表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で俺の土下座が役に立つ  作者: ストレッサー将軍
探せ! ~我らツチノコ探検隊~
42/50

土下座その40


 最初は、地震かと思った。

 しかし、すぐに、違うと感じた。この揺れは、地震の揺れとは違う。普通の地震なら、横とか縦の一方向に揺れるはずだ。少なくとも、揺動ようどう最中さなかにあっても天と地の区別はつくだろう。

 でも、この揺れは、なんというか、ありとあらゆる方向に揺れている。自分の頭が地面に向かっているのか、天に向かっているのか、それすらもわからない。

 そう、これはまるで、巨人でいだらぼっちが巌を掴んで、前後上下左右に振っているみたいな、そんな揺れだ。

 まだ善悪の分別もつかない子供が、虫の入った虫かごを振って、残酷に遊んでいる――そんなイメージが思い浮かぶ。

 俺は虫かごの中の小さなウジ虫そのものだ。無抵抗に、ただ揺さぶられ、もてあそばれている。

 あまりの揺れの激しさに、三半規管が早々にイカれた。気持ち悪くなって、我慢する余地もないほど流滑りゅうかつに吐いた。嗚咽おえつが止まらなくて、涙や鼻水やよだれや胃液といった汁という汁をまき散らした。さらには耳からも汁がでてきた。なんだこれは、耳汁か? そんな些末な疑問も、激しい揺れによってすぐに消し飛んだ。

 死ぬと思った。いや、死んだと思った。もはや、死んでいると思った。

 三途の川が見えた。橋の向こうにいる懸衣翁けんえおう奪衣婆だつえばの姿も見えた。この橋を渡って、あの鬼のような懸衣翁と奪衣婆に衣を剥がされ、衣領樹えりょうじゅの枝にそれをかけられたら終わりだと思った――。

 懸衣翁? 奪衣婆? なんだそれは? 俺はいったい、何を言っているのだ? そんな言葉、初めて聞いたぞ? なぜ、初めて聞く言葉を自分の口から聞いたんだ? 誰の記憶だ? 誰の知識だ? 俺は知らないぞ?

 自分の知らないはずの知識や記憶さえも、脳が創り出してしまうほどに、俺の脳みそは今、激しくシェイクされているみたいだ。

 脳が混線を繰り返す。

 今ならば、生まれる前の記憶や未来の記憶でさえも、思い出せる気がした。

 懸衣翁と奪衣婆がこっちへ来いと、まねいている。

 俺は、このままでは本当に”戻れなくなってしまう”と思った。

 だから、俺は許しを請うために、土下座をした。

 懸衣翁と奪衣婆に向かって、ただひたすらに、土下座をした。

 その土下座が通じたのか、急に揺れが止まった。俺は挟まっていた巌の隙間から放り出され、目映い黄金の上に背中から落ちた。

 助かった。

 俺は安堵した。ふと、右手を見ると、そこにはキンノコがしかと握られていた。あの激しい揺れの中、よくもまあ手放さずにいられたもんだと思い、感心した。

 俺は立ち上がろうと思ったが、まだ、酔いが続いていた。目眩がして、平衡感覚が麻痺している。立ち上がるのは、無理だった。今もまだ、天井は激しく回転している。

 とりあえず、顔にベターっとついた、ゲロや涙や涎のまざった汁を、拭こう。そう思い、左腕のスーツの生地を使って、顔を拭いた。

 そのときだった。

 急に、星が見えた。

 星は激しく回転している。よくある天体写真のように、星の軌跡が線状に見える。

 え? なぜ星が見えるのだ? 

 そう思った矢先――今度は巨大な天狗の顔が見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ