土下座その39
目映い――。
あまりの輝度に目が眩む。
激しい光を遮るために、俺の瞳孔が縮まり、明順応が起きる。もうこれ以上縮まることができないほどに、瞳孔が小さくなる。ギチギチという瞳孔が圧縮される音が聞こえるかと思うほどに、光がしぼられる。目がギンギン痛い。もうこれ以上しぼれない。これ以上瞳孔をしぼれば、目が壊れてしまう――。
俺は我慢できずに、目を閉じた。
一瞬しか見えなかったが、今目の前に広がっているのは、紛う事なき黄金郷だった。
直径五メートルほどの広い空間が広がっていて、その一面が黄金だった。黄金は、俺の体に付いて来た、わずかなホタルきのこの光を乱反射し、増幅させて、激しく光っていたのだ。
村正教授の話を思い出す。
黄金には、『同体性』という性質がある。同体性とは、別の個体でも自分と同じだと思う性質のことだ。そして、黄金の輝度は、黄金の量に比例して強くなる。大きな黄金の輝度は強く、小さな黄金の輝度は弱い。黄金の輝度を量るために、”ある生き物”の目玉を使う。目玉にある瞳孔は、光の強弱によって広まったり縮まったりする。光が強いと瞳孔は縮まり、光が弱いと瞳孔は広がる。その性質を利用して、輝度を量ることができ、さらには黄金の埋蔵量を推量することができる。
今ここに、どれほどの黄金が埋蔵されているのかわからないが、少なくとも、人間の瞳孔では量れないほどに大きな量の黄金があることは確かだ。
さて、どうしたものか。
俺はどうにか目の前の広い空間に抜け出せないかと思い、体をもぞもぞさせた。しかし、ぴくりとも動かない。どうにか手だけは広い空間に出せたので、何かつかめる物はないだろうかと思い、俺はもう一度、一瞬だけ目を開けた。
すると、目映い黄金に混ざって、一匹のキンノコがメトロノームのように左右に動いているのが見えた。キンノコはがじがじと黄金を食べて、ぷわぷわと黄金の胞子を飛ばして、増殖を始めた。
一匹が二匹に増え、二匹が四匹に増え、四匹が八匹に増えた。
目が痛くなったので、また目を瞑った。
目の奥がギンギン痛い。目眩がして、頭がくらくらする。
俺は数分間休んでから、もう一度目を開いた。
すると、キンノコはすでに百匹を超えるほどに増えていた。そのうちの数匹は、俺の手の届く距離にいた。
俺はチャンスだと思い、キンノコに手を伸ばした。
――よし、捕まえた。
キンノコを捕まえた確かな感触と共に、目を瞑った。
大丈夫。見えないが、手の感触が確かだ。俺の手には今、キンノコが握られている。その、確かな感触がある。
――目に見えないものを信じるには、手を伸ばして触れるしかないのだ。
ただ盲目的に信じることなどできない。目に代わる、確かな感触がなければ、信じるなんてできやしない。それが人間だ。
俺はそんなことを思いながら、再び右手に意識を集中した。右手の中で、キンノコがうようよ動いて暴れている。
無駄な抵抗をするな――と思った次の瞬間、地鳴りがして、巌が激しく揺れた。




