るだろう。俺が死んで悲しんでくれる人など、きっといない――。
なんてことをしんみり考えるよりも、今を楽しく生きようではないか。
俺はそんな感じで心機一転、深呼吸をして背を伸ばしながら病院の外に出た。
――すると、空の上に虹が見えた。
おお、これは綺麗だ。おそらく、吉兆に違いない。
俺は虹の輝きに自らの未来の幸運を重ねながら、飛翔する天馬のように軽やかな足取りで、一歩を踏み出した――次の瞬間、叫び声が聞こえた。
「巨大ウミウシが来たぞー! みんな逃げろ!」
叫び声のした方を振り向くと、そこには山のように大きな、『巨大ウミウシ』がいた。巨大ウミウシはノロノロと優雅に這いながら、毎分数センチくらいの速度で動いている。
なんだあれは?
俺がそう思った瞬間、今度はガスが爆発したような爆音が東の山の方から聞こえた。ちょうど、風上の方角だ。
「みんな、ガスマスクを付けろ! ヘドロスカンクが屁をこいたぞ!」
その叫び声のような忠告を聞いた次の瞬間、この世のものとは思えない激臭が俺の鼻を襲――。
そこで、俺の意識は途絶えた。
ああ、この先も、前途多難だ!
俺はこの世界で平和に過ごすことができるのだろうか? 俺は元の世界に戻れるのだろうか?
考えるだけで、腹が痛くなる。
俺は土下座の姿勢のまま、夢の中で、そんなことを考えた。
そして、得たいのしれない『運命』とやらに、土下座をした。
どうか、許してくださいと、許しを請うた。
俺の土下座には力がある。
運命だって、変えてみせるさ。




